『シュリューマン旅行記』 清国・日本 日本人の宗教観
『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳
シュリューマンは1865年世界漫遊の旅に出かけ日本に寄港している(6月1日から7月4日)。66年にパリに落ち着いて改めて考古学を学び学位を取得し、1871年にトロイ遺跡を発掘しているから、発掘前に日本に来たことになるのは驚きである。尊王攘夷、今流にいえばテロリストがうろうろしている江戸に、外交官でも軍人でもない民間人が手づるを得て来ているのである。以下訳文の抜粋と感想「上海から東洋蒸気船会社所属の北京号に乗り、日本の横浜に向かった。立った三日足らずの行程に百両も支払わなければならなかった」と相場を教えてくれている。「日本の小舟には色が塗ってない。シナ人なら忘れることのできない、船首の二つ目玉が、日本の小舟にはない」、荷揚場で「ひどい疥癬に罹っていて・・・皮膚病に冒されていない者を探したが、だれもいなかった」と観察する。「官吏二人にそれぞれ一分ずつ出した。ところがなんと彼らは自分の胸をたたいて「ニッポンムスコ」といい、これを拒んだ」と現代旅人でも悩まされる入国時の役人を描写し、感心するが、滞在後には幕府の貨幣交換政策について、通商の不利益も顧みず莫大な利益を高官に与えていると批判している。この点もどこか現代に通じる。家庭生活の観察は面白い。正座して椀と箸での食事後、瞬く間に食事の名残が消えてしまうさまを描写する。欧州で必要不可欠だとみなしていた衣装ダンス、書斎机、食器棚などちっとも必要でないことに気が付いた。欧州の親たちが日本の習慣を取りいれて子供たちの結婚準備から解放されたらと記述する。長年健康にわるい正座がなぜ日本の習慣になったのかと不思議に思っていたが、少し合点がいった。日本の政治は、騎士制度を欠いた封建体制であり、ベネチア貴族の寡頭政治である記述。民衆の生活の中に真の宗教心は浸透しておらず、また上流階級はむしろ懐疑的であると確信したとも記述する。芝居見物もしている。劇場はほぼ男女同数。男女混浴どころか、みだらな場面をあらゆる年齢層の女たちが楽しむような生活のなかに、どうしてあのような純粋で敬虔な気持ちが存在し得るのか不思議とするが、この点は、欧州でも人は変わらないのではと思い同意できない。巻末に日本文明論が展開され、日本は欧州以上に文明化されているとする。男女とも皆かなと漢字の読み書きができる。しかし、キリスト教徒が理解しているような意味は文明化されていないとする。その理由は民衆社会を抑圧する密告社会があるからだとする。外国人嫌いにするのは大名で、幕府には外国人を守る力がないから、外国人の生命財産は外国部隊にしか守れないことになる。しかし、軍隊派遣は採算が合わないと結んでいる。ビジネスマンシュリューマンの結論である。
太字のところは逆に、伊藤博文等が聖書に書かれているようなキリスト教が信じられているということが、伊藤らに信じがたいことであった。
facebook投稿
https://www.facebook.com/shuichi.teramae/posts/pfbid0283wDGF22haUXA4ZZcW2bJuByDQzW8F7Ah7LSDdaUDjLd3AmK65dwtogwhsXcbd9gl
参考 ヨーロッパを見る視角 阿部謹也
ヨーロッパを見る視角 阿部謹也 岩波 1996 日本にキリスト教が普及しなかった理由の解説もある。
書評『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳
関連記事
-
-
You-Tube「Cruise to Japan in 1932」に流れる「シナの夜」
1932年は鉄道省に国際観光局が設置されて2年目、インバウンドが叫ばれる現代と同じような時代である
-
-
ドナルド・トランプが大統領になる5つの理由を教えよう
https://www.huffingtonpost.jp/michael-moore/5-rea
-
-
矢部 宏治氏の「なぜ日本はアメリカの「いいなり」なのか?知ってはいけないウラの掟」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52466 外務省がつ
-
-
書評『シュリューマン旅行記 清国・日本』石井和子訳
日本人の簡素な和式の生活への洞察力は、ベルツと同じ。宗教観は、シュリューマンとは逆に伊藤博文等が
-
-
書評 渡辺信一郎『中華の成立』岩波新書
ヒトゲノム分析によれば、山東省臨̪淄の遺跡 2500年前の人類集団は現代欧州と現代トルコ集団の中間
-
-
『飛躍への挑戦』葛西敬之著
図書館で取り寄せて読んだ。国鉄改革については、多くの公表著作物に加え、これからオーラルヒストリが世
-
-
『起業の天才 江副浩正 8兆円企業を作った男』大西康之
父親の縁で小運送協会が運営していた学生寮に大学1,2年と在籍していた。その時の一年先輩に理科二類
-
-
MaaSに欠けている発想「災害時のロジステックスを考える」対談 西成活裕・有馬朱美 公研2019.6
公研で珍しく物流を取り上げている。p.42では「自動車メーカーは自社の車がどこを走っているかという
-
-
『「食糧危機」をあおってはいけない』2009年 川島博之著 文芸春秋社 穀物価格の高騰は金融現象
コロナで飲食店が苦境に陥っているが、平時には、財政措置を引き出すためもあり、時折食糧危機論が繰り返
-
-
『金融資本市場のフロンティア 東京大学で学ぶFinTech、金融規制、資本市場』に学ぶべきMaaS
本書を読んで、アンバンドリングとリバンドリングという言葉に出会った。金融機能が、テクノロジーが導入
