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『休校は感染を抑えたか』朝日新聞記事 

公開日: : 最終更新日:2023/05/20 出版・講義資料

https://www.asahi.com/articles/ASP6J51TNP6CULEI00B.html

新型コロナウイルスの感染が広がるなか、政府は昨年2月末、全国の小中高校に一斉休校を要請した。子どもたちや保護者らに大きな負担をかけた決断に、感染を防ぐ効果が本当にあったのかどうか、データに基づいて検証している研究者がいる。政治学者の福元健太郎・学習院大教授だ。どんな手法で分析し、どんな結果が出たのか、話を聞いた。

 ――研究の内容はどういったものですか。

 学校を休みにすることで、コロナの感染にどういう影響があるかを調べました。単純に言えば、休校にした自治体(市区町村)としていない自治体とで、人口あたりの感染者の数が違うかどうか、比較したものです。休校したところの方が感染者が少なければ、期待された効果があったということになります。

 公立の小中学校がどのくらい休校しているかについて、文部科学省は2020年3月から6月にかけて、全国の自治体を9回、調査しました。私たちはこの調査日を基準に、それぞれの直前の1週間と直後の3週間の感染者数を対象として分析しました。

 その結果、休校したところとそうでないところで、感染者数に統計的に有意な、はっきりとした差は見られませんでした。むしろ、どちらかと言えば休校にしていたほうで、感染者が多かったほどです。

人口、収入、首長年齢…43要素を分析

 したがって、休校したことによる感染を防ぐ効果はなかった。それが我々の研究の結果です。

 ――ただ、感染者数には、休校したかどうか以外のさまざまな要素が影響しますよね。

 その通りです。そもそも、感染者が多くて状況が厳しいところほど、休校にしやすいとも考えられます。

 ですから、例えばそれまでの感染者の数とか人口構成とか、様々な要素が似ているけれども、休校したかどうかという要素だけが異なる二つの自治体を見つけてペアにして、感染者数を比較するわけです。全国に計1741ある自治体のうち、27都府県の847自治体からデータが得られたので、最大で数百組の自治体のペアを作って比較しました。

 ――具体的にどんな要素が似ている自治体を比較したのですか。

 あわせて43個あります。人口の多寡や人口密度、年齢の構成のほか、通勤などで他の自治体と行き来している人の数、住民の収入、学校の児童・生徒数、病院や医師の数、自治体の財政状況や首長の年齢や当選回数なども含みます。もちろん完全にはなりませんが、休校の有無以外の要素をなるべくそろえるようにしました。

 43個ある要素のうち、どれを重視するのかが、難しい問題です。絶対にこれが正しい、という方法はありません。

 私たちの方法を簡単に言うと、自治体ごとに振れ幅が大きい要素を重視するようにしました。たとえば人口の多さは、大きな市と小さな村ではかなり大きな違いがあります。一方で、学級あたりの生徒数であれば、どんな自治体でもあまり違いはありません。ですから、そこはあまり気にしなくていい、という理屈です。

 ――一筋縄ではいかない作業ですね。

 とても手作業ではできませんので、コンピューターを使いました。ここを担当したのがハーバード大のチャールズ・マックレーン博士研究員です。これには5台のコンピューターで数日かかりました。データを収集するのは日本人の共著者がやってくれました。

 ――休校に効果がなかったの…

 

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.04.21.21255832v1

Abstract

As COVID-19 spread in 2020, most countries shut down schools in the hopes of slowing the pandemic. Yet, studies have not reached a consensus about the effectiveness of these policies partly because they lack rigorous causal inference. Our study aims to estimate the causal effects of school closures on the number of confirmed cases. To do so, we apply matching methods to municipal-level data in Japan. We do not find that school closures caused a reduction in the spread of the coronavirus. Our results suggest that policies on school closures should be reexamined given the potential negative consequences for children and parents.

Competing Interest Statement

The authors have declared no competing interest.

Funding Statement

This work was supported by JSPS KAKENHI (Grant Number JP19K21683).

Author Declarations

I confirm all relevant ethical guidelines have been followed, and any necessary IRB and/or ethics committee approvals have been obtained.

Yes

The details of the IRB/oversight body that provided approval or exemption for the research described are given below:

Since this study uses aggregated data only, not individuals’ data, no IRB and/or ethics committee approvals are necessary.

All necessary patient/participant consent has been obtained and the appropriate institutional forms have been archived.

Yes

I understand that all clinical trials and any other prospective interventional studies must be registered with an ICMJE-approved registry, such as ClinicalTrials.gov. I confirm that any such study reported in the manuscript has been registered and the trial registration ID is provided (note: if posting a prospective study registered retrospectively, please provide a statement in the trial ID field explaining why the study was not registered in advance).

Yes

I have followed all appropriate research reporting guidelines and uploaded the relevant EQUATOR Network research reporting checklist(s) and other pertinent material as supplementary files, if applicable.

Yes

Footnotes

  • ∗ Earlier drafts were presented at the Annual Meeting of Japanese Soceity for Quantitative Political Science, Online, January 10–11, 2021, and the Annual Meeting of Empirical Moral Science, Online, March 8–9, 2021, and the Annual Meeting of Midwest Political Science Association, Online, April 14–18, 2021. We thank Yusaku Horiuchi, Kyosuke Kikuta, Yoshifumi Konishi, Kiyoshi Minoura, Ryo Nakajima, Makiko Nakamuro, and Naoya Sueishi for helpful comments and advice.
  • Email address: cmcclean{at}wcfia.harvard.edu, nakagawa.kuninori{at}shizuoka.ac.jp.

Paper in collection COVID-19 SARS-CoV-2 preprints from medRxiv and bioRxivCopyright The copyright holder for this preprint is the author/funder, who has granted medRxiv a license to display the preprint in perpetuity. It is made available under a CC-BY-NC-ND 4.0 International license.

研究の概要
 学校を休みにすることで、コロナの感染にどういう影響があるかを調べた。単純に言えば、休校にした自治体(市区町村)としていない自治体とで、人口あたりの感染者の数が違うかどうかを比較した。休校したところの方が感染者が少なければ、期待された効果があったということになる。
 私たちは、文部科学省が2020年3月から6月にかけて全国の自治体に9回行った調査に基づき、調査日を基準に、直前の1週間と直後の3週間の感染者数を分析した。
 その結果、休校したところとそうでないところで、感染者数に統計的に有意な、はっきりとした差は見られなかった。むしろ、どちらかと言えば休校にしていたほうで、感染者が多かったほどだ。
 したがって、休校したことによる感染を防ぐ効果はなかったというのが、我々の研究の結果だ。

分析の方法
 例えばそれまでの感染者の数とか人口構成とか、様々な要素が似ているけれども、休校したかどうかという要素だけが異なる二つの自治体を見つけてペアにして、感染者数を比較した。全国に計1,741ある自治体のうち、27都府県の847自治体からデータが得られたので、最大で数百組の自治体のペアを作って比較した。
 具体的な要素は計43個ある。人口の多寡や人口密度、年齢の構成のほか、通勤などで他の自治体と行き来している人の数、住民の収入、学校の児童・生徒数、病院や医師の数、自治体の財政状況や首長の年齢や当選回数なども含む。休校の有無以外の要素をなるべくそろえるようにした。
 43個ある要素のうち、どれを重視するのかは難しい問題だが、私たちは、自治体ごとに振れ幅が大きい要素を重視するようにした。たとえば人口の多さは、大きな市と小さな村ではかなり大きな違いがある。一方で、学級あたりの生徒数であれば、どんな自治体でもあまり違いはないから、そこはあまり気にしなくていい、という理屈だ。

休校に効果がなかった理由
 これは推測でしかないが、一つには、休校といっても、本当の意味での休校ではない。子どもの居場所が確保され、学童保育などもあり、休校にしても学校にいる子どもの数がゼロにはなっていない。
 また、当時流行していたウイルスは、あまり子どもには感染しないし、また子どもが感染を広げてしまう確率も低いものだったということもある。さらに、開けている学校は当然、感染対策をとっていただろうし…。

結果を踏まえて
 休校にはさまざまな負の効果がある。学習の遅れだけでなく、子どもたちの心身の発達に対する影響もあるし、親も外に出られずに働けなくなる。虐待が増えるとも言われている。
 コロナウイルスの感染を抑えるというメリットがあるなら休校も仕方ないが、もしメリットがないのなら、デメリットを甘受する必然性はなくなる。
 ただ、当時のウイルスはいま流行している変異株ではない。仮にいま休校措置が実施されたとすると、その感染抑止効果が当時とは変わっている可能性は否定できない。それでもこの研究が示唆しているのは、政府が政策介入の効果を上げるには、自治体ごとの感染者数や休校状況などをリアルタイムでモニタリングする必要がある、ということだ。

 去年の2月26日、当時首相だったアベの突然の要請に、学校関係者、保護者(親)は驚愕した。「一斉休校」がなぜ必要なのかと問われたアベは、「何よりも子どもたちの健康・安全を第一に考え」、学校でクラスターが発生するのを抑えるために先手をうつべきだと判断したと答えた(それなら保育園は休みにしなくていいのか?)。さらに、専門家からは、学校を休校にした方が効果があるというエビデンス(今や懐かしい響きさえある)はないという声があると言われると、さまざまな意見があることは承知しているが、この1〜2週間が正念場という専門家の意見をふまえ、「最後は政治が全責任を持って判断すべきものと考え、今回の決断を行った」と答えた。以上は、2日後の28日、衆院予算委員会での答弁。
「全国一斉休校」なぜ専門家会議で議論しなかった?安倍首相の説明は…(衆院予算委・詳報) | Business Insider Japan

 今となっては、「何よりも子どもたちの健康・安全を第一に考え」とか「政治が全責任を持って」という言葉には乾いた笑いしかわいてこない。軽薄すぎる。「一斉休校」の次は「黒川問題」、そして1年前の今頃は「アベノマスク」で大ひんしゅくを買っていた頃だ。

 しかし、それから1年、首相はスガに替わり、今度は「子どもたち」を「国民」に替えて、「その健康・安全を第一に?」、観客を入れて東京オリンピックをやろうと画策を続けている。専門家は、観客を入れたら危険だと指摘しているのにもかかわらず、だ。
 一年たってもサイクルや構図は何も変わっていない。アベスガにとって「子どもたち」も「国民」も、具体的な顔が浮かぶ言葉ではないのだろう。それは、二人とも、カンペにしろプロンプターにしろ、人の書いたものを朗読することと無関係ではないと思う。

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