*

人口減少の掛け声に対する違和感と 西田正規著『人類史のなかの定住革命』めも

多くの田舎が人口減少を唱える。本気で心配しているかは別として、政治問題にしている。しかし、人口減少とは定住人口の減少のとことであるから、人は定住が前提と思い込んでいる。そのうえで交流人口の増加という逃げ道を見出しているのである。しかし、本書は、「遊動生活者が定住生活を望むのは、あたかも当然であるかのような思い込み」をうたがい、長い人類史の大部分を占める遊動生活こそ人類の「肉体的、心理的、社会的能力や行動様式」に適したものであったとする。「定住生活は、むしろ遊動生活を維持することが破たんした結果として出現した」とまでいう。筆者は「変化」(あるいは退化)を「進歩」と強弁する現代社会の常識に対する怒りのようなものを感じているようだ。「採集か農耕かということより遊動か定住かということの方が、より重大な意味を含んだ人類史的過程」と考えるのである。p.64 住生活は、体重が50キロ程度もあり、しかも集団で暮らす動物の生活様式としては、極めて特殊

講談社の学術文庫の本書の紹介は、「霊長類が長い進化史を通じて採用してきた遊動生活。不快なものには近寄らない、危険であれば逃げてゆくという基本戦略を、人類は約1万年前に放棄する。ヨーロッパ・西アジアや日本列島で、定住化・社会化はなぜ起きたのか。栽培の結果として定住生活を捉える通説はむしろ逆ではないのか。生態人類学の立場から人類史の「革命」の動機とプロセスを緻密に分析する」とある。

観光の定義を、「日常生活圏を離れ、非日常行動をすること」とすると、日常生活圏が定住により存在するから、定住ありきの概念になる。しかし、定住以前の人類の期間の方が圧倒的に長い。そこで筆者は本書p.22で「旅行によって得ている楽しみの本質もここにあるに違いない。遊動生活の伝統の中で獲得してきた人類の大脳や感覚器は、キャンプを次々と移動させる生活によって、常に適度な負荷が与えられるのであろう。大脳への新鮮な情報供給の不足、あるいは退屈だということが、キャンプ移動の動機として働くこともある」と記述するのである。

第一章「定住革命」で、著者は、これまでの栽培の結果として定住生活が始まったという定説を否定する。遊動生活の破綻の結果としての定住生活。それは、人類の全てを定住生活に向けて再編成した、革命的な出来事だと著者は評価する。定住化については、気候変動により狩猟生活が厳しくなり、反対に植物性の食料が豊富に取れるようになったことから定住したというのが一般的なイメージ

第二章での、移動する理由についての説明。ひとつところにとどまると、どうしても起こる排泄物などの環境汚染。それを避けるために移動する、と著者は書く。

著者は定住化がもたらした人類の変化の問題点について危機感を持っている。しかし後戻りは出来ない。人類はあまりに数を増やしすぎたのだ。定住せざるを得ず、特権階級だけが移動生活が許されるという逆転現象が起きている

主題は狩猟採集民から、農耕民に至るまでの、人類の歩みを論考と発掘された史料からの証明によって裏付けていくというもの。題名にあるように人類の定住化を産業革命と同等に高く評価すべきとし、特に古代の日本ではどのようないきさつで定住生活が始まったのかに重点が置かれている。
人類はおよそ一万年前、それまで数百万年にわたり続けてきた移動生活をやめ、定住生活を始めた。著者は「定住革命」と呼ぶ。きっかけとして有力なのはウケ(筌)やヤナ(梁)、魚網といった定置漁具を使った漁業を始めたことである。定置漁具は携帯が不便だったり不可能だったりするが、その代わり漁獲量の増加が期待できる。製作には繊維や木材を加工する高度な技術が必要で、多くの時間と労力を必要とするが、そのコストに十分見合うリターンを得ることができた。定置漁具の利用は、集団内の分業にも変化をもたらす。狩や刺突漁に比べると労力がかからず、単純作業の反復であるため、女性や子供、老人でもできる。男性は年間を通じた狩猟活動から解放され、その労力を他の仕事に向けられる。三方湖近くの鳥浜貝塚(福井県)からは、大型魚やサザエなど海の魚貝類の骨や殻が出土する。縄文時代の男たちが10キロほど離れた海で漁に興じ、戻って家族らと美味を楽しんだ名残りとみられる。道具の利用が生活を豊かにした

関連記事

no image

キャッシュレス時代における2019年1月14日付東京交通新聞「クルー」の記事の書き方

クルーのシステムが本年1月いっぱいメンテナンスに入り、再開は2月と報道されていた。HPにも出ている

記事を読む

no image

 『財務省の近現代史』倉山満著

p.98 「中国大陸での戦争に最も強く反対したのは、陸軍参謀本部 p.104 馬場鍈一が作成

記事を読む

no image

保護中: ジャパンナウ予定原稿 感情と観光行動

観光資源に対して観光客に移動という行動をおこさせるものが感情である。言葉を換えれば刺激であ

記事を読む

no image

山泰幸『江戸の思想闘争』

社会の発見 社会現象は自然現象と未分離であるとする朱子学に対し、伊藤仁斎は自然現象から社会現

記事を読む

no image

動画で見る人流観光講義 温泉

前回の講義テーマは世界遺産。 では、日本の観光は温泉が最大、温泉は世界遺産になれるか

記事を読む

父親の納骨と道中の読書  『マヤ文明』『英国人記者からみた連合国先勝史観の虚妄』 2016年10月19日、20日

父親の遺骨を浄土真宗高田派の総本山専修寺(せんじゅじ)に納骨をするため、山代の妹のところに行き、一晩

記事を読む

no image

米軍現役兵士の数

およそ130万人 うち20万人弱が海外 日本4万、ドイツ3万5千、韓国2万5千、イタリア1万

記事を読む

no image

『金語楼の子宝騒動』(「あきれた娘たち」縮尺版)少子高齢化を想像できなかった時代の映画

1949年新東宝映画 私の生まれた年である。嫁入り道具に風呂敷で避妊薬を包むシーンがある。優生保護

記事を読む

no image

『シベリア出兵』広岩近広

知られざるシベリア出兵の謎1918年、ロシア革命への干渉戦争として行われたシベリア出兵。実際に起

記事を読む

no image

 ホテルと旅館『西洋靴事始め』稲川實 現代書館

観光学でホテルと旅館の違いを説明するときに、私は芦原義信氏が西洋建築と日本家屋の違いを述べられたと

記事を読む

PAGE TOP ↑