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貸切と乗合の相対化~BRIDJ、Kutsuplus、Maaxi等の発生~

公開日: : 最終更新日:2016/11/25 配車アプリ

乗合(a shared journey)と貸切(an exclusive journey)の相対化は私には古くて新しいテーマです。

①まだ二十代後半の大阪陸運局勤務の頃、大阪では当時で言えばどちらかというと労働組合幹部やマルクス経済学者の先生を中心に、ジット二―構想が提唱されていました(今日では労働組合系の人達は否定的な対応ではないかと思います)。マニラではジプニ―という小型の乗合バスが都市交通を担っていたものですから、大阪でも小型のバスを導入して弾力的に乗客を集めようと言うアイデアでした。今でいえばBRIDJ(ボストン)やKutsuplus(ヘルシンキ)に近い発想ですが、勿論スマホどころか携帯もありませんでした。

当時親しい日本経済新聞社の記者さんがいましたので、大阪陸運局でも前向きに考えているというような話をして、関西版の夕刊記事になったようなこともありましたが、業界主流にはまだまだ理解されていない時代でした(MKタクシーの運賃問題でそれどころではなかったような時代でもありました)。このときに道路運送法の歴史を知り、乗合と貸切の峻別制度と、タクシーでも乗合バスでもない、貸切自動車運送事業(行政分類上の概念)への乗合(契約上の概念)の許可を行う乗合タクシーという制度を理解したのです。この乗合タクシーは道路運送法が想定していなかった事業形態を、法の隙間を突いて認めたものですが、ロンドンのminicabも交通法の隙間を突いた形で成立したと報告されていますから、人間社会はどこも似たようなものなのかもしれません。尊敬する角本良平博士は、ジプニーのような乗り物は途上国の交通制度が未発達な地域では成立するが、成熟した交通市場では成立しないのではないかというような感想をのべられていたことも思い出します。

②次に乗合と貸切のテーマに本格的に取り組んだのは、2000年頃の情報管理部長時代です。これまでの交通市場が不特定多数と特定少数に区分されていましたが、インターネットの発達は新たに「特定多数」集団の存在を可能にし、公共交通という概念もみなおさなければならないと『モバイル交通革命』の中で主張させてもらいました。今日では「特定多数」のことをビッグデータと言うようですが、多数概念は昔からあったわけで、ビッグデータもデータの巨大性というよりも、個々のデータの特定概念に意味があるような気がしています。また貸切と乗合は利用者と運送者の自由意思に基づく契約概念ですから外形的な判断基準がないことにも気をつけておく必要があります。タクシー乗り場で偶然同じ方向に行く利用者がにわかに集団としてタクシーの利用者になれば貸切ですが、バラバラに契約すれば乗合です。maaxiの説明に、”share a ride, split the bill” とありますが、日本人の苦手な冠詞の使用がわかりやすく出ている表現で、貸切は”a ride”なのですね。

③2007年に立教大学から博士の学位をいただきましたが、博士論文のテーマは「日常と非日常の相対化」でした。観光は日常生活圏を離脱して非日常体験をすることですが、その日常、非日常が相対化しており、特に法制度においては区分がなくなってきていることを分析しました。定期的な需要には乗合市場が、不定期な需要には貸切市場が形成されるのですが、情報手段の発達によりパック旅行の最低催行人員が少数化し、間際予約も一般化していることから、定期・不定期、乗合・貸切が相対化していると分析し、運送法制度の見直しを示唆しました。

④今世間ではUberやHailoといった配車アプリに話題が集まっています。チームネクストのメンバーを中心に、2015年3月にロンドンにビジネスの提携ができないかという調査に行く予定があり、私も参加させてもらうつもりです。配車アプリはまさに、貸切、乗合の壁を技術的には完全に取り払える道具になっていますが、制度が追い付いていません。その中でもDRIDJやKutsuplusは実施に移されています。地域の実情に応じて実施すれば需要があるということでしょう。ロンドンではUberへの対抗策からMaaxiが提案・実施されているようです。40年前に興味を抱いたジット二―構想がスマホを道具に実施されるということのようですが、今回の調査でこれらの情報が手にはいれば、日本でも交通市場の再編が実施される地域が発生するかもしれません。そのためにも、欧米のように地域の交通問題は市町村長が判断できる体制が必要です。あらためて地方分権が必要だと痛感する次第です。

 

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