国際収支の理解 インバウンド好調の原因
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最終更新日:2023/05/28
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それでも円高にならないのはなぜか?「売った円が戻ってこなくなった」理由
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日本の対外純資産(日本の政府や企業、個人が海外に保有する資産から、海外に対する日本の債務を差し引いたもの)は2017年まで27年連続で世界最大だが、その構成比を見ると44.5%が対外直接投資残高となっている。日本企業による旺盛な海外企業買収の結果である。一方、米国債を主軸とする証券投資残高は26.1%だ。両者の比率は2000年にはそれぞれ19.7%と36.5%だったので、完全に逆転している。リスクオフ(リスク回避)ムードに見舞われた際、日本円を外貨に換えて買った株式や債券といった有価証券ならば円に戻す流れも出やすいだろうが、買収した海外企業を手放す企業はないだろう。対外純資産の豊富さは不変でも、「売った円が戻ってこない」状況が定着している疑いがある。
対外直接投資が本格的に増え始めたのは2011年前後だが、経常収支【図表1】は、その頃から財収支(いわゆる貿易収支)の黒字が消滅し、直接投資や証券投資による収益などを示す「第1次所得収支」の黒字が主体となっている。
経済学者のクローサーがかつて提唱した国際収支発展段階説に基づけば【図表2】、本格的に「未成熟の債権国」から「成熟した債権国」への階段を昇り始めたと言えるだろう。
【図表1】から分かるように、金融危機前の10年間(1999~2008年)とその後の10年間(2009~2018年)で経常黒字の水準に大きな変化はない。
10年平均で見ると、危機前は約16.7兆円、危機後は約13.5兆円である。この間、財貿易の黒字額は約10.9兆円から約1840億円へ激減している。
片や、第1次所得収支の黒字は約11.2兆円から約17.3兆円へはっきり増加している。
訪日外国人(インバウンド)の隆盛などに伴ってサービス収支赤字が約4.4兆円から約2.4兆円へ半減したことも経常黒字の押し上げ要因だが、基本的には「貿易で黒字を出せなくなった分、過去の投資の『あがり』としての第1次所得収支黒字が増えた」というのが、近年の変化の要諦である。
人口動態や企業収益の状況、法人税や電気料金などのコスト環境、硬直的な雇用規制などを踏まえれば、近い将来に日本企業による対外直接投資(≒海外企業買収)の意欲が衰える道理はなく、直接投資の構成比が証券投資のそれを引き離しにいく展開を想定したい。
ここまでをまとめれば、日本の経常収支の構造は「貿易黒字から第1次所得収支黒字へ。その中でも証券投資収益から直接投資収益へ」と変化している、という話になる。
、第1次所得収支黒字のうち、証券投資収益の債券利子部分に相当する約80%、直接投資収益の再投資収益に相当する約50%については性質上、円買い・外貨売りの取引が発生しない可能性がある。
実際の金額で見てみよう。2018年の第1次所得収支の黒字は約20.8兆円だが、再投資収益を除くと約15.5兆円、再投資収益と債券利子を除くと約6.5兆円まで減少する
経常収支の構造的な変化を背景に、「実需の円買い」が発生しづらくなっていることは重要な事実である。だが、それは「円高になりにくい理由」にはなっても「円安を主導する理由」ではない。
「新説」に少しずつ思索を巡らせる過渡期に我々は差し掛かっている可能性は高いが、既存の通説を捨て去るほどの円高を招来するような悲観局面はまだ訪れてない、という認識は持っておきたい。
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