*

イサベラバードを通して日韓関係を考える

公開日: : 最終更新日:2023/05/21 出版・講義資料, 歴史認識

Facebook投稿文(2023年5月21日)

徳川時代を悪く評価する「薩長史観」が主流の時代には、日本の自然をほめたたえたイサベラバードの『日本奥地紀行』(Unbeaten Tracks in Japan)が話題になることは今日ほどではなかった。21世紀になり五全総「美しい国土の創造の創造」の参考書となりよみがえった。イサベラバードは1894年から1897年にかけて、4度にわたり末期の李氏朝鮮を訪れた旅行の記録も残している。それが『朝鮮紀行』(Korea and Her Neighbours)である。若い韓国人の間でもイザベラ・バードの名はよく知られているが、これは高校の国語の教科書に載っているためといわれている。
それだけに、『朝鮮紀行』に記述されている内容をめぐって、日韓で議論が活発になされたことがある。その訳し方をめぐって議論がなされた場合もあるが、「「朝鮮紀行が改竄された」というデマが流れた。それが一巡したところで「それはデマだ」の情報を流す。当然真実なので定着。で、「ここから本格的に改竄する。」というとんでもない情報合戦が行われたようである。私の個人的感想では、概してイザベラ・バードは朝鮮に対し否定的な感想を書いているとの印象があるが、朝鮮人の外国語習得の速さ、体格・容貌の優越、治安の良さ等を称賛した記述もある。風光や気候や土壌の肥沃さといった朝鮮の自然を称賛した箇所もある。自然災害が多発する日本との比較においては正確な観察である。
観光学研究者として印象に残ったのは「路銀」のことである。貨幣・通貨の流通について、小額金属貨幣(藁銭)を持ち歩かなければならず、そのために人を雇わなければならない不便さを記述している。銀行が町にないと記しており、また日本の円がソウルと条約港で通用したことを記している。ソウルには芸術品や公園や劇場、旧跡や図書館も文献もなく、寺院すらないため、清や日本にある宗教建築物の与える迫力がソウルにはないとしている。 本文中2章を割いているシャーマニズムについては著者自身も大きな関心を抱いたようで、悪霊払いのプロセスを延々と紹介している部分もある。観光資源としてモンゴルのシャーマニズム調査に参加したことのある私にとっては興味ある箇所であった。
両国の経済力、人口規模は、併合当時も国民1人あたりのGDPで2対1、人口規模でも2対1程度であり、日本が優位であったのは「広義の軍事力」であった。しかし、徳川時代の日本と違い、両班体制の李氏朝鮮王朝は、政権中枢を軍事的に制圧してしまえば、日本が李王朝に取って代わることも、さして困難ではなかった。 また同書では、規律がなく略奪や暴行を働く清国軍のことを記述するが、朝鮮人の反日感情は当時でも相当強く、何故か反中国感情は芽生えないのである。日韓併合前でさえそうだったことを考えると、今後の日中韓の関係を考える上でも参考になる。

ブログ原稿

日本と韓国、北朝鮮の間の観光を考えるには、両国間の歴史認識をめぐるギャップについて理解をしておかなければならない。徳川時代を悪く評価する「薩長史観」が主流の時代には、日本の自然をほめたたえたイサベラバードの『日本奥地紀行』(Unbeaten Tracks in Japan)が話題になることは今日ほどではなかった。21世紀になり五全総「美しい国土の創造の創造」の参考書となりよみがえった。イサベラバードは1894年から1897年にかけて、4度にわたり末期の李氏朝鮮を訪れた旅行の記録も残している。それが『朝鮮紀行』(Korea and Her Neighbours)である。若い韓国人の間でもイザベラ・バードの名はよく知られているが、これは高校の国語の教科書に載っているためといわれている。

それだけに、『朝鮮紀行』に記述されている内容をめぐって、日韓で議論が活発になされる。その訳し方をめぐって議論がなされる場合もある(注1)が、「「朝鮮紀行が改竄された」というデマを流す。それが一巡したところで「それはデマだ」の情報を流す。当然真実なので定着。で、ここから本格的に改竄する。」というとんでもない情報合戦が行われているようである(注2)。しかし日本人として読めば、概してイザベラ・バードは朝鮮に対し否定的な感想しか書いていないとの印象があるのは事実であろう。しかし、朝鮮人の外国語習得の速さ、体格・容貌の優越、治安の良さ等を称賛した記述もある。風光や気候や土壌の肥沃さといった朝鮮の自然を称賛した箇所もある。自然災害が多発する日本との比較においては正確な観察である。

観光学研究者として印象に残ったのは「路銀」のことである。貨幣・通貨の流通について、小額金属貨幣(藁銭)を持ち歩かなければならず、そのために人を雇わなければならない不便さを記述している。銀行が町にないと記しており、また日本の円がソウルと条約港で通用したことを記している。ソウルには芸術品や公園や劇場、旧跡や図書館も文献もなく、寺院すらないため、清や日本にある宗教建築物の与える迫力がソウルにはないとしている。 本文中2章を割いているシャーマニズムについては著者自身も大きな関心を抱いたようで、悪霊払いのプロセスを延々と紹介している部分もある。観光資源としてモンゴルのシャーマニズム調査を実施したことのある私にとっては興味ある箇所であった。

両国の経済力、人口規模は、併合当時も国民1人あたりのGDPで2対1、人口規模でも2対1ほどであり、優位であったのは「広義の軍事力」であった。しかし、徳川時代の日本と違い、両班体制の李氏朝鮮王朝は、政権中枢を軍事的に制圧してしまえば、日本が李王朝に取って代わることも、さして困難ではなかった(注3)。  また同書では、規律がなく略奪や暴行を働く清国軍のことを記述するが、朝鮮人の反日感情は当時でも相当強く、何故か反中国感情は芽生えないのである。日韓併合前でさえそうだったことを考えると、今後の両国関係を考える上でも参考になる。

( 注1) www7.plala.or.jp/juraian/korrepalt.htm

(注2)。イザベラ・バードの朝鮮紀行を韓国が改竄か? ~情報を求めています~

(注3)下記HPでは「敗戦後の連合軍占領統治下における日本人の無抵抗ぶりを見よ」と感想を書き込んでいる。

http://www.amazon.co.jp/gp/cdp/member-reviews/A3JDDYXUQ5QA5M/ref=cm_cr_pr_auth_rev?ie=UTF8&sort_by=MostRecentReview

 

関連記事

no image

日経新聞2019年5月18日見出し「池袋暴走の87歳、ミス否定 「ブレーキ踏んだ」説明」へのTanaka Yukoh氏のNewspicksのコメントが秀逸ですが、イイネは少ないです。紹介します。

大変痛ましく残念な事件ですが。ただ、こういうのは御遺族もおられる事ですから、どうぞ冷静に。

記事を読む

『尖閣諸島の核心』矢吹晋 鳩山由紀夫、野中務氏、田中角栄も尖閣問題棚上げ論を発言

屋島が源平の合戦の舞台にならなければ観光客は誰も関心を持たない。尖閣諸島も血を流してまで得るもの

記事を読む

『近世社寺参詣の研究』原淳一郎

facebook投稿文章 「原淳一郎教授の博士論文「近世社寺参詣の研究」を港区図書館で借りて

記事を読む

『飛躍への挑戦』葛西敬之著

図書館で取り寄せて読んだ。国鉄改革については、多くの公表著作物に加え、これからオーラルヒストリが世

記事を読む

no image

2022年8月ジャパンナウ観光情報協会原稿 アフターコロナという名の観光論 原稿資料

 ◎ジャパンナウ原稿案 2020年冬から始まった新型感染症は日本の人流・観光業界に

記事を読む

no image

『サカナとヤクザ』鈴木智彦著 食と観光、フードツーリズム研究者に求められる視点

築地市場から密漁団まで、決死の潜入ルポ! アワビもウナギもカニも、日本人の口にしている大

記事を読む

no image

電力、情報、金融の融合

「ブロックチェーンとエネルギーの将来」阿部力也 公研2019No673 電気の値段は下がって

記事を読む

no image

『日本経済の歴史』第2巻第1章労働と人口 移動の自由と技能の形成 を読んで メモ

面白いと思ったところを箇条書きする p.33 「幕府が鎖国政策によって欧米列強の干渉を回避した

記事を読む

『はじめての認知科学』新曜社  人工知能研究(人の知性を人工的に作ろうという研究)と認知科学研究(人の心の成り立ちを探る研究)は双子

人工知能研究(人の知性を人工的に作ろうという研究)と認知科学研究(人の心の成り立ちを探る研究)は

記事を読む

no image

保護中: 書評『脳は空より広いか』エーデルマン著 冬樹純子訳 草思社

エデルマンは、Bright Air、Brilliant Fire、Wider than the

記事を読む

no image
ロシア旅行の前の、携帯wifi準備

https://tanakanews.com/251206rutrav

no image
ロシア旅行 田中宇

https://tanakanews.com/251205crimea

no image
2025年11月25日 地球落穂ひろいの旅 サンチアゴ再訪

no image
2025.11月24日 地球落穂ひろいの旅 南極旅行の基地・ウシュアイア ヴィーグル水道

アルゼンチンは、2014年1月に国連加盟国58番目の国としてブエノスア

no image
2025年11月23日 地球落穂ひろいの旅 マゼラン海峡

プンタアレナスからウシュアイアまでBIZBUSで移動。8時にPUQを出

→もっと見る

PAGE TOP ↑