*

地域観光が個性を失う理由ー太田肇著『同調圧力の正体』を読んでわかったこと

公開日: : 最終更新日:2023/05/28 人口、地域、, 出版・講義資料

本書で、社会学者G・ジンメルの言説を知った。「集団は小さければ小さいほど個性的になるが、その集団に属する個人にとっては逆に個性の自由が失われる」ということである。校長の権限強化での教員の画一化現象がパラドックスの一例として挙げられている。国内産業界はグローバル競争に生き残るため、規制緩和が進めたが、組織が小さいほメンバーは同質的になり、同調圧力は強くなるようである。政治の世界も同じような意図せざる結果が表れている。地方分権では異端は排除されやすく、パチンコをする生活保護者を見つけた市民への通報義務を条例で定めた自治体が現れた。自治体職員への禁酒令を出した首長もいる。 コロナ禍で広まった「テレワークが日本型組織とは水と油の関係」だと本書では指摘する。これまで共同体型、一体型で生産性を高めてきた日本(ネットワーク型)は、テレワークで強制的に分散型、自立型(ジョブ型)にされた。目下のところ、テレワークで米国は生産性が上がり、日本は下がったとされるが、この点は更なる実証データが必要であろう。  さて、本書においては、日本に蔓延する同調圧力の具体例を多数列挙して、その背景に「組織の共同体化」という日本的な特徴があると主張し、その共同体組織にみられる要因として「閉鎖性」「同質性」「個人の未分化」の3つをとりあげて議論を進めている。共同体の圧力のほうが、最初からから強制力に頼る欧米式の組織より、一見ひ弱なようで実は強力であるから、昭和の経済発展をもたらした。組織の中で同調圧力が必要とされ、個人もまたその恩恵を受けた時代、即ち昭和の時代があったのである。しかし、平成になり、その恩恵が薄れ、むしろ弊害のほうが大きくなってきている。さらに本書では、同調圧力の軸が縦から横へと変わってきているとする。このことがコロナ禍で顕在化されたことと、そのバックボーンに「正義」がある、という視点が加わっている。「大衆型同調圧力」と名付け、日本における自粛警察やSNS炎上にその表出をみている。

平成時代に始まりを告げていた「グローバル化」「ボーダレス化」「IT化」という社会の変化が、企業や社会に「イノベーション」を求めるようになってきたから、日本社会の同調圧力の「功」(プラス面)が、一気に「罪」(マイナス面)の強調へと様相がドラスティックに変わってしまった。失われた30年の経済状況がそれを裏付けている。昭和の時代は組織と個人にとってまれにみる共存共栄の時代であったが、その蜜月時代も終焉を迎え、組織による引き締めの時代に入った。本書では、入社式にみられる清一色のリクルートスーツに象徴されるとする。これを経済同友会代表幹事の小林氏は平成の30年間日本は敗北の時代と語ったから、安倍総理とそりが合わなかった。

関連記事

no image

日経の記事「東京郊外への移住じわり」

これに対するコメントの紹介 データを扱うのであれば正確にお願いしたい。東京一

記事を読む

no image

書評『人口の中国史』上田信

中国人口史通史の新書本。入門書でもある。概要〇序章 人口史に何を聴くのかマルサスの人口論著者の「合

記事を読む

『大本営発表』辻田真佐憲

記事を読む

no image

2016年3月1日朝日新聞8面民泊関連記事でのコメント

 東京都大田区が、国の特区制度を活用して自宅の空き部屋などを旅行者に有料で貸し出す「民泊」を解禁

記事を読む

『知の逆転』吉成真由美 NHK出版新書

本書はジャレド・ダイアモンド、ノ―ム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、ト

記事を読む

no image

自動運転車の普及が、タクシー業やビジネスホテルに与える影響論議 早晩、稼業としての存続はなくなる

  『公研』2018.12.No.664の江田健二氏と大場紀章氏の対談の

記事を読む

no image

ふるまいよしこ氏の尖閣報道と観光

ふるまいよしこさんの記事は長年読ませていただいている。 大手メディアの配信する記事より、信頼できる

記事を読む

希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書) 新書 – 2010/8/17

ピースボートというクルーズ旅行商品があり、かつて週刊誌にその悪評が掲載されたことがある。消費者保護を

記事を読む

no image

『日本が好きすぎる中国人女子』桜井孝昌

内容紹介 雪解けの気配がみえない日中関係。しかし「反日」という一般的なイメージと、中国の若者

記事を読む

no image

「南洋游記」大宅壮一

都立図書館に行き、南洋遊記を検索し、[南方政策を現地に視る 南洋游記」  日本外事協会/編

記事を読む

no image
2025年11月25日 地球落穂ひろいの旅 サンチアゴ再訪

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

2025年11月22日地球落穂ひろいの旅 プンタアレナス

旅程作成で、ウシュアイアとプンタアレナスの順序を考えた結果、パスクワか

2025年11月19日~21日 地球落穂ひろいの旅イースター島(ラパヌイ) 

チリへの訪問は2014年に国連加盟国 として訪問済み。イースタ

→もっと見る

PAGE TOP ↑