人流抑制に関する経済学者と感染症学者の意見の一致「新型コロナ対策への経済学の貢献」大竹文雄 公研2021年8月号No.696を読んで
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観光学評論等
公研2021年8月号No.696にコロナ関連の有識者委員等である、行動経済学者大竹文雄氏の「新型コロナ対策への経済学の貢献」が掲載されていた。観光関係者の中には、GOTOや五輪とコロナの関係は証明されおらず、ポストコロナの夢を安易に語る者が少なからず存在するが、床屋談義はやめて、是非この文章を読んでもらいたい。 大竹氏は「緊急事態宣言解除の望ましいタイミング」として、 経済学と感染のトレードオフを分析する経済学者の研究グループ 東大特任講師藤井大輔、仲田泰裕東大准教授の活動を紹介し、彼らによって経済活動が活発化すると感染が拡大するというトレードオフがあることが明らかになり、「緊急事態宣言を複数回発令するコストは大きい」ことを示されたことを紹介している。長期的に見た場合、緊急事態宣言を何度も発令するよりも、長期間出して感染者数を抑える方が経済にとっても望ましいのである。感染症の専門家はできるだけ感染を抑えてから解除すべきだと言っていたが、経済からみても長期的に望ましいことを数字で示した意味は大きかったとする。大雑把にいえば、経済学者も感染症専門家の尾身先生と同じ見解なのである。
さらにあえて言えば、子供の頃風がなおりかけの時に、じっとしているのが嫌でこっそりと外に遊びに行って、かえって風邪を長引かせて母親に叱られたことを思いだすから、先人は昔から理解していたのである。
行動経済学者の立場から、ワクチン接種に関する提言をしている。経済学分野では先着順がよくないことはよく知られており、年齢順、抽選等のルールに従って割り当てるよりよい仕組みがあまり使われていないことを述べておられる。提言のタイミングが難しく、研究者は早くから提言しているが誰にも注目されず、あらためて提言したら遅すぎると批判されてしまったといっておられる。
最後に、ボランタリーロックダウンといわれた昨年春の日本人の行動抑制は明らかに過剰だったとされる(別の研究では、小学校の学級閉鎖が、閉鎖しなかった小学校との比較で効果がなかったことも知られている)。感染率がものすごく高いと評価しない限りあれだけの行動変容が起きず、合理的モデルでは説明できないとする。従って安倍氏がさっさと総理をおやめになったのは賢明だったのかもしれない。国自治体の観光政策当局や観光研究者も、きちんとした議論に参加して論議を深めていただきたいと思う。
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