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東京交通新聞1月11日インタヴュー記事(定額運賃制タクシー)

公開日: : 最終更新日:2023/05/20 ライドシェア, 東京交通新聞投稿原稿, 配車アプリ

寺前教授インタビュー

3機能に分化する運送業
 ――現在、タクシー事業は外資の白ナンバー自家用車ライドシェアによって、そこにある存立の危機にさらされています。タクシーへの白ナンバーの脅威は自家用運行管理請負業がハイヤー業を侵食した時が1回目、自家用有償運送が登録制になった時が2回目、今度はタクシー事業そのものにとって代わる動きとなっています。今回の脅威をどう受け止め、どういう構えを取るべきでしょうか。
 寺前氏 運送行為は、施設車両管理、職員ドライバー管理、顧客管理の3分野に機能分化してきています。例えば、船、航空機では、機材リース会社、職員派遣会社、集荷集客業会社に分かれて、それぞれが発展し、それを統合する形で運送業を形成しています。しかも、グローバルネットワークを形成するため、共同運航、コードシェアを実施しています。
 地域の自動車運送も、この動きに無縁ではありません。車両を管理提供するビジネス、運転者を管理派遣するビジネス、集客・顧客管理を専門に行うビジネスがそれぞれ発展するのは当然です。その動きの中で、レンタカー、運転代行などが社会のニーズに応えて登場してきたのでしょう。「青」が機能分化することにより、「白」っぽいものが活躍するようになってきているのです。

営・自に関わらず安全規制は強化の方向
 ――安全・安心がどう担保されるかが重要です。
寺前氏 社会からの安全性確保の要望に応えるため、運転者の労務管理も求められています。自家用の位置づけである運転代行のドライバーは、営業用のドライバーと差がありません。むしろ海外では、自家用、営業用の区分なく、バスなどの長距離運転は、規制が強化されていますから、いずれ日本も、営業・自家用に関わらず、安全運転義務が強化されると思います。自動運転もその延長にあるのです。
 日本のタクシー、特に大都市のタクシーは「流し営業(street・hiring)」が中心ですから、先に述べた運送行為の機能分化が発生しにくいところであったわけです。しかし、スマホの登場で、その状況も大きく変わる可能性が出てきました。ロンドンでは、個人タクシー中心のブラックキャブは流し営業を行うものですから公共交通に準ずるものの扱いを受けていますが、ミニキャブは流しを行わないので、自家用扱いです。従ってスマホ配車ニーズが高まったのです。
 有償運送、無償運送の概念区分も、観念的なのものです。社会経済的に無償ということはあり得ないからです。従って「直接の対価を得るか否か」とされるのです。昔は、ホテルの無料送迎バスまで違反だと行政管理庁から指摘されていましたが、今そんなことを言ったら、逆に社会的に非難を浴びてしまうでしょう。Google(グーグル)のビジネスモデルは、一般の人々に有償無償概念をあらためて意識させてくれました。Googleタクシー構想です。無償タクシーサービスを提供し、広告や物販店への誘客を行うビジネス構想です。
 配車アプリの活用など、世の中の大きな動きはいずれ地域の隅々に及びます。タクシーも無縁ではあり得ません。時期はずれるかもしれませんが、いずれ影響してくると思って心構しておく必要があります。
※見出し=旅行業を活用して利便確保を
 ――全国各地のタクシーが登録されたタクシー検索予約サイトが自家用車ライドシェアの防衛策、あるいはタクシー業界が自ら行う青ナンバーによるライドシェアの役割を果たせるのではないかと思われます。安全・安心の見地から、青ナンバーのライドシェアをどう構築していけば効果的でしょうか。
 寺前氏 タクシーは、運送法では「貸切」運送ですから、「乗合」概念の「ライドシェア」とは調和しないものです。タクシーがライドシェアを実施しようとすれば、乗合タクシーの許可を得て行うか、旅行業法を活用するしかないはずです。
 この「貸切」運送を実質「乗合」に変換するのがパック旅行です。赤の他人が空港等で一つの団体にまとめられるからです。今ではスマホを活用すれば簡単にパック旅行に組み立てられます。タクシー業からトランの提供する、らくらくタクシーに期待されている根拠もそこにあるのではないでしょうか。
 現状では、らくらくタクシーは手配旅行商品として提供されていますから、次に述べるように、報酬などとの相殺による手法で定額サービスとして提供されています。パックのような弾力性はありませんが、利用者への定額サービスとしての利便性は確保されています。

全く合法の定額運賃検索
 ――タクシー検索予約サイトで使用される定額制運賃は、認可制運賃と異なるため違法性があるとの疑念がよく発せられます。旅行業法と道路運送法とがどう関連してくるか分からないため起こる誤解と思われますが、違法性はないのか、あらためてお伺いします。
 寺前氏 違法性は全くありません。誤解している人がいますので説明しておきます。タクシー運賃は運送契約締結前に運賃額が決定していないという、公共交通の中では特殊な形態になっています。バス、鉄道等では「確定運賃」制度が常識的です。タクシーは、行政運用で、時間併用制が採用されているところから、空港アクセスなどを除き、確定運賃制度は採用されていません。道路ネットワークが完成した今日、利用者利便の観点からは、時間併用制の廃止も視野に入れなければならないと思います。
 現状においてタクシー実運送段階での確定運賃制度の実施が困難なところから、旅行業に基づくサービスとしての定額サービスが提供されています。実施にあたって、道路運送法を所管する行政担当部署の意見を求めたところ、利用者とタクシー会社の間で運送契約が締結されている「手配旅行」の場合は、実利用者とタクシー会社の間ではメータ運賃であるとして処理すれば合法であり、旅行業者の報酬、販売促進費などが相殺された結果の定額サービスは、旅行業法などの問題であるとの解答を得ています。その趣旨は、全国の運輸局の担当者にも伝達されていると聞いています。現在提供されている「らくらくタクシー」のほか、「たくあしくん」「UberX」もこの手配型の定額サービスですから、制度として定着していると思います。
 定額サービスのもう一つの形態は、パック型の旅行商品として提供されるケースです。タクシーサービスが宿泊や鉄道と組み合わされて、独自商品として販売される場合は、道路運送法や鉄道事業法の適用はありません。従って、パック用の自動車、鉄道運送の約款や運賃制度も存在しません。日本の場合は、欧州と異なり、単品パックが認められています。「ぷらっとこだま」と同様にタクシーの単品パックが販売されています。「Uber BLACK」がその代表です。運賃額が自由に設定できます。この法運用は属地主義ですから、海外、例えば中国で締結されパックで日本国内のタクシーを利用する場合は中国の旅行業法制度によることとなります。インバウンド旅行者が急増している今日、この形態も増えるでしょう。

タクシー活性化策の一役に
 ――寺前教授は2001年本紙発刊の著書「モバイル交通革命」で、タクシーは総合生活移動産業を目指すべきといち早く提唱され、携帯(現在スマホ)で呼べる定額制タクシーの登場を予想されました。それから15年。総合生活移動産業のコンセプトは国土交通省のタクシービジョン報告書に採用され、スマホで呼べる全国タクシーアプリ配車も登場しました。その背景にはICT技術の進展があります。今後10年、ICT技術はタクシー・バスなどの地域公共交通をさらにどのように変革していくとお考えですか。
 寺前氏 2001年に東京交通新聞社から「モバイル交通革命」を出版させていただきました。絶版になりましたが、今でも私のホームページである人流・観光研究所(www.jinryu.jp)から無料でダウンロードできます。当時は、GPSが精度が悪く実用的でありませんでしたが、今では精度も向上した結果、スマホに標準装備され、位置情報サービスが当たり前のように提供されています。
 位置情報が取れるということは、距離が自動計算されますから、目的地が決定されていれば、定額運賃サービスが可能であるということです。私が「モバイル交通革命」で提案させていただいたのは、それを超えた「乗り放題サービス」を提案したのですが、日本のタクシーの場合、その手前に定額運賃サービスが位置付けられるのでしょう。
 らくらくタクシーも、たくあしくんも、タクシー会社単独ではできないサービスを提供しています。乗り放題タクシーの全国展開などタクシー会社が単独ではできないサービスをどんどん出し、タクシーの活性化に一役買うことが期待できます。
 総合生活移動産業は、人の移動に関するビッグデータ取得分析が簡便にできるようになることろから発想したのです。物流で言えば、「サードパーティ・ロジスティックス」です。その後私は物流に対抗して「人流」を提唱しています。総合生活移動産業は「サードパーティ・ヒューマン・ロジスティックス」と位置づけています。タクシー事業者が総合生活移動産業の担い手になれるかは、これからのビジネス展開の仕方によると思っています。担い手が発生しない地域は、地域自体が衰退していくでしょう。
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