*

外国人労働者受入と外国人観光客受入は違うのか違わないのか?~「人流による収斂」と「金流による収斂」~

公開日: : 最終更新日:2023/05/30 路銀、為替、金融、財政、税制

国際観光が政策として叫ばれているが、その政策的意義が考えれば考えるほどわからなくなってきた。それは移民受入が否定され、外国人観光客が肯定される理由がわからないからでもある。所属する観光関係学会でシンポジウムを開くべきではないかとも思っている。

①「外国人観光客受入」も②「外国人労働者受入」も国境を超える人の移動である。何が違い何が違わないのであろう。①も②も経済活性化に寄与するが、②の方が効果は大きい。工場の海外転出よりは労働者の転入の方が好ましいであろう。文化摩擦問題は①でも②でも規模が大きくなれば発生する。短期的には①は我慢できるが長期的には②の方が摩擦回避効果は大きい。しかし、選挙を控えたシステムでは②のコンセンサスつくりが難しい。従って研修生のような闇の部分を黙認して実施しているが、長期的には反日感情を大きくしてしまう。
国力があれば(円の為替レートが高ければ)②、低ければ①の効果が大きいが、長期的にはいずれにしろ収斂する運命ではないか。 最近このような問題意識を持っている。観光学会では全く論議されていない。

翻って、「移民の世紀」は、人流により生活水準が収斂したが、大西洋を挟んだ白人社会での出来事でもあった。
国民国家の形成は人流を規制する方向に作用し、その結果アジア人移民は出稼ぎ型にとどまってしまった。太平洋戦争の原因の一つとなったという言説もあるが、私はそうはおもっっていない。

国民国家の形成は、アジアの極貧国のスラム処理を国家の責任にとどめる方向に作用した。移民が自由に行われたのであれば、アジアの極貧国を抜け出し、新大陸で生活基盤を築いたであろう。アメリカ大陸横断鉄道を完成させたのは中国人労働者であり、その鉄道を利用して日本にお雇い外国人が大勢指導に来たのである。順調いけばアメリカ合衆国の有力層に中国系や東南アジア系が大勢存在したかもしれない。それを阻んだのはアイルランド系等遅れて入植してきたヨーロッパ系である。第一次世界大戦は国民国家を完成させてしまった。

外国人労働者規制により、第二次世界大戦後、資本は低賃金国に向った。植民地への工業製品販売による収奪構造が存続できなくなったからである。結果的に金流による生活水準の収斂が発生(労働有限供給)した。日本から工場が海外に移転したのもそのことによる。日本の周辺アジア諸国の生活水準が上昇した。移民でなくても生活が向上し始めたのである。地球規模で考えた場合、このままゆけば、生活水準の収斂は国民国家を消滅の方向に向かわせるのであろう。

国境を前提に誕生した「観光」も、国境の低下とともにその意義づけ(外貨、国威)を変化させている。そうなればいずれ観光政策論議は消滅するであろう。

関連記事

no image

賃金統計不正

これで、平成の経済を論じてきた経済学者もコケにされたということですが、大きなクレームが出ないのは、

記事を読む

no image

人流ビジネスと利用運送

旅客運送事業法が設備の数量規制を行っていた時代は、旅客運送行為は運送事業者が自ら行うことが前提となっ

記事を読む

no image

ゴッツン免許とUber

ゴッツン免許とは俗称である。 体罰が犯罪とされる今日「ゴッツン」は死語かもしれないが、頭をゲン

記事を読む

no image

須田寛「国鉄改革を顧る」(くらしのリサーチセンター)メモと国の交通施策への感想

敬愛する須田寛氏の対談メモ。内容は既に知られていることではあるが、当事者が語ったものとしては数少ない

記事を読む

no image

保護中: 『from 911/USAレポート』第827回 「アベノミクスの功罪と出口シナリオ」冷泉彰彦 これだけ識字率と基礎算術と社会性の訓練を受けた分厚い人口を抱えた大国が、利幅が薄く労働集約型の観光業を主要産業とするという、どう考えても悲劇的な産業構造に追い詰められた、これは7年半にわたって改革に消極であったことのツケにしても、随分と妙な方向になったと思います

結果的に、これだけ識字率と基礎算術と社会性の訓練を受けた分厚い人口を抱えた大国が、利幅が薄く労働

記事を読む

no image

観光学を考える 『脳科学の教科書 神経編・こころ編』岩波書店 理化学研究所脳科学総合研究センター編 をよんで

図書館でこの二冊を借りてきて一気に読む。岩波ジュニア選書だから、子供が読む本だけれど私にはちょうどい

記事を読む

『セイヴィング・ザ・サン』 ジリアン・テッド

バブル期に関する書籍は数多く出版され、高杉良が長銀をモデルに書いた『小説・ザ・外資』はア

記事を読む

no image

『平成経済衰退の本質』金子勝 情報、金、モノ、ヒト、自然 について、グローバリゼーションのスピードが違うことを指摘 情報と人流のずれが、過剰観光

いつも感じることであるが、自分も含め観光学研究の同業者は、研究原理を持ち合わせていないということ

記事を読む

no image

人民元の動向と中国の通貨戦略 日本銀行アジア金融協力センター 露口洋介 2011.1

中国の現状は。日本の1970年を過ぎたところに当たる 大きく異なるのは、①中国は海外市場で

記事を読む

『戦後経済史』野口悠紀雄著 説得力あり

ドッジをあやつった大蔵省 シャープ勧告も大蔵省があやつっている。選挙がある民主主義では難しいこと

記事を読む

PAGE TOP ↑