白バスと白タク論議の峻別
現在の道路運送(昭和26年)が制定されるひとつ前に、昭和22年道路運送法があり、更にその前には自動車交通事業法があった。
自動車交通事業法は、1931年に制定され、自動車運輸事業とは一般交通の用に供するため、路線を定めて定期に自動車を運行して旅客又は物品を運送する事業とされていた。この時点ではタクシーは公共交通とは認識されていなかったのか、自動車運輸事業して規制されていなかった。(地方長官(知事)による警察許可?)
1947年道路運送法では、「自動車運送事業の種類」として一般自動車運送事業と特定自動車運送事業に区分し、前者のうち旅客運送は「一般乗合旅客自動車運送事業、一般貸切旅客自動車運送事業」に、後者も「特定乗合旅客自動車運送事業、特定貸切旅客自動車運送事業」に区分していた。自動車交通事業法と異なり、貸切運送の規制が実施され、タクシーも貸切バスも同じ貸切運送事業の範疇で捉えられていた。
昭和22年道路運送法においては、「自家用自動車の使用」の使用に関しては、52条(有償運送の禁止及び賃貸の制限)において「自動車運送事業用自動車以外の自動車は、対価を得てこれを運送の用に供してはならない。自家用自動車は、主務大臣の許可を受けなければ、対価を得てこれを貸し渡してはならない。」53条(使用の制限及び禁止の処分)「主務大臣は、自家用自動車(命令の定める乗車定員を有する乗用自動車を除く。)の使用がこの法律の目的に照らし適正でないと認めるときは、その使用を制限し、又は禁止することができる。」と規定していた。いわゆる白バス規制である。定時定路線の乗合バス事業の経営を維持するための規定であった。この53条において乗用自動車という用語が、政令で定義するものとして使用されていた(要調査課題)。
なお、19条(運送引受義務)においては「自動車運送事業者は、左の場合を除いては、運送の引受を拒絶してはならない。一 当該運送に関し旅客又は荷送人から特別な負担を求められたとき。二 当該運送が法令の規定、公の秩序又は善良の風俗に反するとき。三 天災その他やむを得ない事由に因る運送上の支障のあるとき。四 前各号に掲げる場合を除いて、命令の定める正当な事由のあるとき。」と規定し、13条(物品の附随運送)では「旅客自動車運送事業者は、命令の定めるところにより、旅客の運送に附随して物品を運送することができる。」と規定していた。バスによる荷物運送は昔から存在したのである。
現在も使用されている1951年道路運送法は、「自動車運送事業」とは、「他人の需要に応じ、自動車を使用して有償で旅客又は貨物を運送する事業をいう」と規定し、貸切旅客運送事業は、10人の定員を基準として、一般乗用旅客自動車運送事業と一般貸切自動車運送事業に区分した。タクシーと貸切バスが区分されたのである。当時は数量規制が行われていた時代であるから、区分する意味はあった。また、下記のように自家用自動車に関して詳細な規制規定が設けられることにより、貸切を含めた白バス行為、白タク行為も規制されることとなった。
第七章 自家用自動車の使用
(使用等の届出)
第九十九条 事業用自動車以外の自動車(以下「自家用自動車」という。)を使用しようとする者は、運輸省令で定める事項を運輸大臣に届け出なければならない。自家用自動車を使用する者が、届出をした事項を変更しようとするときも同様とする。
2 自家用自動車を使用する者は、自家用自動車の使用を廃止したときは、その日から三十日以内に、その旨を運輸大臣に届け出なければならない。
(共同使用の許可)
第百条 自家用自動車を共同で使用しようとする者は、運輸大臣の許可を受けなければならない。
2 運輸大臣は、自家用自動車の共同使用の態様が自動車運送事業の経営に類似していると認める場合を除く外、前項の許可をしなければならない。
(有償運送の禁止及び賃貸の制限)
第百一条 自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。但し、災害のため緊急を要するとき、又は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であつて運輸大臣の許可を受けたときは、この限りでない。
2 自家用自動車は、運輸大臣の許可を受けなければ、有償で貸し渡してはならない。
3 前条第二項の規定は、前項の許可について準用する。
(使用の制限及び禁止)
第百二条 運輸大臣は、自家用自動車を使用する者が左の各号の一に該当するときは、六箇月以内において期間を定めて自家用自動車の使用を制限し、又は禁止することができる。
一 第四条の免許を受けないで、自家用自動車を使用して自動車運送事業を経営したとき。
二 第百条の許可を受けないで、自家用自動車を共同の使用に供したとき。
三 有償で自家用自動車を運送の用に供したとき(前条第一項但書の場合を除く。)。
四 前条第二項の許可を受けないで、有償で自家用自動車を貸し渡したとき。
2 第三十二条第五項の規定は、運輸大臣が前項の行為をしようとする場合について準用する。
私が大阪陸運局勤務の時代の記憶では、市町村代替バスという用語が存在した。公共交通としてのバス事業を維持するため自家用バスが規制されていたものの、過疎地域においてはバス事業の経営が成り立たないため、市町村代替バスが自家用自動車運送事業として運営されており、その根拠規定として101条が存在したからである。今日以上に市町村代替バスの存在は大きなものがあった。現在地域協議会で時間をかけて論議が行われているが、私の記憶では、市町村代替バスはもっと効率的に行政処分が行われていたように思われる。公共性の強いバスの問題として認識されていたからであろう。タクシーとの調整はあまり問題にならなかったように思われる。
これが、2000年及び2002年の営業運送の需給調整規制に廃止により自家用自動車の規制も、下記のように簡素化されたこととなった。
(有償運送)
第七十八条 自家用自動車(事業用自動車以外の自動車をいう。以下同じ。)は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の用に供してはならない。
一 災害のため緊急を要するとき。
二 市町村(特別区を含む。以下この号において同じ。)、特定非営利活動促進法 (平成十年法律第七号)第二条第二項 に規定する特定非営利活動法人その他国土交通省令で定める者が、次条の規定により一の市町村の区域内の住民の運送その他の国土交通省令で定める旅客の運送(以下「自家用有償旅客運送」という。)を行うとき。
三 公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき。
従って、それまで101条の自家用自動車の有償運送の許可以上に規制が緩和されたものと理解することが当然と思われる。
今日、ライドシェアをめぐり、白タク行為禁止規定との関係が論議されているが、以上概観したように、自家用車の有償運送の禁止規定は、歴史的には定時定路線の乗合バス事業維持のための白バス規制であり、白タク行為の禁止は大都市における警察取り締まりの観点が中心であり、過疎地域における適用は中心課題ではなかったと思われる。
これがむしろ、自家用自動車の有償運送規定に、NPO規定等が追加されたことより、地域協議会等の手続き規定の複雑化と相まって、規制緩和以前の時代より厳しく認識されているとしたら、関係する当事者にとっても不幸なことである。
日本のタクシー事業者反応は、UBER等が世界各地において自家用自動車の有償運送行為を行っていることが影響しているのであるが、自治体行政として流しと車庫待ちを峻別する英米の法規制と、流しも車庫待ちも一緒に国が全国一律で規制する日本の法規制を一緒に考えること自体にも無理がある。
過疎地域の高齢者輸送は早晩大問題になるはずである。歴史を踏まえ冷静に自家用自動車によるライドシェア論を論議しなければならないであろう。
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