*

歴史認識と書評 岡部伸『消えたヤルタ密約緊急電』

公開日: : 最終更新日:2020/12/01 歴史認識

書評1第二次世界大戦のことを勉強してもここまでたどり着く人たちはなかなかいないだろう。上面な敗戦処理工作だけしか知らないレベルで終わってしまうのがほとんどのケースと思われる。インテリジェンスほど戦争の鍵を握るものはない。世界各国では常識中の常識。日本も当時は世界レベルだったにも拘らず、ご都合主義の参謀たちばかりでそれを生かせる能力のある連中がいなかった。特に超貴重な情報を少なくとも二つ握り潰した瀬島龍三の罪は非常に重い。ソ連との密約により約60万人もの日本人がシベリアに抑留された責任者とも目されているこのような男が戦後ビジネスや政界でもてはやされて大活躍するのだから皮肉なものだ。その上中国を大発展を導いた功労者(!?)の1人が伊藤忠会長時代の彼。伊藤忠が代々親中になったのも彼の影響。戦中・戦後ことごとく日本及び日本国民を苦しめる原因を作った人物として永遠に記憶されることになろう。逆に小野寺氏や杉原氏のように人格者であり正義感の強い人間ほど人生では報われないというのは歴史の常なのか。

書評2

なぜ日本は、太平洋戦争末期に対日参戦準備をしていたソ連に和平仲介をお願いしていたのでしょうか。

実は、ヤルタ会談において、ソ連が対日参戦するという情報が、スウェーデン、ドイツから参謀本部に送られていました。参謀本部とロシア課長は、ソ連の対日参戦を予測していたにもかかわらず軍上層部や政府首脳にこの予測を伝えていないのです。

軍上層部や政府首脳は、ソ連が対日戦争の準備をしているとは知らず中立条約を結んでいるソ連に終戦の仲介をお願いしていたのです。著者は、瀬島龍三がソ連に出向き和平工作を行っていた形跡があることから、この和平工作を行っていた参謀本部がソ連の対日参戦という情報を握り潰したのではないか、と推測しています。

以前、小野寺信氏の奥様の小野寺百合子さんの『バルト海のほとりにて』(共同通信社)を読み、小野寺夫妻のストックホルムでの活躍に関して興味を持っていました。ですから本書は、まさに待望の一冊でした。ドイツが英国ではなくソ連へ向かうこと、ドイツが降伏すれば3ヶ月後に日本に対して参戦すること、そしてアメリカで原爆が開発されていることを、冷静にしかも正確に日本に伝えていたにもかかわらず、それら情報が生かされることはありませんでした。もしも、こうした情報が生かされていれば……と思うと、日本国民の1人として、本当にいたたまれない気持ちになります。小野寺夫妻の悔しさは、いかほどであったか。中枢にいる人たちが、自分たちの理想とする作戦に合った情報だけを耳に入れ、都合の悪い情報には耳を閉ざし、目をふさいでしまうことが、どれだけ国益を損ない、国民を危険にさらすものであるか。インテリジェンスの重要さ、そして逆に日本の機密が外国に漏れてしまう危険性も含めて、いろいろと考えさせられる本でした。

関連記事

任文桓『日本帝国と大韓民国に仕えた官僚の回想』を読んで

まず、親日派排斥の韓国のイメージが日本で蔓延しているが、本書を読む限り、建前としての親日派排除はなく

記事を読む

no image

QUORAに見る歴史認識 戦前の財閥ってどれくらいお金持ちだったんでしょうか?具体的に分かるように説明していただけませんか?

そのジニ係数は――あえて国際比較を行うと――大土地所有者と彼ら以外の間に大きな所得格差があることに

記事を読む

no image

Quoraに見る歴史認識 日本は日清戦争、日露戦争では勝利することができたのに、先の大戦 (第二次世界大戦) ではなぜ敗北に至ったのでしょうか。 日清日露と第二次世界大戦を比較対照して答えていただけたら幸いです。?

日本は日清戦争、日露戦争では勝利することができたのに、先の大戦 (第二次世界大戦) ではなぜ敗北

記事を読む

no image

QUORAにみる歴史認識 不平等条約答えは長州藩と明治政府のせいです。今回に限って言えば、長州藩と明治政府が不平等になるように改悪した原因なのです。

日本人があまり知らない、日本の歴史といえば何が思いつきますか? 日米和親条約と日米修好通商条

記事を読む

no image

朝鮮戦争の経済効果

もし、朝鮮戦争がなかったら日本は戦後の経済復興は遅れていたと思いますか? 確かに3年間ぐらい

記事を読む

『徳川家康の黒幕』武田鏡村著を読んで

私が知らなかったことなのかもしれないが、豊臣家が消滅させられたのは、徳川内の派閥攻勢の結果であったと

記事を読む

no image

Quoraに見る歴史認識 終戦後に当時のソ連は、どうして北海道に侵攻しなかったのですか?

終戦後に当時のソ連は、どうして北海道に侵攻しなかったのですか? 回答を先に書けば、米国との間

記事を読む

no image

QUORAにみる歴史認識 英国はなぜ世界の覇者になれたんでしょうか?

英国はなぜ世界の覇者になれたんでしょうか? この話を解く鍵は実はイギリスにはないと

記事を読む

角川文庫『ペリー提督日本遠征記』(Narrative of the Expedition of an American Squadron to the China Seas and Japan)

https://youtu.be/Orb9x7NCz_k https:

記事を読む

no image

Quora に見る歴史認識 知られていない歴史上の出来事の中には、知る価値のあるものがあるのでしょうか? 第二次世界大戦後に行われた米兵による日本の民間人への大量レイプである。

以前にもこれについて書いたことがあるが、その程度や実際に如何程酷かったのかを理解している人は少ない

記事を読む

PAGE TOP ↑