*

地域交通は分権化で解決できるかー太田肇著『同調圧力の正体』を読んで

公開日: : 人流・観光政策への評論

本書で、社会学者G・ジンメルの言説を知った。「集団は小さければ小さいほど個性的になるが、その集団に属する個人にとっては逆に個性の自由が失われる」ということである。校長の権限強化での教員の画一化現象がパラドックスの一例として挙げられている。国内産業界はグローバル競争に生き残るため、規制緩和が進めたが、組織が小さいほメンバーは同質的になり、同調圧力は強くなるようである。政治の世界も同じような意図せざる結果が表れている。地方分権では異端は排除されやすく、パチンコをする生活保護者を見つけた市民への通報義務を条例で定めた自治体が現れた。自治体職員への禁酒令を出した首長もいる。 コロナ禍で広まった「テレワークが日本型組織とは水と油の関係」だと本書では指摘する。これまで共同体型、一体型で生産性を高めてきた日本(ネットワーク型)は、テレワークで強制的に分散型、自立型(ジョブ型)にされた。目下のところ、テレワークで米国は生産性が上がり、日本は下がったとされるが、この点は更なる実証データが必要であろう。  さて、本書においては、日本に蔓延する同調圧力の具体例を多数列挙して、その背景に「組織の共同体化」という日本的な特徴があると主張し、その共同体組織にみられる要因として「閉鎖性」「同質性」「個人の未分化」の3つをとりあげて議論を進めている。共同体の圧力のほうが、最初からから強制力に頼る欧米式の組織より、一見ひ弱なようで実は強力であるから、昭和の経済発展をもたらした。組織の中で同調圧力が必要とされ、個人もまたその恩恵を受けた時代、即ち昭和の時代があったのである。しかし、平成になり、その恩恵が薄れ、むしろ弊害のほうが大きくなってきている。さらに本書では、同調圧力の軸が縦から横へと変わってきているとする。このことがコロナ禍で顕在化されたことと、そのバックボーンに「正義」がある、という視点が加わっている。「大衆型同調圧力」と名付け、日本における自粛警察やSNS炎上にその表出をみている。

平成時代に始まりを告げていた「グローバル化」「ボーダレス化」「IT化」という社会の変化が、企業や社会に「イノベーション」を求めるようになってきたから、日本社会の同調圧力の「功」(プラス面)が、一気に「罪」(マイナス面)の強調へと様相がドラスティックに変わってしまった。失われた30年の経済状況がそれを裏付けている。昭和の時代は組織と個人にとってまれにみる共存共栄の時代であったが、その蜜月時代も終焉を迎え、組織による引き締めの時代に入った。本書では、入社式にみられる清一色のリクルートスーツに象徴されるとする。これを経済同友会代表幹事の小林氏は平成の30年間日本は敗北の時代と語ったから、安倍総理とそりが合わなかった。

関連記事

規制改革会議 無償運送、謝礼に関心 東京交通新聞2017年3月27日

標記の記事が東京交通新聞に出ていた。 規制改革会議が、3月23日現行の基準を緩和できるかヒアリング

記事を読む

no image

伝統も歴史も後から作られる 『戦国と宗教』を読んで

 横浜市立大学の観光振興論の講義ノート「観光資源論」を作成するため、大学図書館で岩波新書の「戦国と宗

記事を読む

no image

伊勢うどん

毎日新聞2016年7月11日 三重県伊勢市の人気うどん店「ちとせ」を訪れ、関係者と記念撮影す

記事を読む

no image

正座について

ホテルと旅館を法律上区分する日本の宿泊法制度は珍しい。 その違いを考えると、和式と洋式の違いは「靴

記事を読む

ジャパンナウ原稿2019年11月 太平洋島嶼国等の観光政策

 ラグビーのワールドカップ戦を偶然サモアでむかえた。現地は日本時間より五時間早く、開始時間は深夜。

記事を読む

no image

人流とクルーズ  日本人のクルーズ振興に関する国際セミナーを傍聴しての感想

 2016年11月30日運輸総合研究所の表記セミナーを傍聴した。cruiseではないが、ちょうどカリ

記事を読む

no image

「植民地朝鮮における朝鮮総督府の観光政策」李良姫(メモ)

植民地朝鮮における朝鮮総督府の観光政策 李    良 姫 『北東アジア研究』第13号(2007年3月

記事を読む

no image

杉原幸吉先生の「錯覚観光」 ジャパンナウ観光情報協会セミナー

杉原幸吉先生の錯覚の研究についてはこれまでも紹介してきたので省略して、今回のセミナーで気付いたことを

記事を読む

no image

めも 「ドイツにおけるカジノ規制 ―ゲームセンターとの比較の観点から―」 国立国会図書館調査及び立法考査局 専門調査員国土交通調査室主任齋藤 純子 海外立法情報課渡辺 富久子 

 人間の射幸心に働きかける賭博には様々な形態があり、それぞれ固有の発展と規制の歴 史を有する。例えば

記事を読む

no image

「今後の観光政策学の方向」 人流・観光研究所所長 観光学博士 寺前秀一

  ① 旅が大衆化すると「Tourist」概念が生まれるのだとすると、日本における「

記事を読む

PAGE TOP ↑