*

田岡俊二さんの記事 陸軍は「海軍の方から対米戦争に勝ち目はない、と言ってもらえまいか」と内閣書記官長(今の官房長官)を通じて事前に働きかけた。だが、海軍は「長年、対米戦準備のためとして予算をいただいて来たのに、今さらそんなことは言えません」と断り、日本は勝算のない戦争に突入した。

公開日: : 最終更新日:2023/05/30 出版・講義資料, 軍隊、戦争

昔、国際船舶制度の件でお世話になった田岡俊二さんの記事が出ていたので、面白かったところを抜き書き

http://diamond.jp/articles/-/166765?page=3

 真珠湾攻撃の前、陸軍は「海軍の方から対米戦争に勝ち目はない、と言ってもらえまいか」と内閣書記官長(今の官房長官)を通じて事前に働きかけた。だが、海軍は「長年、対米戦準備のためとして予算をいただいて来たのに、今さらそんなことは言えません」と断り、日本は勝算のない戦争に突入した。

こうしたことは日本だけではない。どの国の軍も巨大な官僚機構で、組織の防衛と面目の維持を第一としがちだから、そのために部隊を犠牲にすることが起こる。最も顕著な例は、第1次世界大戦末期のドイツ海軍だ。敗色濃い中、巨費を投じた「大海艦隊」は出動すれば英海軍に撃滅されるのは必定だったから、港内に引きこもっていた。だが、海軍首脳部はあえて出動を命じ最期を飾ろうとした。無駄死にをさせる出動命令に水兵たちは反乱を起こし、これが全国に波及して革命となり、ドイツ皇帝はオランダに亡命した。

制空、制海権が十分に確保されない場合、「水陸機動団」が出動しなくても、メディアや政治家はそれを「臆病」と非難しないよう、気を付けねばならない。一方、制空、制海権が確立していれば、まず相手は攻めて来ないし、仮に上陸しても、補給が切れて立ち枯れになるのを待てばよい。この場合にも「水陸機動団」の出動を急がせるのは、無駄に死傷者を出すだけで愚策だ。どちらに転んでも「水陸両用団」の創設は無駄と考える。そもそもどうして「水陸機動団」が作られることになったのか。

陸上自衛隊が「南西諸島防衛」を主張し始めたのは、ソ連の崩壊後だ。 それまではもっぱらソ連軍の北海道侵攻への対処を主眼としていたが、その可能性が消えたため、大幅削減の“危機”に直面した陸上自衛隊は次の存在目的を南西諸島に求めた。

 当初、海上、航空自衛隊では「陸上自衛隊は苦しまぎれにそんなことを言い出した」と冷笑し、「対艦ミサイル・ハープーン搭載の潜水艦を1隻出しておけば十分ですよ」とか、「航空優勢さえ確保すれば相手は来られませんよ」との声を当時、よく聞いた。 だが、「南西諸島防衛に必要」と言えば、海上、航空自衛隊も予算が取れる、と分かってそれに便乗し始めた。

旧ソ連の潜水艦を主敵と見てきた米海軍と海上自衛隊はその探知の経験を積み、装備を開発してきたから、対潜水艦能力では中国と大差がある。 小型の空母よりはるかに建造費用は安く、人員も少ない潜水艦に力を入れる方が合理的だろう。
日本が小型空母2隻「いずも」「かが」を持てば、イギリスが建造中の「クィーン・エリザベス」級(6万5000トン)2隻にははるかに及ばなくても、「海軍国」としての外見を備えることにはなるだろう。 だがそれが実際に活動するのは、おそらく米海軍の空母戦隊が中東などに出勤する際、その助手として付いて行く程度になるのではないか、と思われる。

関連記事

no image

英国のドライな対外投資姿勢 ~田中宇の国際ニュース解説より~

私の愛読しているメール配信記事に田中甲氏の田中宇の国際ニュース解説 無料版 2015年3月22日 h

記事を読む

no image

御手洗大輔「示威の自由に関する日中比較と日本人の課題」

『横浜市立大学論叢』第68巻社会科学系列2号 御手洗大輔「示威の自由に関する日中比較と日本人の課題」

記事を読む

no image

韓国・済州島から中国人観光客が激減。次期大統領選の結果次第では回復の兆しも 2017.04.10

https://hbol.jp/136104 韓国報道によれば、THAAD(高高度防衛ミサイル

記事を読む

no image

中国の観光アウトバウンド政策 公研No.675 pp45-46

倉田徹立教大学法学部教授 1997年にアジア通貨危機、2003年にSARS流行発生時、香港経

記事を読む

no image

シャマニズム ~モンゴル、韓国の宗教事情~プラス『易経』

シャーマン的呪術は筮竹による数字と占いのテキストを使った方法にかわった。このことにより特殊能力者でな

記事を読む

no image

『芸術を創る脳』酒井邦嘉著

メモ  P29 言葉よりも指揮棒を振ることがより直接的  P36 レナードバースタイン 母校ハー

記事を読む

no image

『日本軍閥暗闘史』田中隆吉 昭和22年 陸軍大臣と総理大臣の兼務の意味

人事局補任課長 武藤章 貿易省設置を主張 満州事変 ヤール河越境は 神田正種中佐の独断

記事を読む

no image

『戦争を読む』中川成美 「文学は戦争とともに歩む」は観光も戦争とともに歩む?

もし文学が、人間を語る容れ物だとしたら、まさしく文学は戦争とともに歩んだのである。しかし、近代以降の

記事を読む

『江戸のパスポート』柴田純著 吉川弘文館

コロナで、宿泊業者が宿泊引き受け義務の緩和に関する政治的要望を行い、与党も法改正を行うことを検討

記事を読む

no image

『2050年のメディア』下山進

日本の新聞がこの10年で1000万部の部数を失っていることを知り、2018年4月より、慶應義塾大学

記事を読む

PAGE TOP ↑