*

『パッケージツアーの文化史』吉田春夫 草思社    

公開日: : 最終更新日:2023/05/30 出版・講義資料, 運賃、費用、経営

港区図書館の新刊本コーナーにあり、さっそく借り出して読んだ。JTBでの実務経験が豊富な筆者であり、材料も多く読み応えのある内容である。「あとがき」にもあるように、パッケージツアーを正確に伝えるためには旅行あっせん業法が何故1971年に旅行業法へと全面改正されたかを踏み込んで記述する必要があるとなっている点で、私と問題意識を共通する部分が多い。主催旅行等の専門用語も詳しく取り上げる必要があるとの認識を示している。旅行代理店というマスコミ用語へのクレームも同じ問題意識である。

しかし、私の問題意識と大きく異なるところは、旅行業法だけではなく、鉄道事業法、国際観光ホテル整備法等の実サービス法との関係を総合的に理解する必要があるという点で、本書ではほとんど記述がなされていないところである。同世代であるので、国鉄の商品を取り扱っていたことがうかがえるが、その当時は国鉄運賃は国有鉄道運賃法により法定されており、器用に旅行業者が取り扱えるようにはなっていなかった。しかも運送契約内容は、現在でも、鉄道営業法で規定されているから、本書を読んでいても、その点への問題意識のずれがあると感じてしまうのである。

日本の旅行業法の特徴に、いわゆる単品パックといわれるものがある。欧米では、パック旅行は航空制度から始まっており、複数のサービスの組み合わせと出発から帰宅までの時間間隔が24時間を超えるというルールがある。これは現在の日本の国内航空会社でも生きているルールである。従って単品パックは、国鉄制度が生み出したものであり、わが国特有のものである。この点への言及がなされていない点で、物足りなさを感じてしまう。

さらに、踏み込んでいえば、本書では条文に即して解説しており、条文に即するとすれば、日本の旅行業法は、利用運送、利用宿泊について規定している。しかしながら、実体としてもその商品は存在せず、標準約款も準備されていない。この点が利用運送が主体の物流界と大きく異なる点である。ポストコロナの商品としては避けて通るべきではないであろう

なお、戦後、大事なお客である米国人に対する悪徳業者の取り締まりは、米軍のにらみが聞いており日本の法律は必要がなかったのであるが、1952年施政権返還に伴い貴重な外貨獲得政策のため、インバウンド向けの、旅行あっせん業法が制定されたのである。1971年に旅行業法に全面改正されたのは、同年にインバウンドの数はアウトバウンドの数を上回り、日本人海外旅行者の保護が重要な政策になったからである。

関連記事

no image

『鉄道が変えた社寺参詣』初詣は鉄道とともに生まれ育った 平山昇著 交通新聞社

初詣が新しいことは大学の講義でも取り上げておいた。アマゾンの書評が参考になるので載せておく。なお、

記事を読む

『サイロ・エフェクト』ジリアン・テット著 高度専門化社会の罠

デジタル庁が検討されている時期であり、港図書館で借りて読む。本書は、NYCのデータ解析により、テ

記事を読む

no image

現代では観光資源の戦艦大和は戦前は知られていなかった? 歴史は後から作られる例

『太平洋戦争の大誤解』p.183 日本人も戦前はほとんど知らなかった。戦後アメリカの報道統制

記事を読む

no image

2016年7月29日「ファイナンスの哲学」多摩大学特任教授堀内勉氏の講演を聞いて

資本主義の教養学公開講座が国際文化会館で開催、場所が近くなので参加してみた。 1 資本主義研究

記事を読む

『弾丸が変える現代の戦い方』二見龍 照井資規 誠文堂新光社 2018年

本書は、今までほとんど語られてこなかった弾丸と弾道に焦点を当てた元陸上自衛隊幹部と軍事ジャーナリ

記事を読む

no image

『芸術を創る脳』酒井邦嘉著

メモ  P29 言葉よりも指揮棒を振ることがより直接的  P36 レナードバースタイン 母校ハー

記事を読む

no image

聴覚   空間の解像度は視覚が強く、時間の分解度は聴覚が強い。人間の脳は、より信用できる方に重きを置いて最終決定する

人間の脳は、より信用できる方に重きを置いて最終決定する 聴覚が直接情動に訴えかけるのは、大脳皮質

記事を読む

no image

QUORA 北方四島問題でソ連は日ソ不可侵条約が有るも拘わらず、終戦直後参戦し北方四島を強奪しましたが、国と国の条約は形式だけで何の意味も持たないのですか?

https://qr.ae/py4JmS   北方領土問題の発端は、大東亜戦争(太

記事を読む

 動画で考える人流観光学 『ビルマ敗戦行記』(岩波新書)2022年8月27日  

明日2022年8月28日から9月12日までインド・パキスタン旅行を計画。ムンバイ、アウランガバード

記事を読む

no image

Transatlantic Sins お爺さんは奴隷商人だった ナイジェリア人小説家の話

https://www.bbc.co.uk/programmes/w3cswg9n BBCの

記事を読む

no image
🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 福建省(24番目)厦門

中国渡航にビザが必要な段階で計画したので、金門島から廈門に渡る

🌍🎒シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 台湾省🏳‍🌈 金門島

  昨夜桃園空港から台北駅に鉄道で移

no image
🌍🎒シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 台湾省🏳‍🌈 台北

国連加盟国第一か国目は中国。1970年に香港、台湾と旅行した。当時は、

🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 パラオ共和国(国連加盟国188か国目)

    2024年12月4日早朝マニラから

🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 セブ・マクタン島

youtubeで、マゼランの世界一周を 取り上げた動画があり、船

→もっと見る

PAGE TOP ↑