*

『日本のタクシー産業』(太田和博等編著)の読後感想 

公開日: : 配車アプリ

表記著作物は日本交通学会で表彰されており、目を通してみたが、 タクシー協会関係者を交えた勉強会をもとにしている割には、 想像通りきちんとした制度的理解がないまま解説分析されている。商学系統の研究者の限界なのかもしれないが、一応論評しておく。

p.2「日本タクシー政策にはありがたくない点がある。それは誰でも簡単に論評できることである。」「専門外のものが政策に影響を与えてゆがむことがある」「正確な情報の共有である」という記述に、やや思い上がりが見える。物流と比較すれば、人流は極めて単純である。

著作に中でロンドンのタクシーを取り上げない理由を述べているが、英米のコモンキャリアの歴史をあえて無視したかの、全く理解していないであろう。そのことは、ハイヤーとタクシーのデマケに対する認識不足にもつながっている。バスが衰退して、公共交通にようやくタクシーが制度的に加えられるようになってきたが、それもほんのつい最近のことである。

自家用車の共同使用が道路運送法では規制されている。歴史的には無償運送事業も規制され、特定旅客自動車運送事業も規制が厳しかった。これらは、すべて、タクシーではなくバス、つまり英米法でいうコモンキャリアを保護するためであった。さすがに英米どころかわが国でも、規制は撤廃ないし大幅緩和された。納税にさほど寄与しない産業と、巨額の自動車関係諸税を負担する自家用車では、社会的な影響力にも大きな差が出るのは当然である。

スマホの普及により、自家用車の共同使用的な形態が、きわめて簡便になってきている。昔の不特定多数と特定少数という二項対立が小さくなり、むしろ特定多数が簡便に処理できるのである。コモンキャリ概念を持ち出さなくてもよくなっているところが、ロンドンなどのライドシェなのである。本書では、ロンドンのブラックキャブのナレッジ制度に目が奪われて、ミニキャブの存在に関心がいかなかった。目を奪われるならロンドンは個人タクシーであることを強調した方がいい。ニューヨークには目が行ったが、ハイヤーに相当するブラックカーや、営業区域限定のグリーンキャブへの注意が不足していた。日本の制度への理解が不足しているからそうなるのであろう。

結論的な部分が最後に記述され、国の一律行政を否定している。その限りでは大賛成である。問題は「タクシー独立行政委員会」の提言であり、冒頭に触れたように、商学系統の研究者にはタクシーの法的理解不足が影響している。日本では自動車旅客運送は、乗合と貸切があり、乗車定員で乗用を範疇化している。これを乗用だけ切り離してどうするのであろう。コモンキャリア―はむしろ乗合であり、乗合を含めて、というより中心にして地方分権化するべきであろう。

関連記事

no image

生産性向上特別措置法(規制のサンドボックス)を必要としない旅行業法の活用

参加者や期限を限定すること等により、例えば道路運送法の規制を外して、自家用自動車の有償運送の実証実験

記事を読む

🌍🎒 🚖シニアバックパッカーの旅 11月3日 チームネクスト合宿 in ニューヨーク 3日目

外が明るくなってきてきてから、散歩に出かけた。かねてより行ってみたかった、プラザホテルの中を見学。や

記事を読む

Chicago TAXI APP 米国自治体が公式タクシーアプリを採用した例

http://chicagoinno.streetwise.co/2016/01/04/chicag

記事を読む

no image

「相乗り」「乗合」ライドシェア及びタクシー乗り放題制度(「タクシー定期券」)に関する大いなる誤解

2001年『モバイル交通革命』を出版したときに、乗り放題制度を提唱し、その前提にはライドシェアを置い

記事を読む

Yellowcabの危機から発したタクシーアプリ?Taxi-hailing app takes on Uber with a new weapon Curb, owned by Verifone, will debut its new feature in April

Technology NEWS › TECHNOLOGY March 23, 2016 Update

記事を読む

乗り放題航空サービスの記事

乗り放題航空サービスがonegoにより始まった。過去にもこの種のサービスが行われてきた。日本でも全日

記事を読む

🌍🎒 🚖シニアバックパッカーの旅 チームネクスト・モスクワ調査(9月8日~12日)①(市内視察) 

承前 チームネクストによるモスクワのライドシェア調査の帰りに、折角だからウクライナのチェルノブイリ

記事を読む

no image

東京交通新聞1月11日インタヴュー記事(定額運賃制タクシー)

寺前教授インタビュー 3機能に分化する運送業  ――現在、タクシー事業は外資の白ナンバー自家

記事を読む

no image

ロンドンの観光ガイド付きレンタカー

ロンドンの観光ガイド付きレンタカーがネットに取り上げられていた。 運転手付きレンタカーの制度比較を

記事を読む

no image

自動運転車とドローン

渋谷のスクランブル交差点を見ていると、信号が青の間の短い時間に、大勢の人が四方八方から道路を横断して

記事を読む

no image
2025年11月25日 地球落穂ひろいの旅 サンチアゴ再訪

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

2025年11月22日地球落穂ひろいの旅 プンタアレナス

旅程作成で、ウシュアイアとプンタアレナスの順序を考えた結果、パスクワか

2025年11月19日~21日 地球落穂ひろいの旅イースター島(ラパヌイ) 

チリへの訪問は2014年に国連加盟国 として訪問済み。イースタ

→もっと見る

PAGE TOP ↑