*

『チベットの娘』リンチェン・ドルマ・タリン著三浦順子訳

公開日: : 最終更新日:2023/06/02 出版・講義資料, 歴史認識

河口慧海のチベット旅行記だけではなく、やはりチベット人の書物も読まないとバランスが取れないと思い、標記図書を読んでみた。
河口慧海の旅行記に出てくる日本人から見て不潔である日常の風習や性風俗に関する感覚が大きく異なることがわかる。このことは明治期の日本の風習も、イサベラバード等の欧米人から見れば不潔で野卑であったことから、相対的なものなのであろう。そういうパリやロンドンの不潔さも現代人から見れば耐え難いもので、江戸の町の方が清潔であったかもしれない。

著者は、父親は日本でいえば総理大臣や大老に当たるような人であるが、政争の中で暗殺されている。12歳くらいの時にダージリンに留学(一週間以上歩いていかなければならなった)して英語ができる教養人である。夫もダライラマ13世に重用された田中角栄のような立身出世をした人であった。姉二人もその夫の夫人である。姉の夫の秘書をしている間に、自身もできちゃった婚でその夫の子供を産んでいる。面白いのは、夫は歳の差があり、妹に縁談があった時に、著者にその縁談を回して推薦しているところである。シッキムの総理大臣の家柄に当たる夫であるが、政争でチベットの荘園に避難してきていたようであるが、ダライラマ14世と結局インドに亡命している。自身の子供を産むときに、ダライラマ13世が死亡した時期であり、男の子のばあい、14世になる可能性もあったと記述しているから、やはり「転生」というのも神話なのであろう。小作人の悲惨な状況は河口慧海とは異なり記述が見当たらないのは、仕方がない。

中国共産党初期の北京、成都等の様子が記述されており面白い。チベットから見ればやはり先進地域として描かれている。共産党の規律の問題も多少わかる。国民党のようにいきなり野蛮行為を行ったわけではなさそうであるが、はやり人間社会であることもわかる。

「1642年にダライ・ラマ5世が宗教上の指導者とチベット政府の最高指導者を兼ねるようになってから、1950年に共産主義者がチベットを侵略するまでの長い年月、歴代のダライ・ラマは、2つの勅任官組織の助けをかりて政治を行なってきました」。
「(父と兄が暗殺された1年後の1913年に)母は(3歳の)私たち全員をひき連れて、デープン僧院からラサに戻りました。ちょうどダライ・ラマ法王が帰還なさった時で、中国人が駆逐され、チベットの独立が宣言されたことを誰もが祝っている最中でした。残念なのは、祖国のためにあれほどつくした父が、生きてこの喜びに加わることができなかったことです。しかし、ダライ・ラマ法王は父の忠誠心を憶えておいでで、母に対して惜しみのない同情を示されました」。「1940年代も後半、私たちは中国人民解放軍がチベットに迫りつつあるとの噂を耳にしました。・・・デリーでは、中国との交渉が開始されていましたが、『チベットは中国の一部であることを認めよ』というのが、中国側の主張でしたから、チベット側も一歩も譲るわけにはいきませんでした。・・・1951年5月、これらの高官たちは、(16歳の)法王およびチベット政府になんら諮ることもないまま、無理やり十七条協定に調印させられたのです。国連からも他の国からもなんら援助をえられなかった私たちは、この屈辱的な協定を呑むほかなく、ダライ・ラマ法王は、ヤトゥンに5ヵ月滞在した後にラサに戻られました」。国連は蒋介石政権が参加しているから中国領としている。「当時、ラサには張経武将軍の一行をのぞくと中国人は、ほんの一握りしかいませんでした。けれどもそれから1年もたたないうちに、1万もの人民解放軍(男性も女性もいました)がラサに進駐してきました。・・・中国人がくるまで、チベット人は幸せな民族であり、それなりに快適な生活をおくっていました。チベットは決して富んだ国ではありませんでしたが、衣食は足りていましたし、不作の折にも、政府が備蓄していた穀物を放出してくれるシステムになっていました。・・・チベット人の生活様式にはさまざまな欠点もあったでしょうが、人々は心みちたりてのんきに生きていました」。

河口慧海著『チベット旅行記』の記述  「ダージリン賛美が紹介されている」

🌍👜シニアバックパッカーの旅 なぜチベットが国際問題になるのかーー中東と同じ構造

関連記事

no image

運輸省(航空局監理部長)VS東亜国内航空(田中勇)のエピソード等

https://www.youtube.com/watch?v=flZz_Li7om8

記事を読む

no image

英国のドライな対外投資姿勢 ~田中宇の国際ニュース解説より~

私の愛読しているメール配信記事に田中甲氏の田中宇の国際ニュース解説 無料版 2015年3月22日 h

記事を読む

no image

保護中: 学士会報No.946 全卓樹「シミュレーション仮説と無限連鎖世界」

海外旅行に行けないものだから、ヴァーチャル旅行を楽しんでいる。リアルとヴァーチャルの違いは分かっ

記事を読む

no image

Quora ヒトラーはなぜ、ホロコーストを行ったのですか?

https://jp.quora.com/%E3%83%92%E3%83%88%E3%83%A9

記事を読む

no image

『日本経済の歴史』第2巻第1章労働と人口 移動の自由と技能の形成 を読んで メモ

面白いと思ったところを箇条書きする p.33 「幕府が鎖国政策によって欧米列強の干渉を回避した

記事を読む

no image

Quoraに見る歴史認識 偉い人ほど責任をとらなくてよくなる、日本特有の謎システム、インパール作戦から続く日本伝統ですか?

元々は江戸時代に確立された風習ですね。 すなわち。 江戸幕府というのは、不思議

記事を読む

no image

「戦争を拡大したのは「海軍」だった」 『日本人はなぜ戦争へと向かったのか戦中編』NHKブックス 歴史は後から作られる例

https://www.j-cast.com/bookwatch/2018/12/09008354

記事を読む

no image

Quora カンボジャ虐殺の原因は米軍という解釈

Osamu Takimoto·金10年ほど海外で生活していました最も誤解されている歴史上の人物は誰

記事を読む

no image

Transatlantic Sins お爺さんは奴隷商人だった ナイジェリア人小説家の話

https://www.bbc.co.uk/programmes/w3cswg9n BBCの

記事を読む

『セイヴィング・ザ・サン』 ジリアン・テッド

バブル期に関する書籍は数多く出版され、高杉良が長銀をモデルに書いた『小説・ザ・外資』はア

記事を読む

PAGE TOP ↑