*

『サイボーグ化する動物たち 生命の操作は人類に何をもたらすか』作者:エミリー・アンテス 翻訳:西田美緒子 白揚社

公開日: : 最終更新日:2023/05/28 出版・講義資料, 脳科学と観光

DNAの塩基配列が読破されても、その配列の持つ意味が分からなければ解読したことにはならない。本書の冒頭で、中国の工場(上海のウーダン大学)でミュータントマウスの製造がおこなわれていることの紹介があり、瞬時にその意味が分かった。DNAの塩基配列を一つ一つ変化させることにより新しい生物を生じさせ、その新しい生物に現れる特性を見つけ出すことにより、塩基配列の持つ意味を発見するという手法である。絨毯爆撃である。
人類はそのことを、長い時間をかけて交配という手法で行ってきたのだから、交配を効率化させることに批判を加えることはできない。農作物や畜産物の品種改良、さらにはペットとして犬を飼うようになると、育てやすいよう、あるいは見た目の可愛らしさをつくるために品種改良を進めてきた。今ではチワワやトイプードル、ドーベルマン、ブルドッグが同じ犬という分類であることが信じられないくらいバラエティに富んだ人工的な種が存在する。
現代のDNA操作やサイボーグ化は、そうした品種改良の延長と考えることもできる。しかし、それで納得する人はおそらく少ない。なぜなら、クローンや動物の脳のコントロールは、その延長線上に「人体への応用」が待ち構えているからだ。もし倫理的な歯止めが外され、それが実現するようなことになれば、人間社会の大混乱は避けられない。

本書の投げかける問題は、脳科学の世界でも発生するであろう。科学技術の進展はいずれ脳細胞の機能を隅々まで解明するであろう。既に蛍光物質を使用することによりシナプスの作用を把握する技術が進展している。そのシナプスの反応がどういう意味を持つかは、DNAの塩基配列とその配列の持つ意味の解明と同じ問題である。意識そのものも決して消えない神秘の霧に包まれたものではなく、観察できる身体システムの中に見えてきそうな勢いである。ミュータントマウスを用いることによりシナプスの反応の持つ意味が一つ一つ解明される日がくるであろう。そしてマウスから高等動物へと実験は進められ、最終的にはヒトの頭の中の神経細胞が外界の刺激に反応する仕方の持つ意味が解明されるかもしれない。手を伸ばすとどこのニューロンが発火するかは事前にわかっているのである。意識や感情が科学的に説明できるようになるのである。

関連記事

no image

横山宏章の『反日と反中』(集英社新書2005年)及び『中華民国』(中央公論1997年)を読んで「歴史認識と観光」を考える

 歴史認識を巡り日本と中国の大衆が反目しがちになってきたが、私は歴史認識の違いを比較すればするほど、

記事を読む

no image

観光立国から経済立国へ Recommendations with Respect to U.S.Policy toward Japan(NSC13/2)

この翻訳テキストは、細谷千博他『日米関係資料集1945~97』(東京大学出版会,1999)<当館

記事を読む

『公共貨幣論入門』山口薫、山口陽恵

MMT論の天敵 Amazonの書評(注 少し難解だが、言わんとするところは読み取れ

記事を読む

no image

『AI言論』西垣通 神の支配と人間の自由

人間を超越する知性  宇宙的英知を持つ機械など人間に作れるか 人間は20万年くらい前に生物進

記事を読む

地域観光が個性を失う理由ー太田肇著『同調圧力の正体』を読んでわかったこと

本書で、社会学者G・ジンメルの言説を知った。「集団は小さければ小さいほど個性的になるが、その集団

記事を読む

「ブラックアース~ホロコーストの歴史と警告」ティモシー・スナイダー著池田年穂訳 を読んで

ホロコーストについても、観光学で歴史や伝統は後から作られると説明してきたが、この本を読んでさらにその

記事を読む

no image

Quora Covid-19の死亡者はアメリカが27.9万人、日本が2210人 (12/06現在) です。日本では医療崩壊の危険が差し迫っているとの報道がありますが、アメリカに比べて医療体制が貧弱なのでしょうか?

12月16日現在、アメリカでの死亡者数は約30万4千人、そして日本での死亡者数は2600名足らずで

記事を読む

no image

『コロナ危機が浮き彫りにした日本の統治機構とその弱点』読書メモ 竹中治堅・手塚洋輔 公研no.695 2021.7

首相の権限は強くない例 安倍首相2020年4月6日にコロナ患者用の病床を5万床にすると発言、しかし

記事を読む

ヒマラヤ登山とアクサイチン

〇ヒマラヤ登山 機内で読んだ中国の新聞記事。14日に、両足義足の、私と同年六十九歳の中国人登山

記事を読む

no image

「キャピタリズム マネーは踊る」マイケル・ムーア

https://youtu.be/aguUZ7PGd2A https://youtu.be/a

記事を読む

no image
2025年11月25日 地球落穂ひろいの旅 サンチアゴ再訪

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

2025年11月22日地球落穂ひろいの旅 プンタアレナス

旅程作成で、ウシュアイアとプンタアレナスの順序を考えた結果、パスクワか

2025年11月19日~21日 地球落穂ひろいの旅イースター島(ラパヌイ) 

チリへの訪問は2014年に国連加盟国 として訪問済み。イースタ

→もっと見る

PAGE TOP ↑