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『史上最悪の英語政策』阿部公彦著

公開日: : 通訳案内と翻訳導游員

「文科省の新英語政策は問題だらけ。この思いゆえに、いつもとはかなり違うスタンスの本になりました。どぎついタイトルも、実情を知らない世の中の人に伝えようという思いの表れですが、その甲斐あって、読者の反響も体感でいつもの100倍はあるような気がします(笑)」

英文学者の阿部さんが“史上最悪”と指弾するのは、昨夏、新聞紙上に踊った「大学入試の英語が4技能化」という見出しが語る国の英語政策。受験に縁なき衆生にとっては関心の外だが、教育や入試に直に向き合う学生とそれを取り巻く家庭や学校に大混乱と不安をもたらしているという。

「4技能というキャッチコピーには実体がない。『これからは4技能! 』と言われると目新しく聞こえるかもしれませんが、4技能とは、読む、書く、聞く、話すという区分けにすぎません。4つに分けるのはそもそもテスト業者の都合。センター試験との唯一の違いはスピーキング実技の有無で、それだけを根拠に大学入試の英語を民営化しようとしている。でも、このスピーキングテストが問題だらけなのです」

世はグローバル時代。次代を担う若者が流暢な英語話者になるため、必死で勉強する試験項目にスピーキングを盛り込むのは、良いことのように思えるが……。

「大学入試に相応しいスピーキング能力とはなにか。道案内程度なのか、文学や哲学の議論ができるレベルなのか。そもそもそんな技能を採点できるのか。きちんとした検証も検討もなく、民営化さえすれば英語力が向上する! という驚くべき理屈です。言葉を話し書くという行為は実に複雑です。ちょっと会話学校に通って英語ぺらぺらというのは幻想です。うまくしゃべれないのは、何より動機付けが足りず、学習時間が足りないから。試験制度など変えても、無駄な試験対策に走って肝心の学習がおろそかになるだけです」

中高6年間も勉強したのに英語が話せない――お門違いながら根深い我々の英語コンプレックスにつけこむ霊感商法にも似た英語政策の姿が浮き彫りになる。

「導入に合わせ、受験産業が活況です。『対策しなくて大丈夫?』と学生や親の不安をあおり、対策塾に通える子と通えない子の間に格差も生まれるでしょう。民間が作る試験を活用していくそうですから、さて、この英語政策の変質で誰が潤うのか。そのあたりの追及は週刊文春にお任せしますが(笑)、『4技能』の耳触りのよさだけで拙速に進められる政策変更は、やっぱり説得力に乏しいと言わざるを得ません」

アマゾン書評2

勤務校では、今年の入学生から受験料全額を町の負担でベネッセのGTECを全員受けさせるという決定をしました。この件で昨年度の職員会議は紛糾しました。そのとき、私は反対意見を述べました。1回5000円以上という受験料が直感的に高すぎると感じたからです(まだ値上げの動きがあるようですが)。また、本校は就職希望者が半数ほどおり、その生徒たちにGTECを受けさせるのは、たとえ受験料が町の負担であっても、公費の無駄遣いではないかと思いました。推進派の校長にすすめられて公開されているGTECの例題も見ましたが、業者でないと作れない問題には見えませんでした。フツーの問題です。「なんでこれで5000円もするのか?」というのが正直な感想です。
 本書を職員会議後に読んだのですが、文部科学省の外部試験導入決定のプロセスの一部始終を知り、怒りを感じました。もっと反対するべきだったと後悔しています。
 受験料の問題は格差の問題にもつながります。GTECは毎回同じ形式なので、何度も受ければ点数は上がります。しかし過去問が公開されないことから、受験生は練習のために何度も受けることになるでしょう。そして毎回先ほどの受験料がかかる。所得の格差が教育・学歴の格差に直結しそうです。
 本校の英語の授業と生徒の現状について。本校は外国人のALTが常駐しており、オーラル重視で授業が進んでいます。しかし、生徒の英語力は上がっていません。習熟度別クラスですが、生徒の中には、「上のクラスでは文法をほとんど教えてくれないから」と言って、定期試験でいい点をとって上のクラスに移れるのに下のクラスに自分の意思でとどまる生徒がいます。そうした生徒は文法が分からないと英語が読めない、聞けない、話せないことをよく理解しています。このように文法が分からない生徒が多い状況でGTECを導入したところで、英語力が上がるとは思えません。
 私の考えでは、4技能主義者が言うようにスピーキングがそんなに大事なら、センター試験にスピーキング問題を導入すればいいだけの話だと思います。しかしセンター試験を改善するための有識者会議は、どういうわけか、そういう方向ではなく外部試験導入・センター試験英語廃止の方向に進めてしまった。結果、日本人の富がベネッセのような私企業に流れるだけ。
 現場で、有害な政策に従わざるを得ないのは大変歯がゆいです。ぜひとも国会で追及していただき、撤回させるべきです。

アマゾン書評3

 東大英文科の専任教員である阿部氏は、私にとっては同業者の頭のような存在だ(二言、三言だが、小生の職場に講演に来ていただいた時に、お話をした事がある)。一方、氏の目から見ると「ネオ4技能」に近い方針の高校教科書の改訂に関わったので、私は氏からは批判される側にいるような気もする。
 『史上最悪の英語政策』で示されている氏の見解に、私も8割方は賛成だ。文科省の英語関係の審議会が民間英語「業界」の利益に左右された事は、私の如き者にまで伝わってきたが、今回の阿部氏の本でその様が手にとるようにわかった。英語コンプレックスのある政治家と、商魂たくましい英語「業界」人の結託の様が、余す所描かれている。そして、学校教科として教える英語についてはconstructive な(つまり1文1文を「作り上げる」事から始める)、文法を中心にしたカリキュラム・授業をするのが本筋であると、私も信じる。
 ただ少々阿部氏に伺ってみたい事もある。私も英文科的な所に身を置いているが、私の観察では、まるっきり話す・聞くがダメな学生は、精読もある線以下にしか出来ないように思う。話す・聞くがいくら出来ても文学作品が読める保証はないとはいえ、ある程度のレベルで話し・聞けないと文学研究も覚束ないのではないか。その意味で、学習のレベルの初歩段階、というか特別頭を使わなくても理解できる段階では、「英語を英語で」という教え方も、部分的には有益なように思うが、間違っているだろうか(やはり優れた英文学者であった故・藤井治彦氏が、初級段階で日本人が日本語も使ってする英語の授業と、英語母語話者が英語のみで教える授業が両方あるのがよい、と、どこかで記していたのが思い出される)。その点と関係するが、優れた書き手・読み手として私の尊敬する同僚たちが、あからさまに四技能型ではないにせよ、彼ら・彼女らの時代の一般的な中・高・大での英語教育よりは話す・聞くを重視した教育を受けたケースが多いのに驚くのだが、この点についてお考えがあれば伺ってみたい(ひょっとすると阿部さんも、そのような教育の恩恵を被られたのか?)

アマゾン書評4

英語塾教師です。ここ数十年の文科省の間違った英語政策の結果、どれほど学生たちが悲惨な学力を持つようになったか。文法はだめ。なんと発音はもっとだめです。(教材にCDついてますが、みんな未開封ですから。それでもってコーラスリーディング、やってないんですね)文科省も各高校も建前上、この状況を認められないでいます。現状がよく分かっているのは「そんな学生が送り込まれてくる大学」の教員と、「そんな学生を大学へ送り届けなければならない塾教師」。一連の間違った施策の総仕上げのように、今回の英語入試改革がとどめようもなく推し進められていますが、阿部先生のような方もいらっしゃるとわかり、少しだけほっとしました。かくなる上は、このご本がもっと広く読まれ、うねりとなって反対運動が広がりますように。官邸前に集合してもいいです、わたし。

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