Quoraに見る歴史認識 偉い人ほど責任をとらなくてよくなる、日本特有の謎システム、インパール作戦から続く日本伝統ですか?
公開日:
:
最終更新日:2020/12/01
歴史認識
元々は江戸時代に確立された風習ですね。
すなわち。
江戸幕府というのは、不思議なシステムです。
名目上は、徹底的な法による統治が張り巡らされた、非常にフェアで公正な社会です。
しかし。
実態としては。常に「各藩の取り潰しの罠を仕掛ける幕府と、それに対抗する藩のスタッフとの対立」によって駆け引きが行われている、ある種の監視社会です。
なぜなら。
江戸時代というのは、稀に見るゼロサム社会です。社会を徹底的に安定させることのみを考えて設計されたため、あらゆる変化を否定し、常に前例踏襲と旧態維持のみに心血を注ぐ、異常な社会です。
それを400年も続けてしまったために、ヘンテコな日本的システムがいくつも出来ました。「偉い人は責任を取らなくても良い」は、その代表的なものです。
すなわち。
各藩の武士たちは、その至上命令として「主君に責任を及ぼしてはならない」ということを常に心がけなければなりませんでした。武士は行政の執行者なので、実務としては色々な決定を現場でしなければなりません。
しかし。
いかなる決定をしようと、「その責任を主君に及ぼしてはならない」のです。藩の中では江戸幕府のエージェントが常に目を光らせており。些細な失態やほんの僅かな諸法度の違反を口実に、取りつぶしをかけようと狙っているのです。もし責任が主君に及ぼうものなら。お家は取り潰しとなり、その部下たる自分たちも路頭に迷うか、最悪は連座して切腹することになるので。
というわけで。
武士の文化は、「何があろうと上司に責任を取らせないようにするのが、部下のつとめ」になってしまったのです。
もちろん、上司の意に沿うように全力で仕事にあたる。しかし、何かあったときには絶対に上司の責任にはしない。「すべて自分が独断でやりました!」と叫んで切腹して見せる。これが武士としてあるべき姿だ、と400年も日本人に教育を施してしまったのです。
これが日本的無責任体質の構造です。
しかもこれは社会の上に行けば行くほど都合が良くなるので、現代日本でも強固に維持されています。
今も、安倍元首相の桜の会の問題が持ち上がっておりますが。
もちろん、これは日本的に「担当者の切腹」で幕引きとなります。今は事務所内で切腹担当を決めている頃でしょう。3度目の次期首相の道まで見えている主君に責任を及ぼすことがあってはいけません。腹を切る責任者が決まったら、周囲が押さえつけてでも腹を切らせて幕引きとなるでしょう。それが日本というものです。
関連記事
-
御手洗大輔「示威の自由に関する日中比較と日本人の課題」
『横浜市立大学論叢』第68巻社会科学系列2号 御手洗大輔「示威の自由に関する日中比較と日本人の課題」
-
『中国はなぜ軍拡を続けるのか』阿南友亮著
第40回サントリー学芸賞(政治・経済部門)受賞!第30回アジア・太平洋賞特別賞受賞! 何
-
Quoraに見る歴史認識 終戦後に当時のソ連は、どうして北海道に侵攻しなかったのですか?
終戦後に当時のソ連は、どうして北海道に侵攻しなかったのですか? 回答を先に書けば、米国との間
-
『からのゆりかご』マーガレット・ハンフリーズ 第2次世界大戦後英国の福祉施設から豪州に集団移住させられた子供たちの存在を記述。英国、豪州のもっと恥ずべき秘密
第2次世界大戦後英国の福祉施設から豪州に集団移住させられた子供たちの存在を記述。英国、豪州のもっ
-
QUORAの再掲載 南京大虐殺のあった無かった論争はどの様な証拠があれば決着がつきますか?
南京大虐殺のあった無かった論争はどの様な証拠があれば決着がつきますか?Koike Kazuki,
-
書評『大韓民国の物語』李榮薫
韓国の歴史において民族という集団意識が生じるのは二十世紀に入った日本支配下の植民地代のことです。
-
国際連盟における中華民国代表顧維欽の演説(人流論) 渡辺銕蔵が戦争調査会で繰り広げる際に引用
満州には日本人はわずかしか入っていない。 朝鮮から日本に入った方が多いくらいだ。 なぜ
-
『官僚制としての日本陸軍』北岡伸一著 筑摩書房 を読んで、歴史認識と観光を考える
○ 政治と軍 「軍が政治に不関与」とは竹橋事件を契機に明治政府が作ったことである。そもそも明治国家
-
Quora6に見る歴史認識 イギリスが中国にアヘンを売ったのは有名です。あるイギリス人の言い訳が、アヘンを売り始めた頃中国には麻薬の売買を禁止する法律が無かったから問題ない。これ真実ですか?それにしても犯罪者の理屈ですよね?
アヘン戦争に対する一般的なイメージ。それは以下の様なモノです。 「大英帝国が清国を麻
-
「戦争を拡大したのは「海軍」だった」 『日本人はなぜ戦争へと向かったのか戦中編』NHKブックス 歴史は後から作られる例
https://www.j-cast.com/bookwatch/2018/12/09008354