自動運転車の普及が、タクシー業やビジネスホテルに与える影響論議 早晩、稼業としての存続はなくなる
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最終更新日:2018/12/17
人流・観光政策への評論
『公研』2018.12.No.664の江田健二氏と大場紀章氏の対談の中で、「自動運転になると、停止状態はもったいないから必要な人のところに走らせる。劇的に効率的になる。稼働率が上がれば走行距離が長くなる。そうなればガソリンより電気の方がよくなるので、電気自動車が一気に普及する。そして効率的になるので必要とされる台数も劇的に減る」という記述があった。
自動運転車の普及が、電気自動車の普及につながる点と、効率的運送につながる点は否定しないが、すべてがそうなのか少し疑問がある。
私は車の使われ方が移動中心に考えるものから変化し、人流という面で使用されるのではないかと思っている。つまり、物流と同じように、単なる運送・移動ではなく、在庫・倉庫管理も含まれるように、宿泊と移動が一体としてとらえられるようになるとおもっている。さらに言えば、流通加工と同じように、作業も加わるのである。
自動運転車の場合、運転席スペースがハンドル等を収納スペースに入れることにより不要になるから、寝食空間や作業空間に使用できる。東京での講義を終えて、友人や学生との会食を済ませ、朝の一限の授業に間に合うように自動運転車で大阪に向かう。車内で翌日の講義ノートを作成した後、就寝する。途中でトイレに行きたく成れば、車に指示を出し、最寄りの空いているトイレに立ち寄ればいい。朝は最寄りの洗面所で顔を洗い、講義に出席する。講義が終われば、逆の工程で東京に帰ることになる。帰りには、東京ので就職活動をするという学生を同乗させてもよい。事故が起きた場合の責任といっためんどくさいことがなくなっているから気楽に引き受けられる。自宅に帰宅した後は、家族がその自動運転車を使って、買い物に出かけ、途中で知人とライドシェアをすることになる。
この生活がいつ始まるかはわからないが、早晩実現するであろう。その生活の中では、タクシー需要が減少するどころか。現在の形態のビジネスホテルの需要も大幅に減少していると考えられる。駅前に林立しているビジネスホテル群は跡形もなく消滅しているかもしれない。昔の国鉄の駅前には、駅前旅館だけではなく、鉄道貨物の営業所が存在した。丸通の店があり、駅頭倉庫があった。その駅頭倉庫は、高速道路沿いに移動し、貨物用地や駅頭倉庫の跡地は資産として売却されてビジネスホテル群に変化したのである。
地域のタクシーやビジネスホテルといった稼業的ビジネスは、自動運転車が本格的に社会に浸透するようになると、駅前の物流ビジネスが大きく変化したように、息子、娘の時代には同様に大きく変化するであろう。その影響は日本から発せられるのではなく、中国から発せられるのかもしれない。
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