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旅行業法の不思議③ 「旅行業務取扱料金」と「定額タクシー料金制度」

公開日: : 最終更新日:2023/05/30 ライドシェア, 運賃、費用、経営

旅行業務取扱管理者試験では、「旅行業者は料金を定め観光庁長官の認可を受けなければならないか否か」という設問が繰り返し出されているが、正解は認可を受ける必要はないということである。旅行業法では旅行業は「報酬を得て」とあるから、無償報酬の事業を想定はしていないのであろうが、誰から報酬を得るかまで規定していない。旅行者から得る場合だけではなく、運送サービス等を提供する者から得る場合も想定される。

旅行業法では、12条で、「旅行者から収受する旅行業務の取扱いの料金(企画旅行に係るものを除く。)を定め、これをその営業所において旅行者に見やすいように掲示しなければならない」と定めるともに、その料金は「国土交通省令で定める基準に従って定められたものでなければならない」としか規定していないから、企画旅行以外、つまり手配旅行は基本的には国土交通省令の基準に従っていればいいことになり、行政の直接の関与はない。しかし、18条の3において、観光庁長官は業務改善命令として「旅行業務の取扱いの料金又は企画旅行に関し旅行者から収受する対価を変更すること」を命ずることができるとあるから、全く行政の関与がないということでもない。一方、運送サービスを提供する者(タクシー会社等)から収受する対価については規制はなされていない。

国土交通省令21条では、掲示料金の制定基準として「旅行業務の取扱いの料金が契約の種類及び内容に応じて定率、定額その他の方法により定められ、旅行者にとって明確でなければならない」と定めているが、極めて当たり前のことしか定められていない。旅行業務取扱管理者試験では、特約をもってこの定められた料金を超えて料金を徴収してよいか否かという設問がたびたびおこなわれる。旅行業法13条で、掲示した料金を超えて料金を収受する行為は禁止されている。

〇 定額タクシーが消費者から支持されて活用されている。現行のタクシーが実態として時間距離併用制を採用しているところから、利用者が事前に料金がわからないという不便さがある。従って事前に料金がわかる定額タクシーサービスが活用される。この定額タクシーサービスは、手配旅行商品として販売されているから、旅行業務取扱料金との関係が議論になる。定額タクシー料金を旅行代金プラス旅行業務取扱料金の合計額、例えば千円として利用者に提示しておけば、旅行者には明確であるから、国土交通省の基準にあっていることになる。

問題はタクシーメーターで表示された料金が、事前に提示された定額タクシー料金を上回る場合である。説明ぶりとしては、タクシー会社が手配旅行会社に支払うべき報酬を事前に清算して、その結果定められたものとしての定額料金を旅行代金として利用者が支払うということになる。旅行者から収受する旅行業務取扱料金はゼロである。道路運送法によるタクシー料金はメーター料金であるということで運転日報等にもそのメーター料金が記述されるから、運輸当局は問題がないという見解となっている。いずれにしても、定額タクシーの事前説明の段階では、日本旅行業協会は、手配される定額タクシーはタクシーメーターが表示する料金との関係において、旅行業法が期待する「旅行者にとって明確でなければならない」という基準に合致していると判断したようである。旅行代金が明示されていれば旅行者にとって不都合はないという常識的な判断に基づいている。

なお、旅行業法の問題は、その13条では禁止行為として旅行業者は「旅行業務に関し取引をした者に対し、その取引に関する重要な事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為」及び「その取引によって生じた債務の履行を不当に遅延する行為」を定めているが、いわゆるB2Bの取引関係の問題であり、巨大な旅行業者やシステム業者がその支配力を行使して、運送機関、宿泊機関等との取引を行うようなことを想定しているのであろう。昔、国会で国際線を経営する航空会社と海外旅行を販売する旅行会社の間で取り交わされる巨額のキックバックが取り上げられたが、航空局長は商取引のことであり、問題はないと答弁している。詳しくは私の学位論文に掲載してある。

〇残された問題は企画旅行であり、旅行業法の本質的な問題を内包してる。企画旅行には旅行業務取扱料金は存在しない。このことも試験問題によく出題される。旅行業法1条では「自己の計算において」契約する商品を企画旅行と規定している。定額タクシーもこのうちの募集型企画旅行商品として販売される場合がある。理解をするのに時間を要するのは、受注型企画旅行商品である。国土交通大臣が定めた標準旅行業約款では、受注型企画旅行の部5条において「旅行代金の内訳として「企画料金」の金額を明示することがあります」と規定している。この企画料金は旅行業法においては直接規定されていないが12条の4の取引条件の説明事項に該当するのであろう。国土交通省令では「旅行者が旅行業者等に支払うべき対価及びその収受の方法」と具体的に規定している。この受注型企画旅行商品の対価は旅行業法の業務改善命令の対象となる。募集型企画旅行は対価が明示されないから業務改善命令を発しようがないのである。

〇私は定額タクシーは募集型企画旅行商品として販売したほうが法的な説明はしやすいと思っているが、運用は手配旅行商品のほうがやりやすいであろう。タクシーが企画商品に組み込まれた場合には、旅行業者は自己の計算において契約をすることになるから、タクシーメーター料金との関係は断絶することになると私は考えている。(地方運輸局の職員はそれでも運転日報にはメーター料金を掲載するように求めるかもしれないが、手配旅行ではないから説明ができないであろう。)貸切バスの標準約款に関して旅行業務取扱試験では、企画旅行の場合契約責任者は旅行業者、手配旅行の場合手配を依頼した者ということに関して設問が行われているが、道路運送法は実旅客を前提に作られており、約款全体を考察すれば問題を内包することになる。試験問題作成において慎重さが求められるところである。

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