人口減少と配車アプリ Taxi Japan 19.1.25 No.337号 長野県タクシー協会講演会内容へのコメント
長野県新年臨時総会後の講演会なので、テーマは将来ビジョン関係であろう。その意味で会員に日本の配車アプリの状況に関心があることがうかがえる。
しかし、アプリの活用はタクシー会社にとって自分の商品の売り方にかかわるものであり、チームネクストの活動状況やUber問題が始まってから5年以上経過しているのであるから、失礼ながら今頃という気もしないでもない。そういう意味では、キャッシュレス化と同じで、日本全体の問題かもしれない。
① 無線・電話もスマホも本質は同じ
配車アプリは無線・電話配車と本質は変わらない。東京無線の電話で配車を頼むとき、タクシー会社の名前などだれも気にしないのと同じで、配車アプリもそれと変わらない。無線・電話の配車係よりは配車アプリのアルゴリズムの方がはるかに公平である。携帯電話で呼ぶか、親指等で呼ぶかの違いだけである。道で手を挙げてつかまえられるのであれば、両方とも使わない。自分が旅行先でタクシーを呼ぶときのことを考えればすぐわかることである。
「複数のアプリ使用は可能か」という質問があったようだが、ドコモとソフトバンクの複数の電話配車を受け付けているのはむしろ当たり前であり、無線システムも同じである。運送引受順序はタクシー会社が先に受け付けたものからの順序であるのもあたりまえで、会社の都合で勝手に変更してはいけないのであろう。
② 自治体の権限
海外のタクシー・バス問題の紹介の仕方で問題なのは、欧米は自治体ごとにやり方が違うということを明示しないことである。ロンドンでもニューヨークでも自治体が監督官庁であるから当然で、エジンバラとボストンはまた違うのである。昨年チュームネクストが訪問したモスクワでも、モスクワ市とモスクワ州で違うという説明であった。そのことの当否は別として、この違いを強調する方がいいと思うのだが、「不都合な真実扱い」されている。歯切れのいい論風一陣でも取り上げてもらいたいものである。
③ ラベンシュタインの法則
人口減少は地方の問題というよりも、地方の内部問題でもある。石川県の人口減少は東京に吸収されていることよりも、能登の人口が金沢に吸収されていることの方が深刻である。金沢は吸い上げた一部が東京に吸い上げられているのである。その統計が政府から県庁所在地人口集中という形で発表されている。この人口現象の、川上から川下へ、村から町へ、町から県庁所在地へ、県庁所在地からブロック都市へ、ブロック都市から東京へ、という玉突き現象(ラベンシュタインの法則)は江戸時代からの現象であり、江戸時代は江戸の衛生状態が劣悪であったから、百万人を超えなかった。これを江戸蟻地獄説と速水融先生は名付けたのである。
このことを認識すれば、能登の交通問題は、東京で考えるよりもまず金沢で考えるべきであるということになる。石川県全体でどう取り扱うのかということであり、抽象的に人口減少対策と言っていては、隣町の住民を補助金で集めてくるだけのことであり、その隣の町の人口はさらに減少するのである。タクシー問題もそのことを念頭に置いて考えなければならない
④ 田舎の足の確保
いわゆる田舎の足の確保は、交通市場が成立しない地域の問題である。道路運送法を適用しようとする方が無理なのである。ごみ処理や介護サービスと同じであるが、自治体は権限を持っていないからこれ幸いと我関せずになる。市長を経験してよくその点が分かった。タクシー・バス会社から金を出せと言われても、税金を使う以上は権限がないとできない。配車アプリも、自家用車を中心に据えなければ満足されないであろう。自家用車族は十分に自動車諸税を自治体に支払っている(タクシーバス会社は寄与していない)のであるから、場合によっては無償の仕組みも可能なのである。
⑤ 外人等よそ者が使うアプリ
旅行者は自宅等でインストールしたものを使用する。当たり前であろう。モスクワに調査のため訪問した時は、ロシアの配車アプリをインストールして使用したが、普通はしない。訪日外客も東京からの旅行者も、北海道産の配車アプリをわざわざ使うことはないと思う。旅行先のタクシー会社がどうしてもよそ者に使ってもらいたければ、GoogleMapから飛んでくるようにしてもらえばいいのだろうが、外国語対応、キャッシュレス化、定額制等魅力がないと使用されない。それでも無理なのであろう。
逆に足のない地元の人が使用する場合は、ほぼ日常生活用になるから、パターン化してくる。従って特別仕様の配車アプリなどいらなくなる。足のある人は運転代行も利用するから、運転代行アプリも一緒でなければ不便だと思われる。ましてや各社各様のタクシーアプリは観念論で、利用者からすると、無線と同じく、混んでいるときは何度もかけなおさなければならず、不便である。せいぜい二種類であろう。
⑥ 運賃規制の形骸化
形骸化という表現が適切かは別として、規制緩和をもたらしたことは事実であり、JRも航空も繁栄している。バスも地方鉄道も不採算路線からの撤退ができるようになった。
国際カルテルで厳しく規制されていた航空運賃やコンテナ運賃は、とっくに自由化されてしまった。両者とも、航空機、船舶の大型化により、国際競争が激しくなり、価格破壊が始まったのであるが、その過程で航空会社によりパッケージツアー運賃が設定された。旅行会社向けのB2B運賃である。大阪万博後の需要減少に備えて、国鉄もそれをまねた。個人は購入できないのであるが、その結果、現在の形になったのである。ネットが普及してその旅行会社も不要になり、自家販売になってしまった。LCCが誕生して、世界中の発展に寄与していることは間違いがない。同じことはコンテナ輸送についてもいえる
⑦ 旅行業法の認識と配車アプリ会社
旅行業には、手配旅行と企画旅行があること周知のことである。紙面の都合で省略されているが、本質的なことが両者では全く違う。企画旅行のパック料金の不思議はこのブログでも何度も書いているので省略する。道路運送法云々は一部のタクシー会社側からするとわからないでもないが、企画旅行はあらゆる交通機関、しかも世界中の交通機関を利用するものであり、自家用車も排除されていないから、日本のタクシー運賃制度だけ特別に扱われるということは解釈上できないと考えている(注)。また、配車アプリ会社は無線会社と同じで、プラットフォーム会社である。プラットフォーム会社が旅行業を兼ね備えている場合は旅行会社性が強くなるだけのことである。Uberはプラットフォーム性を強調したが、行政、司法側は実質主義で判断するから、旅行業者性が認定される傾向が強くなるであろう。利用者保護を考えれば当然である。
⑧ 運転手確保
大手マスコミがタクシー運転手の低賃金問題を大きく取り上げた結果、今でも低賃金のイメージが強く残ってしまい、運転手不足を言えば言うほど、過去の報道があだになってしまっている。
運転手不足を外国人労働者で補おうとすると、言葉の壁に加えて二種免許のハードルが出てきてしまう。この二種免許をなくすと、自家用車の有償運送との違いを説明することが困難になってしまう。つまり、運動方針が一貫しないから言うことが変わってしまうのである。
注 日本の国会法は、質疑と質問を区分しており、通常委員会で行われる質問は正式には質疑という。質疑は議題に即したものしか対象にできないので、自由に質問できるというものではない。
現在の国会では、国政全般にわたって内閣の見解を問いただす「質問」は書面によるやり取り以外は認められていない。
新聞などに書かれている質問は正式には「質疑」。その時に議題となったもの以外は聞くことができない。こんな議会はほかの民主国家では存在しない(大山玲令子)
質問は 「質問主意書」という形で 文書で行わなければならず、内閣法制局の審査を受けて、閣議決定を経て政府から文書で回答されるので、国会議員から旅行業法の企画旅行と個別運送法規の関係を質問してもらえば、この問題に決着がつくのである。一つの運送機関しか所管しない担当部局の解釈通達では規範性に欠けるであろう。
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