事業所管官庁と規制官庁 グレーゾーン解消制度の運用に関する感想
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若いころ、運輸省大臣官房情報管理部情報処理課に勤務した。当時から何をしているところですかと聴かれ困ったものである。
敬愛する先輩のO氏が官房文書課法規班長の時代に、情報処理振興協会(JIPTEC)法の所管をめぐり、情報化行政の所管をめぐり大活躍し、運輸に関する情報行政は運輸省であるという覚書を通産省、郵政省と取り交わし、今でも続いている情報化月間(当時は週間)に三省対等に参加した経緯がある。その担当課が情報処理課であり、O氏からいただいたノートが課長補佐の引き出しに保存されていた。
通信回線の自由化をめぐり霞が関全体が大きく揺れた時代がある。電電公社の民営化である。運輸省にとっては、国鉄民営化の前哨戦でもあった。通産省は、情報行政は通産省所管であると論陣を張っていた。そのときに、私は、官房企画部門におり、例の覚書があることを承知していたから、通産省に対して、運輸に関する情報行政は運輸省であると主張し、実質的に郵政省に見方をした記憶がある。その時の上司が元法規班長のK氏であり、元法制局参事官のN氏であったから、強力であった。通産省は、情報行政を実施するといって資料を持ってきた。内容を見ると税制が中心である。私は税は大蔵省の所管であり、通産省ではないのではないかといって相手を困らせた記憶がある。大蔵省にしてみると、要求官庁があった方が便利であるが。
中央省庁改革法で、役所の在り方がかわり、また行政官庁事務方の取り交わした覚書も、行政手続法、行政情報公開法によりあり方が変化しているであろう。獣医学部新設をめぐる議論でも行政文書が問題化する時代である。私が役所に入ったころは、行政官の能力は、所管論争に強いことも重要であったと思われていたが、それも大きく様変わりしており、首相官邸のウェイトが格段に大きくなっている。忖度しないと生き残れないのであろう。
さて、新規ビジネス促進のため、産業競争力促進法が制定され、グレーゾーン救済制度というものが作られている。ベンチャー立ち上げに活用されているようである。新規事業を立ち上げる際に、既存の法令に抵触するリクスがあり、それを事前に回避するための制度である。
法律の解釈は最終的には最高裁判所にあるが、日本の裁判は時間がかかり、役に立たない。政府の法律解釈見解は、内閣(内閣法制局)にある。内閣法制局の場合は、規制改革担当部局の意見もはいるから、実情より論理が優先する。憲法解釈がその例である。ベンチャー立ち上げには、既存業界の意見だけではなくなるから、その分有利になるであろう。
国会議員は政府に政府の法令解釈を問いただすことができ、質問主意書という形で問いを発する。私も加賀市長時代に、法律解釈ではないが古九谷を巡る見解を地元選議員を通じてしてもらったことがある。閣議決定を経て文章で示されるから、国会の質問答弁のような曖昧なものではない。しかし、実際の日常の行政解釈は担当部局、しかも、窓口の人間が行っている。それでも、違反でないと決まるまでは一種の公定力があるから、厄介である。そこでグレーゾーン解消制度ができたのであろう。経済産業省らしい発想である。
さて、道路運送法の解釈もグレーゾーン解消制度に持ち込まれている。新規ビジネスが「有償運送」違反に触れるか否かということである。そこで気が付いたのは、カーシェアリングやドライーバーのマッチングに関する事業所管官庁が経済産業省になっていることである。その新規ビジネスの所管が経済産業省であり、道路運送法や都市計画法等の規制官庁に法解釈を事前に問い合わせするという仕組みになっている。この法制度がなければ、規制官庁に直接問合せしなければならなかったであろうが、具体的申請書が出てこなければ、公式の解釈など出てこなかったのも実情であったであろう。
運輸の情報処理は、厚生労働省などとは異なり運輸省、現在の国土交通省であったはずであるが、グレーゾーン解消制度の回答を見ると、いつの間にか経済産業省になっていた。しかもそのことに、自動車局は全く疑問を感じていないようである。その方が進化しているのかもしれず、霞が関文化がすべてではないであろう。旧運輸陸上行政の中で発言力があるのは、鉄道行政、自動車行政、観光行政、情報行政の順であった。それは業界の順でもあった。通訳案内士の位置もわかるであろう。従って、運輸情報での起業はゲリラ的にしかできなかったであろう。グレーゾーン解消制度の活用例には、ICT時代に逆行するような解釈もあるが、違法白タクに手を焼く面もあり、現実的にはこのあたりなのかもしれない
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