*

QUORAに見る観光資源 日本から出たことがないのでわからないのですが、日本は本当に治安が良いのですか?松本 貴典 (Takanori Matsumoto),

公開日: : 最終更新日:2020/12/01 観光資源を考える

日本から出たことがないのでわからないのですが、日本は本当に治安が良いのですか?松本 貴典 (Takanori Matsumoto), 都内の大学の経済学部教授 (1989〜現在)更新日: 3月16日

回答者の皆さんが、ご経験から日本の治安の良さを述べておられますね。私も帰国すると同様の感慨を懐きます。

皆さまのこうした感慨はどこから来るのでしょうか? 私は、このご回答においては、犯罪の経済学という、自分の専門分野の知見に基づいて客観的な数値をお示しし、

  • 現代世界における日本の治安の良さはどれほどのレベルか
  • この日本の治安の良さは、長期的、つまり過去1000年の治安レベルの推移から見ると、どのようなことが言えるか

について、お話ししようと思います。

まず、最初に結論から述べます。私からのご回答は、客観的な数値が示唆しているように、

  • 現代世界において、日本は最も治安が良好に保たれている国である
  • この日本の治安のレベルは、史上現れたすべての国の中でも最高の水準にある

と言えるいうことです。

※なお、治安のレベルを測るのには、一般的に人口10万人あたりの殺人件数(過失やテロによる死者を含む)を利用することが多いので、以下でもその慣行に従います。


●日本は最近は本当に物騒になったのか?

いいえ日本は世界で最も治安のいい国です。以下の図をご覧下さい。

[United Nations Office on Drugs and Crime ( UNDOC ), Global Study on Homicide, 2018 から投稿者が作成 ]

縦軸は2017年の殺人発生率、横軸は2000年の殺人発生率です。見やすくするため、両軸とも対数目盛にしてあります。

さて、日本の治安レベルの世界的位置を確認しておきましょう。

回答者の皆さんがご指摘なさっている国や地域がグラフの左下に見えますね。シンガポール(SGP)、アラブ首長国連邦(UAE)、それ以外にも、ルクセンブルグ(LUX)、香港(HK)、そして、それらの中でも最も左下にドットされているのが、日本(JPN)です。

これが治安についての世界比較における日本の実態なのです。よく言われるように「世界で最も高度な治安が保たれている国は日本である」というのは、客観的な事実として正しいのです。

痛ましい事件が起きるたびに、「最近の日本は物騒になった」という言説はいたるところで日々垂れ流されています。むろん用心するにこしたことはありません。

しかしながら、こうした煽り文句の横行は少々困った事態です。何と言ってもこれは虚偽だからです。むしろ、21世紀になってから、さらに日本の治安は改善されており、殺人発生率は2000年が0.4件でしたが、2017年には0.2件にまで半減してさえいるのです。


一方で、参考までに、治安が悪い国を見ておきましょう。まず、よく日本との対比で言及されるアメリカ(USA)はどうでしょう。2000年には5.5件、2017年には5.3件で、これは日本の25倍程度になります。ちなみに、ヨーロッパの例として採用したイギリス(UK)は1.6および1.2で、日本の6倍程度です。やはり、先進国の中では、アメリカの治安は良好とは言えないでしょう。

しかし、皆さん、アメリカに滞在なさったり旅行なさったりする際に、「外出の際には時間と場所に気をつけて」と助言はされても、「外出などもってのほか」と制止された人はほとんどいないのではないでしょうか。私もそうです。

しかしながら、世界には、日本はもちろん、アメリカなどのレベルを、悪い意味ではるかに凌駕した治安の悪い国があります。これらの国では「昼間でも一人で出歩いてはいけない」というアドバイスがされることすらあります。グラフの右上に集まっている国々がそうです。

エルサルバドル(ELS)ホンジュラス(HDL)ジャマイカ(JAM)南アフリカ(SAF)コロンビア(CLB)が現状では世界で最も治安が悪い国です。紛争地域よりもさらに治安がよくありません。どれくらいのレベルかというと、「殺人発生率が日本の300倍」と指摘させていただくだけで十分でしょう。

以上より、ほかの回答者の皆さんの多くが懐かれた感慨は、客観的事実として正しいことを再度指摘しておきます。「日本は世界で最も安全な国である」のはまぎれもない事実なのです。


●日本の安全は世界史上どのようなレベルなのか?

この高度に保たれた日本の治安は、人類史上、どのような位置にあるのかは、皆さまにぜひ知っておいていただきたい事実です。ご質問にお答えするなら上記の記述だけで十分なのですが、あえて贅言を弄します。

理由は、日本人のほとんどが自覚していない事実、「この日本の治安のよさは人類史上の奇跡と呼べる水準にある」ことをお示しするためです。

[Manuel Eisner, “Long-Term Historical Trends in Violent Crime,” Crime and Justice: A Review of Research, Vol. 30, 2003, pp.83-142 に投稿者が補記]

グラフをご覧下さい。これは、スウェーデン、イングランドおよびウェールズ、スイス、イタリアにおける殺人発生率を超長期的に見たものです。右側の緑の点は、私が補記したものです。

超長期的に見た場合、ヨーロッパでは殺人事件発生率はたいへん急速に――最大で100分の1にまで――減少してきています(縦軸は対数目盛になっている点にご注意下さい)

むしろ、研究者は、20世紀後半から欧州での数値が上昇してきていることに懸念を表明しているほどですが、それでも現代は、長期傾向的には、治安が向上してきていることはまちがいないでしょう。

しかし、前段で検討した、世界で最も治安が悪い国であるエルサルバドル(ELS)、ホンジュラス(HDL)、ジャマイカ(JAM)、南アフリカ(SAF)などでの殺人事件発生率は、700年前のヨーロッパのレベルです。

14~15世紀のヨーロッパは大混乱の時代です。教皇のバビロン捕囚を象徴とする宗教界と政治権力の対立、教会の大分裂による混乱、ヨーロッパ全土を巻き込んだ百年戦争、薔薇戦争、フランスやイングランドでの大規模な農民反乱など、国家間はもちろん国家内での地域紛争も頻発しました。世俗ともに大いに乱れた時代でした。

この時代の治安レベルを想像するのは、異端審問裁判を経て19歳のジャンヌ・ダルクがどのような最期を遂げたか想像するだけで十分でしょう。

そして、この混乱のままなのが、現在の中米や南アフリカなのであるという事実――つまり数百年前の治安状況が現代に残されているという事実――には正直驚愕します*。

ちなみに、アメリカは300年前前後のヨーロッパとほぼ同じ状況、イギリスは大健闘でかなり治安の向上に成功しているといってもいいでしょう。


さて、一方で、この図の中でひときわ目立つのが現代日本(JPN)の治安レベルです。グラフから明らかなように、過去1000年間で、ここまで治安がよく安全だった国は存在しませんでした。驚くべき数値の低さです。

私が指摘しておきたいのは、ヨーロッパとの比較だけからではあるものの、大胆にいえば、「この日本の治安のレベルは、おそらく史上現れたすべての国の中でも最高の水準にある」という、客観的事実です。

われわれは、世界でも屈指の豊かで幸福なこの国[1] [2] に暮しながら、この事実を明確には認識していないのではないでしょうか。「この日本の治安のよさは人類史上の奇跡と呼べる水準にある」のにも関わらず。

日々この国では「日本の不安」が垂れ流されています。むろん用心にこしたことはありません。

しかし、青い鳥を探し求めた結果、青い鳥が実はどこにいたのかを、われわれはもう少し自信を持って思い出してもいいのではないでしょうか。

長文におつきあいくださり、ありがとうございました。


*中国の治安の推移は、管見のかぎり、現状では大きく研究が進んではいません。しかし、グラフ内に該当する期間に、宋、元、明、清、中華民国、中華人民共和国と国は移り変わりましたが、そのたびに民間人をも含めた大虐殺が発生したことは、歴史的事実です。
たとえば、明から清への移行期には大規模な虐殺が記録されています。具体的には、中国語で「屠川(Tú chuān)」といえば、被害者が最大300万人ほどとされる四川省大虐殺のことであり、ほかにも『揚州十日記』(Yáng zhōu shí rì jì)に記録されている、揚州住民の清軍による、80万人とされる大虐殺があったことを考えれば、中国での治安が長期にわたって良好だったとは想像し難いでしょう。被害者数が過大に記されているはずですが、当時の人口から、この場合の殺人比率をもとめると、1600年代には、前者で30000人、後者で800人というにわかには信じがたい数値になります。

.

==========補記(2020年2月5日)==========
コメントを拝読して、書いておくべきことがあると考えましたので、若干の補記をいたします。

「客観的な治安の良さは分かったけれど、なぜ、こんなにも高度な治安が維持されているのか」という疑問にお答えする必要はあると思います。

むろん、当方にも回答の用意はあるのですが、あまりにも長文になるので、この件については後日を期したいと思っております。

脚注

[1] お金があれば幸福度が上がっていくでしょうか?「お金=幸福」という方程式は正しいですか?に対する松本 貴典 (Takanori Matsumoto)さんの回答

[2] 昔は良かったという人が多いですが、昔の何が良かったと思いますか?今の方が発展していて住みやすいと思うのですが。に対する松本 貴典 (Takanori Matsumoto)さんの回答

関連記事

no image

敗戦後の心のよりどころ「戦艦大和」と「ゼロ戦」を国民がいつから認識し始めたか? 観光資源を考える

大和の存在が初めて国民に広く紹介されたのは、1952年に発刊された吉田満の小説「戦艦大和ノ最期」

記事を読む

no image

QUORAにみる観光資源 フランスには第一次世界大戦がきっかけで未だに住むことのできない地域があるって本当ですか

この回答は次の質問に対するQuora英語版でのRichard Sampleさんの回答です (ご本人

記事を読む

no image

Quoraに見る観光資源 タモリさんは何がすごくて芸能界で大御所扱いされているのですか?

回答 · 日本 · 関心がある可能性があるトピックタモ

記事を読む

no image

Quoraに見る観光資源 ジョージ・フロイドさんが実際に死亡する経緯が録画

地面に押し付けられる前から呼吸が苦しいと訴えているので実際に呼吸あるいは心臓停止が首部圧迫で起こっ

記事を読む

no image

Quoraに見る観光資源 主に中国の方に質問です。中国人は中華人民共和国のことを多民族国家と言いますが、ウイグルなどの弾圧についてどうお考えでしょうか?

久しぶりに敢えて火中の栗を拾ってみます。反論と言うか、せっかくなので新疆の素晴らしさのPRをします

記事を読む

no image

保護中: Quoraに見る観光資源 世界で最も有名な詐欺師は誰でしょうか?

美術オークションの仕事世界で最も有名な詐欺師は誰でしょうか? フェルメール贋作 ナチスを騙し

記事を読む

no image

Quora 古代日本語の発音

youtubeで、「百人一首を当時の発音で朗読」という動画を見ました。奈良・飛鳥時代の上代日本語で

記事を読む

no image

Quoraに見る観光資源 靴を脱ぐ 日本の一般的な家には絶対あるが、アメリカにはないものは何ですか?

日本の一般的な家には絶対あるが、アメリカにはないものは何ですか?Makiko Nukaga

記事を読む

no image

観光資源としての「伊豆の踊子」

日本観光協会時代からの友人である伊勢観光協会OBの人たちに誘われ、河津桜見物に出かけた。仲間に加えて

記事を読む

no image

QUORAにみる観光資源   なぜ、現代に、クラシックの大作曲家が輩出されないのですか?大昔の作曲家のみで、例えば1960年生まれの大作曲家なんていません。なぜでしょうか?

とっくの昔に旬を過ぎている質問と思われますが、面白そうなので回答します。 一般的に思われてい

記事を読む

no image
ヴァーチャル旅行 韓国編 仁川、江華島、水原

◎仁川 松月洞童話村 (仁川) 雪の華村

no image
ヴァーチャル旅行 中国編➀ 番外 ベトナム(ランソン)・南寧

https://4travel.jp/os_shisetsu_tip

no image
ヴァーチャル旅行 韓国編  大邱、大田、全州

◎大邱 コロナ禍急ぐたびでもなく、最安値の便を検索。N

ヴァーチャル旅行 韓国編 鬱陵島、独島・竹島

07:34東大邱駅発(KTX)→ 08:08浦項(ポハン)駅着タク

no image
移民と治安は関係がない資料

→もっと見る

PAGE TOP ↑