福岡でウーバー「ライドシェア」の実験開始について
まだ自家用車が庶民のものではない時代に、阿川弘之氏が愛車で赤の他人をピックアップして好意同乗させる随筆(『空旅・船旅・汽車の旅』)がある。私のブログでも紹介しているが、その中で白タクのことをハンカチタクシーと呼んでいることが記述されている。有償運送の脱法行為を理解する上で語源的には大変面白い記述であるが、一方で阿川弘之氏のような著名人がUberのライドシェアに参加したとするならばマスコミ的には大きな話題になったであろう。
1 ウーバーのライドシェアの概要
2015年2月5日の日経新聞によると、スマホを使った配車サービスを提供する米ウーバーテクノロジーズ(カリフォルニア州)は、個人が所有する自動車を共有する「ライドシェア」の検証プログラムを福岡市で始めたと発表した。九州大学(注)などと共同で都市交通の効率化などに向けた研究を進める。運賃の発生しない検証作業と位置付け、市内や近郊を走る車から情報を集める。利用者はアプリで近所を走っているクルマを探し、目的地まで運んでもらうことができる。乗車時間は1回あたり60分以内、1週間の乗車回数が5回以下などの条件を設けた。利用料は無料。ドライバーは専用のアプリを使い、どこに利用者がいるかなどといった情報を得る。このアプリの起動中はウーバーに走行場所などの情報を提供し、同社は起動時間に応じて対価を払う仕組み。利用者の乗車の有無に関係なく対価を払い、データ収集への協力という形を徹底する。車の維持費、ガソリン代はドライバー負担となる。個人のドライバーの報酬は、午後4時から翌午前2時までは時給1500円、それ以外の時間帯1300円、オンライン中は待ち時間も報酬が支払われるが、配車依頼を受けないとペナルティーが科される。配車が確定すると、スマートフォンにドライバーの顔写真や到着時刻等が表示される。相乗りは実施しない。
(注)具体的には国立大学法人九州大学が全額出資している(株)産学連携機構九州が対応。文部科学省、経済産業省の認可を受けたTLOとして発足し、経営陣に九州電力に加えてJR九州、西日本鉄道も参画している。


2 有償・無償
タクシー関係者は危機感を含め関心を寄せている。問題点は白タク行為に該当しないかということである。今回の実験は直接の対価を得ないところから「無償」運送として実施されるものである。脱法行為ではないかとの疑いを出す向きもあるが、法的には直接の対価を得ない調査事業であり、宿泊料、診察料等の間接の対価を得ている旅館、病院等の無償送迎バス等が社会的に認知されている今日においては、脱法とは判断されないであろうことは司法判断を待つまでもないことである。なお、営業用の定義は、無償性、他人の需要(家族間での有償運送は他人とはされない)、運送(自動車使用事業と認識できれば運送ではない)の三つのメルクマールがあり、詳しくは人流観光研究所HPに解説してある。
基本的にはバスやタクシー、営業用トラック制度を必要とする社会的な公益性を保護するため、非営業行為を取り締まる発想がある。白バスや白タク行為を取り締まる理由である。規制改革以前は、バス事業の経営を守らないと公益性が維持できないとされたが、交通社会の進展とともに利用者の理解が変化し、規制の見直しが進んだ結果、今日では無償行為まで取り締まることの社会からの理解は得られず、無理に取り締まりを行おうものなら規制官庁そのものの存在が危うくなる時代になってきている。
なお、人身事故に関しては、日本では営業自家用を区別せず自動車損害賠償保障制度が確立している。運行供用者責任を広く解釈する、自賠法の判例の延長で考えれば、配車により利益を得るウーバーが負うと司法で判断されることも十分に考えられるところから、強制保険以外に賠償責任に対応した保険を付保しておくことが望ましいであろう。
3 ビジネスモデルのつくりかた
広告の世界でフリーペーパーが一般化したように、移動空間も無償送迎車・フリーライドが一般化する可能性が出てきている。これまでは、公営ギャンブル場、宿泊施設、医療施設等が提供するものが存在したが、特定の施設に限定されないものが出現する可能性がある。Googleの無償タクシーのコンセプトであり、フリーミアムの考え方である。
フリーミアム(Freemium)とは、基本的なサービスや製品を無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組みのビジネスモデルである。無料サービスや無料製品の提供コストが非常に小さい、あるいは無視できるため、Webサービスや、ソフトウェア、コンテンツのような無形のデジタル提供物との親和性が非常に高い。この「フリーミアム」(Freemium)という単語は、「フリー」(Free、無料)と「プレミアム」(Premium、割増)という、ビジネスモデルの2つの面を組み合わせて作られたかばん語(混成語)である。
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