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二月五日チームネクスト総会講演「総合生活移動産業の今後の展望」(45分)趣旨 人流・観光研究所長 寺前秀一

二月五日チームネクスト総会講演「総合生活移動産業の今後の展望」(45分)趣旨
人流・観光研究所長 寺前秀一

『モバイル交通革命』(東京交通新聞社発行)上梓から15年、『ユビキタス時代の人流』(システムオリジン発行)上梓から5年、いずれも人流観光研究所・ホームページにアップされている(www.jinryu.jp 前者は無料、後者は有料)。

『モバイル交通革命』上梓時の最大の問題点は「位置情報」デバイスの普及であった。「i-mode」の次の標準装備ツールとしてGPSを主張したが、結果的にデジカメが普及していった。その後、より精度の高い位置情報が公開されたGPSが標準装備されるようになったことと相まって、スマホが普及し、現在では、wifiの普及も貢献して、地下、高層ビル等での位置情報も取得可能となり、「どこからでも車が呼び出せる環境」へと近づいてきている。このことは世界中の大都市においても、同様の状況になってきている。

海外の大都市と日本の大都市のタクシーの大きな違いは「流し営業」の在り方とそれに対する「車庫待ち営業」の在り方の違いである。日本は両者を法律上は区分せず、行政運用上区分しているに過ぎないが、海外においては必ずしも日本と同じ制度とはなっていない。ロンドンのように、「車庫待ち」は公共交通機関とは認められず、自家用車と同じ扱いになっていることもある。この車庫待ち営業は事前に顧客情報が入手でき、サービス内容も事前に確定できることから、スマホ配車の普及が進展しやすい環境にある。

日本、特に東京では高度な流し営業サービスが普及しており、その分、スマホ配車の必要性が低い状況である。しかしながら、スマホ配車の普及した海外からの利用者にとっては、自国でダウンロードした使い慣れたアプリによる配車サービスは、キャッシュレス化、言葉の障害を乗り越えた利点があり、東京オリンピックを迎えるにあたって、そのニーズも高まってくると考えられる。世界最大の人流大国なることが予想される中国では、スマホ配車が当たり前の時代でもあるからである。

スマホ配車の利点に、事前に運賃を確定できる点があげられる。ロンドンではむしろ事前に決定しなければならないこととなっている。流し営業を主体とした日本では、時間距離併用のタクシーメーターを前提としており、公共交通機関としては、一部を除き例外的に確定運賃制度となっていない。そのため、旅行業法を活用して、確定額運賃サービスの提供が、「たくあしくん」、「らくらくタクシー」「uber」によって提供されている。

UberやAirbnbの登場でライドシェア、ルームシェア等が話題になっている。社会経済が進展し、施設等が飽和状態になれば、情報通信手段を活用して、シェアリング経済が発展するのは必然である。海運や航空で、NVOCCやDHL等といった混載サービスが急速に進展したのもそのことによる。日本で宅配便が発展したのも同様である。その結果、道路運送自体が改正された。それまでは、地域トラック(貸切バス、タクシーに当たるもの)は混載が禁止されていた。それで物流合理化などできるはずもなかった。

構造改革特区構想において、自家用自動車のライドシェアが話題になっており、既存業界も危機感を持っている。しかし、営業用運送サービスが成り立たない市場である地方を前提にする以上、ライドシェア以前の問題である。むしろ「無償サービスのビジネスモデル」を考えたほうが現実的である。軽自動車税や病院、コンビニの広告費等をもとに、無償での事業を検討したほうが現実的である。無償であれば、道路運送法の問題は発生しない。

私が『モバイル交通革命』で提唱したのは、使い放題定額制ビジネスモデルの普及である。インターネットや携帯料金、通勤鉄道料金は、月極定額制によって普及した。CATVや町のコーヒースタンドにまで、月極定額制が普及してきている。タクシーも月極使い放題制にすることにより、新たなビジネス展開ができるのではないかと考えたのである。普及するどころか、顧客情報を把握することにより総合生活移動産業に脱皮できるのではないかと考えたのである。

今度福岡市で月極乗り放題のジェロンタクシーの実証実験が開始される。限定的ではあるが、私がこれまで主張してきた乗り放題タクシーの最初の試みである。これを実施するにあたり障害になっていた、パック旅行に係る特別補償制度に関する旅行業約款の改正ができた。約款の問題であるから、創意工夫を身上とする旅行業において、一般標準約款がむしろその阻害になっていたことは皮肉なことである。

乗り放題であるから、自宅と病院、買い物店の間を何度も往復するのであるが、在宅時の事故等の補償をどう取り扱うかが焦点になった。保険料の問題ともいえるが、一応、在宅時の事故を除外することが可能な約款となっている。この新しい約款を活用すれば、新しい定額乗り放題サービス商品をいくらでも生み出すことが可能となる。まさに旅行業者、あるいはタクシー事業者の創意工夫が期待されるのである。この旅行業法の約款の弾力化については、日本観光学会論文集57巻に記述しているが、人流・観光研究所ホームページにもアップしてある。総合生活移動産業の幕開けである。物流(ロジスティックス)に匹敵する、サードパティ・ヒューマン・ロジスティックス(3PHL)の幕開けである。

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