『知の逆転』吉成真由美 NHK出版新書
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用語「人流」「観光」「ツーリズム」「ツーリスト」
本書はジャレド・ダイアモンド、ノ―ム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソンという6人の現代を代表する知性へのインタビュー集である。
第1章は『銃・病原菌・鉄』の著者、ジャレド・ダイアモンドへのインタビュー。人類が家畜化に成功した動物14種のうち、13種がユーラシア大陸にあり、ビッグファイヴと呼ばれる羊、牛、豚、山羊、馬はすべて肥沃な三日月地帯で家畜化されたことが話題になっている。グレートジャーニーの関野吉晴氏も、ユーラシアは同じ緯度帯にあり、馬等を活用して人流・物流が発達したことを、縦に長くアンデスが阻害した南米との比較で語っておられる。自ら自転車でパタゴニアから北上し、ベーリング海峡をわたり、シベリアから、シルクロードを経由しアフリカまで旅した関野氏が語れば説得力がある。第2章はノーム・チョムスキー。著作は読んだことはないのだが、彼が普遍文法という考えで現代言語学に大きな影響を与えただけでなく、『帝国主義の終わり』等の著作や実際の政治的な行動によってアメリカの政策を何十年も批判し続けていることを、このインタビューで初めて知った。私も経済学にはいささかうさん臭さを感じていたが、MIT出身のチョムスキーが、インターネットは勿論、世界が二社に集約されている航空機製造業を例に、市場ではなく公共部門(軍需部門)から経済が出てきており,MITがその中心と言えるとしている。唯一例外が金融部門で、市場原理で動いているとする。だから何度も破綻する。とくに規制緩和の狂人である、レーガンやブッシュ、クリントンが出てきて破綻するという。核抑止力については、アメリカが主張してきた核抑止力の典型こそ、現在のイラン自身がとっている核政策そのものであるという。第4章は「なぜ福島にロボットを送りなかったか」という表題で、マービン・ミンスキー(人工知能の父)へのインタビュー。ペット代わりのロボット制作者には耳が痛いかもしれない。大衆の集合知のほうは、逆に科学を何百年も停滞させてきた。何しろ5000万人もの人たちが、ブッシュが一番良い大統領になると推測したのだから(笑い。 70年代、80年代に論文を出すと、インターネットを通して、実にたくさんの役立つコメントをもらいました。でも今はあまり役立つ批評はかえってこない。つまらない考えを持つ人があまりにもたくさんいて・・・となっている。同氏は『エモーション。マシーン」の中で感情とは思考の一種で、感情と思考を別のものであるとするのは間違いとする。この点は、観光情報論を記述した時に、進化の過程で感情が生まれており、合理的な面があるという説を紹介したことがある。第6章はあの二重らせん発見者・ジェームズ・ワトソンへのインタビュー。彼は、がんを理解することは細胞を理解することの段階にきている、精神疾患を理解することは脳を理解することにほかならず、複雑すぎるが、オープンになってきており、以前より大衆の認識度が高くなっているという。アダムスミスが国富論の中で、文明の大きな進歩は政府からは決して生まれず、個人が生み出すものと言っていることを紹介している。確かにそういう面はあるであろう。日本旅行をしているときに、利根川進(吉成氏の夫である)はこのままやっていては、日本の集合意思に埋もれてしまうといってアメリカに行くように勧めた人物にあったという。今ノーベル物理学賞受賞者の真鍋淑郎氏が日本国籍離脱した理由で話題になっていることと同じことが紹介されていて、おもしろかった。極めつけのインタビューは、DNAの二重らせん構造の解明につながるX線回折写真をはじめて撮影した、ロザリンド・フランクリンに関するインタビュー。非公開レポートには、DNA結晶の生の解析データだけでなく、フランクリン自身の手による測定数値や解釈も書き込まれており、DNAの結晶構造を示唆するものであった。この件についてクリックは何も語っていないとされ、福岡伸一は、DNAの二重らせん構造について、「”ワトソン・クリック・フランクリン構造”とよぶべき」と述べている。いずれにしろ、大物科学者によく聞けたものだと、吉成氏に脱帽。ワトソンが言うには、彼女は社交性がなく、他人が彼女から研究成果を盗もうとするのではないかと恐れていたと語り「ロザリンド・フランクリンはノーベル賞に値しない」とまで語っているのは、人間臭く面白い。
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