観光とタクシー論議 (執筆時 高崎経済大学地域政策学部教授)
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最終更新日:2023/05/27
旅館、ホテル、宿泊、民泊、不動産賃貸、ルームシェア、引受義務, 東京交通新聞投稿原稿, 随筆など
最も濃密なCRM(Customer Relationship Management)が可能なはずのタクシー分野でCRMが遅れているのは経営者の能力を表している。2000年本誌において筆者が『モバイル交通革命』の具体策として「総合生活移動産業」を提唱したとき、その担い手をタクシー業ではなく旅行業に期待した理由もこのことによる。同書において運輸業は企業(従って事業法)の枠を超えて、集荷・集客、輸送施設管理、労働管理に機能分化していると主張した。高橋伸夫東大経済学部教授の手による超企業組織論が運輸業では先行していたのであるが、交通経営学者からの明示的問題提起がなかったことは人材不足を物語っている。
旅客運送事業法は規制対象事業を貸切と乗合に区分する。実態にも契約形態にも即するからである。タクシーと貸切バスは定員以外に本質的な差異はない。企画旅行の催行人員の少人数化に伴い、タクシーへの期待が高まっている。我が国は単品主催が認められており、「ぷらっとこだま」ならぬ「ぷらっとタクシー」があってもおかしくないのである。企画旅行を活用することにより、企業の枠を超えて乗合を貸切に集団化できる。包括料金制度には企業論の認可運賃制度は適用されない。行政説明責任が求められる現場運輸当局職員がこのことを理解していないことに失望させられる(拙著「観光制度・政策入門」の購読を強く勧める)。
「観光」は規範に対して超然とし、個性を発揮しなければならない。規範を前提とする行政制度に根拠をおく「政策」といわれるものには相容れない部分が内在する。しかしながら現行観光基本法は、地方は国に準じて観光政策を実施しなければならないと規定し、極めて後進性の強い側面がある。観光立国推進基本法案では、国に準じる規定は「地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及び実施する」と改められており、ようやく他の基本法と理念を共にすることとなった。
個性の発揮といっても、最終的には地方公共団体の独自財源が確保されなければ理念倒れになる。国が行う補助金コンテストに応募するため全国基準にあわせる分、個性がなくなってしまう。地方税法は法定外普通税に加えて法定外目的税制度も設定し、しかも国のコントロールを最小限にしているが、特別地方消費税の廃止過程を振り返ると、現実は足元の観光関係者から切り崩されている。観光政策を実施するための独自財源の確保には選挙に強い首長を必要とするのである
旅行業者ではなくタクシー業者が観光ビジネスで主体的に活動するためには、地域個性を発揮できる体制が必要である。箸の上げ下ろし的議論がいまだに国の行政機関で学識経験者が参加して行っているのは不可思議である。個性重視時代、道路運送法も自治体が主体となっている旅館業法のスキームでかまわないのである。
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