*

QUARA コロナ対処にあたってWHO非難の理由にWHOの渡航制限反対が挙げられていますが、これをどう思いますか?

公開日: : 最終更新日:2023/05/21 人口、地域、, 出版・講義資料

渡航制限反対は主に「中国寄りだから」という文脈で語られています。しかし調べてみれば、今回のコロナウイルスだけでなく、昔の伝染病ブレークアウトもWHOが一様に渡航制限に反対してきたことが分かります。

例えば

2009年のインフルエンザパンデミック

国立感染症研究所の旅行に関するQ&A

WHOはパンデミックインフルエンザ(H1N1)2009に関して渡航制限を設けていない。

パンデミックインフルエンザウイルスはすでに世界中に存在する。拡散防止のために国際的な渡航を延期することを指示する科学的根拠はない。世界各国は、予防手段、適正な医療機関への平等なアクセス、そして公衆衛生的な対応計画を開始しようとする国々を支援することでウイルスのインパクトを最小限にとどめることを最大の目的としている。

2014年のエボラ

エボラ熱対策の渡航・貿易禁止、WHO改めて反対

世界保健機関(WHO)は23日、西アフリカで感染が拡大しているエボラ出血熱について、専門家による緊急委員会が「渡航や貿易の禁止はすべきでない」と改めて強調したと発表した。渡航や貿易の禁止は感染国の経済を悪化させ、不法な出入国が増えて一段の感染拡大につながるとみている。米国などで渡航禁止を求める声が出ているのにクギを刺した格好だ。

また、渡航制限はブレークアウトした国にマイナスな影響をもたらす一方、それだけで伝染病の拡大防止に役立つ根拠があんまりありません。

上記国立感染症研究所のQ&Aで、渡航制限についてこんなことも言いました。

科学的研究に基づいた数理モデルの結果では、渡航制限による感染拡大防止効果はほとんど、あるいは全くないとなっている。過去のパンデミックインフルエンザやSARSがこのことを立証している。

マイナスな影響について、上記エボラに関する記事も言及しましたね。

渡航や貿易の禁止は感染国の経済を悪化させ、不法な出入国が増えて一段の感染拡大につながるとみている。

感染が集中的に起きた3カ国では、航空便の運航中止などの影響で経済状態が急速に悪化。支援もしにくくなったとされる。また、食料調達にも支障が出始めている。

また下記は米国の外交問題評議会の傘下組織が、今まで中国へ渡航制限をかけた国とかけてない国の感染状態を追跡してまとめた画像です。

赤い線はかけた国を意味し、青い線はかけてない国を意味します。

感染人数を比べる場合

百万人当たりの感染人数を比べる場合

Tracking Coronavirus in Countries With and Without Travel Bans | Think Global Health

渡航制限をかけた国が明らかに感染状態が良いということはありません、というかかけてない国と分別がつかないような状態です。

これについて、レポートは幾分遅らせることが可能だが、「渡航制限により、この新しいコロナウイルスの蔓延を止めることも、パンデミックになることを妨げることもない」と言い切っています。

実際、WHOもただの渡航制限ではなんの効果ももたらさないと警告したことがあります。

<新型コロナ>WHO、入国制限の乱用戒め 「防止策の一つ」

世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するライアン氏は十六日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界各国が相次いで導入している入国制限措置について「包括的な感染拡大防止策の一つにすぎない」と述べ、乱用は避けるよう訴えた。各国が入国制限で満足し、国内での感染拡大防止の取り組みがおろそかになることを懸念した発言。

記者会見でライアン氏は、感染者や感染経路の割り出し、クラスター(感染者の集団)の封じ込めといった感染拡大防止策を並行して行わなければ、渡航制限措置は「何の効果ももたらさない」と強調した。


つまり、WHOは過去の経験や研究から渡航制限に一貫して反対してきたし、実際中国への渡航制限の有無で感染状態が大きく異なったわけではありません。

ただ、過去がそうでも、百年以来のこのコロナウイルスのパンデミックにおいて、渡航制限がどれだけ感染の防止に役立ったかは後で研究が必要でしょうし、それに応じてWHOもやり方を変える必要があるかもしれません。それが人類の知恵や進歩というものですが、今それを特定の国と結びつけて批判するのは、このパンデミックを政治利用する感が否めない、というのが正直なところです。

関連記事

GOTOトラベルの政策評価のための参考書 『震災復興 欺瞞の構造』2012年 原田泰 新潮文庫

いずれ、コロナ対策としてのGOTOトラベル等の観光政策の評価が必要になると思い、災害対策等の先例を

記事を読む

no image

自動運転車の普及が、タクシー業やビジネスホテルに与える影響論議 早晩、稼業としての存続はなくなる

  『公研』2018.12.No.664の江田健二氏と大場紀章氏の対談の

記事を読む

no image

植田信太郎 脳の「大進化」(種としての進化)、「小進化」(集団としての進化)

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/rigakuru/03

記事を読む

『サイボーグ化する動物たち 生命の操作は人類に何をもたらすか』作者:エミリー・アンテス 翻訳:西田美緒子 白揚社

DNAの塩基配列が読破されても、その配列の持つ意味が分からなければ解読したことにはならない。本書の冒

記事を読む

no image

歴史は後からの例「殖産興業」

武田晴人『日本経済史』p.68に紹介されている小岩信竹「政策用語としての「殖産興業」について」『社

記事を読む

『「食糧危機」をあおってはいけない』2009年 川島博之著 文芸春秋社 穀物価格の高騰は金融現象

コロナで飲食店が苦境に陥っているが、平時には、財政措置を引き出すためもあり、時折食糧危機論が繰り返

記事を読む

テンミリオン計画(日本人海外旅行者数倍増計画) 広瀬真一賞 兼高かおる賞

引き出しの整理をしていたら、オレンジカードが出てきた。当時、海外旅行倍増計画(テンミリオン計画)を作

記事を読む

no image

「東日本大震災復興に高台造成はやはり必要なかった」原田 泰

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22460?utm_sou

記事を読む

no image

大関真之『「量子」の仕業ですか?』

pp101-102 「仮にこの性質を利用して、脳が人の意識や判断、その他の動作を行っているとしたら、

記事を読む

書評『法とフィクション』来栖三郎 東大出版会

観光の定義においても、自由意思を前提とするが、法律、特に刑法では自由意思が大前提。しかし、フィク

記事を読む

no image
🕌🎒2025シニアバックパッカー国連加盟国192か国達成の旅  リビア トリポリ

https://youtu.be/MDVZuy3TE3o

no image
🕌🎒2025シニアバックパッカー国連加盟国192か国達成の旅 計画作成

国連加盟国192か国を訪問するという計画も残り4か国となっている。その

no image
🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 福建省(24番目)厦門

中国渡航にビザが必要な段階で計画したので、金門島から廈門に渡る

🌍🎒シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 台湾省🏳‍🌈 金門島

  昨夜桃園空港から台北駅に鉄道で移

no image
🌍🎒シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 台湾省🏳‍🌈 台北

国連加盟国第一か国目は中国。1970年に香港、台湾と旅行した。当時は、

→もっと見る

PAGE TOP ↑