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ジャパンナウ観光情報協会機関紙138号原稿『コロナ禍に一人負けの人流観光ビジネス』

 コロナ禍でも、世界経済はそれほど落ち込んでいないようだ。PAYPALによると、世界のオンライン小売売上高は前年の3.35兆ドルから4.28兆ドルへと100兆円急増し、21年には4.89兆ドルまで伸びると試算している。日本国の2020年度税収も60兆円強と過去最高となった。長引く新型コロナウイルスの影響は軽微にとどまっている。景気回復で先行する海外経済を背景に企業業績はさほど落ち込まず、消費、所得税収もそれぞれ想定を上回った。

 日本のGDPは昨年第2四半期28%減、第3四半期24%増と乱下高した。政府の唐突な宣言による学級閉鎖(福元健太郎の研究では全く効果はなかったという結果となっている)等のショックが影響したものの、世間はすぐに対策を立て元に戻り、人流観光だけが元に戻れなかった。総務省のサービス産業動向調査等で今年1~4月のデータを調べると、航空運輸、旅行業、宿泊業等が下位にある。その背景にはインバウンド需要がほぼ消滅している事情がある。19年の訪日外国人消費は4.8兆億円で旅行消費額の17%を占めていたが、コロナによってほぼゼロに落ち込んだ。その4分の3は中国、香港、台湾、韓国であるから、真剣に近隣との国際観光振興をはかるべきだが、メディアは相変わらず嫌中、嫌韓報道に明け暮れている。観光関連産業の従業者数は約900万人、単純計算では、その17%に相当する約150万人が過剰雇用となる。事業者が耐えられずに経営破綻すれば、この150万人が失業するか、非労働力化してしまう。

 今の首相は役人の首を切る程度で、その権限は思われているほど強くない。前首相は昨年4月にコロナ患者用の病床を5万床にすると発言したが、今年6月になっても3.6万床と目標未達である。社会にベッドはあるが、振り向ける権限がないのである。逆にPCR検査は、権限はあるが政府に意欲と能力がなかった。その影響が人流観光ビジネスに直接現れているが、人流観光ビジネス関係者は政策の遅れ等の問題を認識せず、GOTOの再開を期待するばかりでは情けがない。

 PCR検査や隔離権限は保健所の設置者(都道府県、政令市、中核市、特別区等)にあり、地域的に狭い単位である。都道府県以外には医療体制に責任がないから、ズレもある。人流観光業界はこども庁より先に公衆衛生庁の設置を要望すべきであり、旅館業法の所管もそこに集中させるべきであろう。中国、イタリア等を対岸の火事としてみてきたから、入国禁止措置は、出入国管理法の規定を実施するまで時間がかかった。飲食店には休業や時短要請を出しておきながら、状況が少し改善するとGOTOトラベルキャンペーンを始めたことへのチグハグ感への批判が巻き上がった。東京五輪も同様なのであろう。責任ある者から、希望観測的な発言はあっても、現実的な予測や中長期的な見通しが示されていない。PCR検査と水際人流規制を徹底すれば、イスラエル等のように「ゼロコロナ」に近づけた。厚生労働省は、初期の頃大規模なPCR検査にきわめて否定的であり、日本社会礼賛者達を中心に付和雷同型の意見が拡散した。しかし欧米での成功談が報道されムードが変化した。今では民間PCR無料検査まで普及している。ワクチン行政の遅延は、子宮頸がんワクチン等これまでの情報公開が遅れていたことのつけである。1960年代のポリオ大流行時には、政治的決断の元、国内治験を省略して承認している。一人負け状態の人流観光業界こそがが率先して政策提言するべきであるが、リーダー不在である。

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