『パッケージツアーの文化史』吉田春夫 草思社
港区図書館の新刊本コーナーにあり、さっそく借り出して読んだ。JTBでの実務経験が豊富な筆者であり、材料も多く読み応えのある内容である。「あとがき」にもあるように、パッケージツアーを正確に伝えるためには旅行あっせん業法が何故1971年に旅行業法へと全面改正されたかを踏み込んで記述する必要があるとなっている点で、私と問題意識を共通する部分が多い。主催旅行等の専門用語も詳しく取り上げる必要があるとの認識を示している。旅行代理店というマスコミ用語へのクレームも同じ問題意識である。
しかし、私の問題意識と大きく異なるところは、旅行業法だけではなく、鉄道事業法、国際観光ホテル整備法等の実サービス法との関係を総合的に理解する必要があるという点で、本書ではほとんど記述がなされていないところである。同世代であるので、国鉄の商品を取り扱っていたことがうかがえるが、その当時は国鉄運賃は国有鉄道運賃法により法定されており、器用に旅行業者が取り扱えるようにはなっていなかった。しかも運送契約内容は、現在でも、鉄道営業法で規定されているから、本書を読んでいても、その点への問題意識のずれがあると感じてしまうのである。
日本の旅行業法の特徴に、いわゆる単品パックといわれるものがある。欧米では、パック旅行は航空制度から始まっており、複数のサービスの組み合わせと出発から帰宅までの時間間隔が24時間を超えるというルールがある。これは現在の日本の国内航空会社でも生きているルールである。従って単品パックは、国鉄制度が生み出したものであり、わが国特有のものである。この点への言及がなされていない点で、物足りなさを感じてしまう。
さらに、踏み込んでいえば、本書では条文に即して解説しており、条文に即するとすれば、日本の旅行業法は、利用運送、利用宿泊について規定している。しかしながら、実体としてもその商品は存在せず、標準約款も準備されていない。この点が利用運送が主体の物流界と大きく異なる点である。ポストコロナの商品としては避けて通るべきではないであろう
なお、戦後、大事なお客である米国人に対する悪徳業者の取り締まりは、米軍のにらみが聞いており日本の法律は必要がなかったのであるが、1952年施政権返還に伴い貴重な外貨獲得政策のため、インバウンド向けの、旅行あっせん業法が制定されたのである。1971年に旅行業法に全面改正されたのは、同年にインバウンドの数はアウトバウンドの数を上回り、日本人海外旅行者の保護が重要な政策になったからである。
関連記事
-
-
『本土の人間は知らないことが、沖縄の人はみんな知っていること』書籍情報社 矢部宏治
p.236 細川護熙首相がアメリカ政府高官から北朝鮮の情勢が緊迫していること等を知らされ、米国は
-
-
『カジノの歴史と文化』佐伯英隆著
IRという言葉の曖昧さ p.198 シンガポールにしても、世界から観光客を集める手法として、
-
-
出張向け「定額航空運賃サービス」の記事
NEWSPICKSに、出張向け「定額航空運賃サービス」が米国で登場 という記事が紹介されていた。Bl
-
-
「北朝鮮の話」 平岩俊二 21世紀を考える会 10月13日 での講演
平岩氏の話である。 日本で語られる金ジョンウンのイメージは韓国発のイメージが強い。そのことは私も北
-
-
『素顔の孫文―国父になった大ぼら吹き』 横山宏章著 を読んで、歴史認識を観光資源する材料を考える
岩波書店にしては珍しいタイトル。著者は「後記」で、「正直な話、中国や日本で、革命の偉人として、孫文が
-
-
ウクライナ戦争の戦況集収から考える「情報」の本質 2022年7月 公研 嫌露、嫌米、アンチ公権力等の先入観が情報収集機会を減少
2022年7月の「公研」で、クライナ戦争の戦況集収から考える「情報」
-
-
出入国管理・旅券等の動向
総合旅行業務取扱管理者には、出入国管理、税関、動物植物検疫制度等に関する知識が求められるようである。
-
-
『ルポ ニッポン絶望工場』井出康博著
日本で働く外国人労働者の質は、年を追うごとに劣化している。 すべては、日本という国の魅力が根本のと
-
-
2019年11月9日日本学術会議シンポジウム「スポーツと脳科学」聴講
2019年11月9日日本学術会議シンポジウム「スポーツと脳科学」を聴講してきた。観光学も脳科学の
-
-
動画で考える人流観光学 『ビルマ敗戦行記』(岩波新書)2022年8月27日
明日2022年8月28日から9月12日までインド・パキスタン旅行を計画。ムンバイ、アウランガバード