*

 『シュリューマン旅行記』 清国・日本 日本人の宗教観

公開日: : 最終更新日:2023/06/05 出版・講義資料, 歴史認識

『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳 

シュリューマンは1865年世界漫遊の旅に出かけ日本に寄港している(6月1日から7月4日)。66年にパリに落ち着いて改めて考古学を学び学位を取得し、1871年にトロイ遺跡を発掘しているから、発掘前に日本に来たことになるのは驚きである。尊王攘夷、今流にいえばテロリストがうろうろしている江戸に、外交官でも軍人でもない民間人が手づるを得て来ているのである。以下訳文の抜粋と感想「上海から東洋蒸気船会社所属の北京号に乗り、日本の横浜に向かった。立った三日足らずの行程に百両も支払わなければならなかった」と相場を教えてくれている。「日本の小舟には色が塗ってない。シナ人なら忘れることのできない、船首の二つ目玉が、日本の小舟にはない」、荷揚場で「ひどい疥癬に罹っていて・・・皮膚病に冒されていない者を探したが、だれもいなかった」と観察する。「官吏二人にそれぞれ一分ずつ出した。ところがなんと彼らは自分の胸をたたいて「ニッポンムスコ」といい、これを拒んだ」と現代旅人でも悩まされる入国時の役人を描写し、感心するが、滞在後には幕府の貨幣交換政策について、通商の不利益も顧みず莫大な利益を高官に与えていると批判している。この点もどこか現代に通じる。家庭生活の観察は面白い。正座して椀と箸での食事後、瞬く間に食事の名残が消えてしまうさまを描写する。欧州で必要不可欠だとみなしていた衣装ダンス、書斎机、食器棚などちっとも必要でないことに気が付いた。欧州の親たちが日本の習慣を取りいれて子供たちの結婚準備から解放されたらと記述する。長年健康にわるい正座がなぜ日本の習慣になったのかと不思議に思っていたが、少し合点がいった。日本の政治は、騎士制度を欠いた封建体制であり、ベネチア貴族の寡頭政治である記述。民衆の生活の中に真の宗教心は浸透しておらず、また上流階級はむしろ懐疑的であると確信したとも記述する。芝居見物もしている。劇場はほぼ男女同数。男女混浴どころか、みだらな場面をあらゆる年齢層の女たちが楽しむような生活のなかに、どうしてあのような純粋で敬虔な気持ちが存在し得るのか不思議とするが、この点は、欧州でも人は変わらないのではと思い同意できない。巻末に日本文明論が展開され、日本は欧州以上に文明化されているとする。男女とも皆かなと漢字の読み書きができる。しかし、キリスト教徒が理解しているような意味は文明化されていないとする。その理由は民衆社会を抑圧する密告社会があるからだとする。外国人嫌いにするのは大名で、幕府には外国人を守る力がないから、外国人の生命財産は外国部隊にしか守れないことになる。しかし、軍隊派遣は採算が合わないと結んでいる。ビジネスマンシュリューマンの結論である。

太字のところは逆に、伊藤博文等が聖書に書かれているようなキリスト教が信じられているということが、伊藤らに信じがたいことであった

facebook投稿

https://www.facebook.com/shuichi.teramae/posts/pfbid0283wDGF22haUXA4ZZcW2bJuByDQzW8F7Ah7LSDdaUDjLd3AmK65dwtogwhsXcbd9gl

参考 ヨーロッパを見る視角 阿部謹也

ヨーロッパを見る視角 阿部謹也 岩波 1996 日本にキリスト教が普及しなかった理由の解説もある。

書評『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳

 

 

関連記事

GOTOトラベルの政策評価のための参考書 『震災復興 欺瞞の構造』2012年 原田泰 新潮文庫

いずれ、コロナ対策としてのGOTOトラベル等の観光政策の評価が必要になると思い、災害対策等の先例を

記事を読む

no image

Quora Covid-19の死亡者はアメリカが27.9万人、日本が2210人 (12/06現在) です。日本では医療崩壊の危険が差し迫っているとの報道がありますが、アメリカに比べて医療体制が貧弱なのでしょうか?

12月16日現在、アメリカでの死亡者数は約30万4千人、そして日本での死亡者数は2600名足らずで

記事を読む

no image

日本人の北朝鮮観光

他事考慮での観光交流の中断 日本人観光客の北朝鮮訪問数の増加は、両国観光関係者にとっては利害が一致

記事を読む

『諳厄利亜大成』に見る、観光関連字句

諳厄利亜大成はわが国初の英語辞典 1827年のものであり、tour、tourism、hotelは現

記事を読む

no image

『デモクラシーの帝国』 藤原帰一2002岩波新書 国際刑事裁判所 米国の不参加

国際刑事裁判所の設立を定めたローマ規程は、設立条約に合意していない諸国にも適用されるところから、アメ

記事を読む

no image

Quora ヨーロッパ人による境界がなかった場合には、今日のアフリカには幾つくらいの国があったと思いますか? 欧州にはバスク語しか残らなかった

https://youtu.be/i28l-t4H1GM ヨーロッパ人による境界がなかっ

記事を読む

『日本車敗北』村沢義久著  アマゾンの手厳しい書評

車の将来の議論の前提に、地球温暖化への見解 ガソリン車 電気自動車 エンジンではな

記事を読む

『日本語スタンダードの歴史』野村剛士は、「日本の話しことばについて」『現代国語三』所収 木下順二著1963年を否定

私の自説に、日常と非日常が相対化しており、観光資源もあいまいになってきているというアイデアがある

記事を読む

no image

動画で考える人流観光学帝国ホテル等に見る「住と宿の相対化」

  https://youtu.be/21llSPlP5eQ https://yo

記事を読む

『弾丸が変える現代の戦い方』二見龍 照井資規 誠文堂新光社 2018年

本書は、今までほとんど語られてこなかった弾丸と弾道に焦点を当てた元陸上自衛隊幹部と軍事ジャーナリ

記事を読む

PAGE TOP ↑