*

貸切と乗合の相対化~BRIDJ、Kutsuplus、Maaxi等の発生~

公開日: : 最終更新日:2023/05/20 ライドシェア, 配車アプリ

乗合(a shared journey)と貸切(an exclusive journey)の相対化は私には古くて新しいテーマです。

①まだ二十代後半の大阪陸運局勤務の頃、大阪では当時で言えばどちらかというと労働組合幹部やマルクス経済学者の先生を中心に、ジット二―構想が提唱されていました(今日では労働組合系の人達は否定的な対応ではないかと思います)。マニラではジプニ―という小型の乗合バスが都市交通を担っていたものですから、大阪でも小型のバスを導入して弾力的に乗客を集めようと言うアイデアでした。今でいえばBRIDJ(ボストン)やKutsuplus(ヘルシンキ)に近い発想ですが、勿論スマホどころか携帯もありませんでした。

当時親しい日本経済新聞社の記者さんがいましたので、大阪陸運局でも前向きに考えているというような話をして、関西版の夕刊記事になったようなこともありましたが、業界主流にはまだまだ理解されていない時代でした(MKタクシーの運賃問題でそれどころではなかったような時代でもありました)。このときに道路運送法の歴史を知り、乗合と貸切の峻別制度と、タクシーでも乗合バスでもない、貸切自動車運送事業(行政分類上の概念)への乗合(契約上の概念)の許可を行う乗合タクシーという制度を理解したのです。この乗合タクシーは道路運送法が想定していなかった事業形態を、法の隙間を突いて認めたものですが、ロンドンのminicabも交通法の隙間を突いた形で成立したと報告されていますから、人間社会はどこも似たようなものなのかもしれません。尊敬する角本良平博士は、ジプニーのような乗り物は途上国の交通制度が未発達な地域では成立するが、成熟した交通市場では成立しないのではないかというような感想をのべられていたことも思い出します。

②次に乗合と貸切のテーマに本格的に取り組んだのは、2000年頃の情報管理部長時代です。これまでの交通市場が不特定多数と特定少数に区分されていましたが、インターネットの発達は新たに「特定多数」集団の存在を可能にし、公共交通という概念もみなおさなければならないと『モバイル交通革命』の中で主張させてもらいました。今日では「特定多数」のことをビッグデータと言うようですが、多数概念は昔からあったわけで、ビッグデータもデータの巨大性というよりも、個々のデータの特定概念に意味があるような気がしています。また貸切と乗合は利用者と運送者の自由意思に基づく契約概念ですから外形的な判断基準がないことにも気をつけておく必要があります。タクシー乗り場で偶然同じ方向に行く利用者がにわかに集団としてタクシーの利用者になれば貸切ですが、バラバラに契約すれば乗合です。maaxiの説明に、”share a ride, split the bill” とありますが、日本人の苦手な冠詞の使用がわかりやすく出ている表現で、貸切は”a ride”なのですね。

③2007年に立教大学から博士の学位をいただきましたが、博士論文のテーマは「日常と非日常の相対化」でした。観光は日常生活圏を離脱して非日常体験をすることですが、その日常、非日常が相対化しており、特に法制度においては区分がなくなってきていることを分析しました。定期的な需要には乗合市場が、不定期な需要には貸切市場が形成されるのですが、情報手段の発達によりパック旅行の最低催行人員が少数化し、間際予約も一般化していることから、定期・不定期、乗合・貸切が相対化していると分析し、運送法制度の見直しを示唆しました。

④今世間ではUberやHailoといった配車アプリに話題が集まっています。チームネクストのメンバーを中心に、2015年3月にロンドンにビジネスの提携ができないかという調査に行く予定があり、私も参加させてもらうつもりです。配車アプリはまさに、貸切、乗合の壁を技術的には完全に取り払える道具になっていますが、制度が追い付いていません。その中でもDRIDJやKutsuplusは実施に移されています。地域の実情に応じて実施すれば需要があるということでしょう。ロンドンではUberへの対抗策からMaaxiが提案・実施されているようです。40年前に興味を抱いたジット二―構想がスマホを道具に実施されるということのようですが、今回の調査でこれらの情報が手にはいれば、日本でも交通市場の再編が実施される地域が発生するかもしれません。そのためにも、欧米のように地域の交通問題は市町村長が判断できる体制が必要です。あらためて地方分権が必要だと痛感する次第です。

 

関連記事

🌍🎒 🚖シニアバックパッカーの旅 動画で見る世界人流観光施策風土記 2016年11月2日 チームネクスト合宿 in ニューヨーク 2日目 夜のバスツアー 

旅行の手配をしてくれたJTB職員の勧めで、夜のニューヨーク観光バスツアーに参加した。

記事を読む

ニューヨークのタクシーから予測すること ロボットタクシーよりも外国人運転者

VOAのニュースで、2016年4月の市議会で、外国語で与えられるべきタクシーライセンスを取得

記事を読む

運送機能(施設提供、労働者派遣及び集荷集客)の分化に逆行する道路運送法解釈

金沢学院大大学院で非常勤講師の教鞭をとったのが気象庁次長時代の2001年。五千円以上の報酬を受け取ら

記事を読む

no image

『日本のタクシー産業』(太田和博等編著)の読後感想 

表記著作物は日本交通学会で表彰されており、目を通してみたが、 タクシー協会関係者を交えた勉強会をも

記事を読む

no image

白タクに関する記事の増加と、中国人の素朴な疑問(なぜ白タクがいけないのか?)

白タクに関する記事が増加している。日本のマスコミは付和雷同型の記事を書くから、誰かが情報操作に成功す

記事を読む

侮辱されたUber運転手の報道と欧州での訴訟報道

CNNは、NYPD警官がアメリカに来て2年のUber運転手を侮辱しているニュースを流しています。NY

記事を読む

New 3PHL(Third party human logistics)  Transport app Moovit has arrived in Australia(http://mashable.com/2015/03/30/transport-app-moovit-australia/#:eyJzIjoiZiIsImkiOiJfeW80dTUya2M5cGVmdG95dSJ9)

ロンドンではタクシーの配車アプリを調査して、つくづく3PHL(サードパーティ人流)の時代が来ていると

記事を読む

中国における配車アプリの動向

今後の外国人旅行者の増大を考慮すると、中国における配車アプリの動向は日本も無視できない影響力をもつも

記事を読む

November 4, 2016   Survey report No.4 on taxi dispatch application and tourism advertisement in New York by Japanese taxi business CEOs

◎ Taxi & Limousine Commission  In the morning, we

記事を読む

中島洋『エネルギー改革が日本を救う』(日経BP社)を読んで、配車アプリを考える

昨日2015年3月25日夜、古い友人の中島洋氏と大門近くの居酒屋でお会いした。その時に日経BP社から

記事を読む

PAGE TOP ↑