新規ビジネス促進につながる、通訳案内士による自家用を用いた通訳案内行為に関する事務連絡
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最終更新日:2017/09/06
通訳案内と翻訳導游員
国自旅第75号の2平成29年8月14日づけで、観光庁観光地域振興部観光資源課長あてに国土交通省自動車局旅客課長から文書が発せられた。
「通訳案内士による自家用車を用いた通訳案内行為について」であり、HPから閲覧できる。
http://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoseisaku/somu/interpretation/documents/jikayoshaannai.pdf
それを受けて、観光庁観光資源課から都道府県宛てに、通訳案内士が自家用車を用いて(当該通訳案内士の自家用車という意味であろう。以下同じ)客を案内する行為は、白タク行為に当たり信用失墜行為にあたるという厳しい連絡が発せられた。日本観光通訳協会は前にもブログに既述したように、しばらく前まで自家用車による案内は、特別の対価をえなれば、白タク行為には該当しないとホームページに記載していたのであるから、信用失墜行為を推奨していたことになってしまうから、気の毒である。
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/30780/00000000/290821tsuchi.pdf
この記事はお盆を挟んでのものであり、うっかり見落としていた。東京交通新聞でも出ていたのかもしれないが扱いが大きくなかったのかもしれない。日本観光通訳案内士協会のHPも全く掲載していないからもう関心がなくなったのであろうか。現場の声は不満が多いと聞く。それはそうであろう。今まで自家用車で、特に田舎の通訳案内は自家用車でなければできなかったであろう。
自動車局は、通訳案内士が有償で通訳案内サービスを提供する場合には、自家用車による運送の対価を得ていなくても、通訳案内で対価を得ていれば運送の対価とみなすという行政解釈をしたのである。これまでも解釈としては考えられるものではあったが、来年から通訳案内士の資格が不要になるところから、これまでも道路運送法違反であったのだという解釈を明示したのである。
従来の通訳案内士関係者の間では、これまでもブログに紹介してきたように、通訳案内士が自分の自家用車をもって通訳案内をしている場合、特に運送の対価を特別に徴収しないときは、無償運送だとして道路運送法違反ではないと解されていた。観光庁の「通訳案内士制度のありかたに関する検討委員会」委員のランデル洋子氏もそのようなことをブログに書いておられる(私のブログでも紹介しているhttps://jinryu.jp/blog/?p=7720)。通訳士協会のホームページにもそのような記述があり、私も質問をしたことがある(ブログにも掲載)。観光庁の公式事務連絡は見たことがないから、確認された方がいいとメールでは伝えて申し上げておいたところでもあるが、最終的には道路運送法の解釈になるものである。
今度改めて道路運送法の解釈が示されたのであるが、さすがに、通訳案内士法の改正後に、自家用車の使用禁止とすることには無理があると理解をしたのであろう。これまでも違反であったということの連絡内容であり、業界のみならず労働組合もうるさいであろうからそれはそれで立場は理解できる。
なお、逆の解釈も成り立つことに気が付いた。通訳案内士が事業独占の場合、タクシー運転手が外国語で観光案内をするとすると、タクシー料金しかもらっていなくても、当該タクシー会社は実質有償で通訳案内をしていると解釈しますよという論理である。従ってタクシー運転手は英語で観光案内をしてはいけないということになる。2017年の12月まではそういうことになるのである。必要なら通訳案内士を同乗させなさいということになるのである。事業独占を廃止するのであるからこの問題は発生しなくなるが、諸刃の剣であったのである。また、自家用のスクールバス等が実費をとって、残りの経費は学校運営費等で賄っている場合(無償として扱われている)と比較して、大きくバランスを崩す。筋悪解釈は信用を無くし、逆の筋悪解釈(無償解釈の大幅拡大)も誘発するからきちんとした立法的解決が必要ではなかったのではなかろうかと思う。
さて、この事務連絡は、二つ大きな論点を提起するととなった。
通訳案内は、旅行に伴うものであり、そこが同時通訳と違うのである。ということは、通訳案内は自動車の使用は想定内なのであるが、通訳案内士の保有する自家用車を用いてはダメだという解釈を採用したのである。
旅行者がレンタカーを借り、旅行者の運転のもとに通訳案内をすることはさすがに禁止していないのは、当然である(運転免許保有が疑われる旅行者のレンタカー運転については別の私のブログ記事参照)。旅行者が有償で借りたレンタカー(これも自家用車ではあるが)を通訳案内士が運転することは「外形上無償で行われている」とはみなされないから問題はない。通訳案内士が旅行者の依頼で無料で運転すれば、労働者派遣法にも抵触しない。有料で運転する場合は労働者派遣法の手続き(?)を採れば合法である。通訳案内の対価とするのか、運転代行の対価とするのかも、当事者間の合意で決められるのであろう。例のグレーゾーン救済制度を活用するまでもない。今回の事務連絡によりこのことが確認されたから、かえって新規ビジネス促進にはなる。なお、運転手派遣会社からのドライバーの運転により、観光客が旅行することはまったく問題がない。ホームページで数多くの宣伝がみられる。
もう一つの論点は大きなものである。2020年4千万人の目標は大きく中国人観光客の増加にかかっているのは間違いがない。通訳案内士法の改正にあたり、国会で大きな議論をしたのであるが、現実に想定されるこの問題は全く論議されていないことである。都会はいざ知らず、田舎のバスもなく、タクシーも中国語のできない運転手は皆無の地域のことが全く考慮されていないことである。おそらくタクシー業者も地域の観光業者も十分に理解しないまま、この話が進められていったような気がする。田舎の通訳案内士が、自分の車で外国人を通訳案内し、相場の通訳案内料を受け取ることは、これまで常識として行われてきたと思われるからである。今回の事務連絡で、通訳案内士の車があるのに、無理やり有償のレンタカーを利用することを強制することになってしまったからである。従来からも違法であったということではあるが、なぜ、そのことを周知せず、インバウンドが重視されている今頃になって、確認したのかということである。国会で議論をしつくしておくべきことではなかったかと思われる。
全体として、私は今回の事務連絡は、新規ビジネスの促進につながったと考えている。その分、のんびりしているタクシー会社には、厳しい結果ももたらすかもしれない。中国人旅行者は、日本人と比較して圧倒的にスマホ利用が進んでいる。日本のレンタカー情報など、すぐにアップされて、活用されるであろう。通訳案内業の自由化によりこれからは、日本に在住する中国人は自由に中国語による観光案内ができることになるのであるから、自分が使用するサイトを活用して、中国に向かって大いに宣伝をするであろう。従って、営業車をしり目に、中国人観光客は、自宅でレンタカーを手配し決済も終え、日本では手配済みの通訳案内をする者が空港でお出迎えをして、レンタルした車で楽しく日本旅行をするようになるであろう。勿論運転は通訳案内をする者が代行して行うのである。従って警察が心配する無免許運転も回避できる。旅行者にとっては、レンタカー代も通訳案内料も、運転代行料も費用の内訳であり、トータルので費用が合理的であれば納得されるのである。
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