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実運送と旅行業の関係(交通労連ハイタク・2018年交通運輸政策全国討論集会に関するタクシージャパンの記事)

公開日: : 最終更新日:2019/02/09 配車アプリ

実運送と旅行業の関係は、関係者の関心が高いが、正確な理解に欠けている分野であり、私の博士論文の主要テーマであるが、このブログでも何度も取り上げている。
Taxi Japan No.324 の記事を見て、一応専門家集団の購読紙なので、正確性を期すためコメントしておく。

(同紙P11の記述)
岡山の出席者から、配車アプリの運用に関して道路運送法と旅行業法の関係を聴く質問が出たが、・・・・編集長は、旅行業者のJR東海ツアーズによる東海道新幹線こだま乗車料金の実質的な格安販売である単品パック旅行「ぷらっとこだま」なども例に出して、配車アプリ会社が旅行業者として配車を行うことで、利用者へのキャッシュバックなどもふくめて柔軟な価格運用ができることなどを説明した。その一方で、・・編集長は「タクシー会社と配車アプリ会社との間には道路運送法が適用されるため認可運賃を収受する必要がある。・・・・・運賃などの割戻しを禁止している道路運送法には抵触しない」などとした。

上記記事の問題点解説
〇 まず、配車アプリと旅行業法の関係である。
配車アプリが、実運送人が直接運用するものであれば、旅行業法とは無関係である。共同運送している場合も同様である。バス、フェリー、航空等で共同運行しているケースが多いが、配車アプリ以前に、他社の手配で旅客を運送しても旅行業法ではなく実運送法で対応している。経済効果は単品パックと同じである。正確には「利用運送」というものに該当すると考えているが、行政慣行では実運送の範疇で分類される。航空のコードシェアもこれに該当する。
従って、運賃の割り戻し禁止規定の適用がある。

 次に、らくらくタクシータクあしくんのような場合は、手配旅行であり、実利用者とタクシー会社が直接運送契約を締結しているので、利用者の代理人である配車アプリ運営者は、旅行業法の手配旅行業務を行っていることになる。従って、実利用者とタクシー会社間には道路運送法の適用がある。手配旅行会社と実利用者の間には、旅行業法上の手数料が発生し、手配旅行者と実運送人の間に費用の清算関係が発生する。その結果を踏まえて「定額運賃」という効果が生まれるのである。

 タクシージャパン紙で紹介されている単品パック募集型企画旅行形態であり、実利用者と配車アプリ運営者の間には、旅行業法の募集型企画旅行契約が適用される。何度も書いているが、この募集型企画旅行(約款)は観光庁の認可を受けているとはいえ、あくまで旅行会社が主体的に決めたものであり、法律上決められたものではない。このことが法的安定性を欠くことにつながるのである。次に、実利用者とタクシー会社の間には、運送契約など締結されていない。約款も見ていない。あるのは事実行為だけである。タクシージャパンの記述は不正確である。この点はタクシー会社だけでなく、鉄道も、バスも、航空、ホテル等も同じである。従って、募集型企画旅行では運送契約が存在しないということになる。でなければ、認可料金が存在する複数の商品を組み合わせてパック旅行商品(パック旅行料金)を形成することなど不可能であり、まして海外商品など販売できないこととなってしまう。パック商品は、制度上は「自己の責任において」作られたものということになっているのである。

 なお、単品パックは日本独自のものであり、航空の世界から始まった世界のパック旅行商品は単品ではなく、複数の組合せにより、自宅を24時間以上離れなければならないというルールがある。従ってここで論じているようなことが問題にならないのである。日本は国鉄運賃法が存在した時代に、旅館の部屋を仕入れすぎた旅行会社が、部屋だけを単品で販売し始めたことにより発生したといわれている。国際観光ホテルの料金は事前届け出制であるから、器用に値付けはできないはずである。これが許されることからも、パックには国際観光ホテル整備法の適用がないと考えざるを得ないのである。

 次に、タクシー会社等の実運送人と旅行会社(配車アプリ運営者)の間に道路運送法等が適用されるかという問題がある。適用されるとなると、確定額で認可や届け出されている場合には、日本独特の単品パック商品が成立しない。その代表例が旧国鉄運賃であり、現在の国際観光ホテル料金である。条例で定められている宿泊施設や交通機関もそうである。それ以前に運送契約なのかという問題もある。約款などを読む限り、直接の利用者しか想定しておらず、旅行業の存在を想定していない。例外が航空の世界であり、実利用者用と旅行業者用を分けている。この点は旅行業法にも問題があり、物流のように利用運送の形態を想定していれば、道路運送法の適用があるという解釈も成り立つが、利用運送に関する標準約款は今のところ存在しない。
結論から言って、パック商品の場合、配車アプリ運営者とタクシー会社間には道路運送法の適用はなく、認可運賃云々はあり得ないということになる。
しかしながら、タクシーが人を乗せて走行しているから、運輸局への報告ではタクシーメータによる運転日報によって届けられている。これが道路運送法の適用がないとなると、法的には宙に浮いたのもとなる。従って、運輸局の現場では理解を超えたものとなる。鉄道等では輸送人員の報告であり、実輸送人員を報告するから問題が発生しないのである。

〇 しかしここで大きな問題が発生する。運送契約に関する問題(約款、料金等)は適用がないとすると、安全規制は適用がないのかということになる。自家用車をパック旅行に組み合わせてもいいのかという大問題が発生する。コンドミニアムやホテルの自家用バスはパックに中に含まれていることがある。鉄道、航空機や船舶の場合、自動車ほど営業用、自家用の区分が問題とならない(つまり安全規制に大きな差がない)が、自動車の場合、白タク、白バス問題(運転免許、車検期間)となる。パックを構成する場合、許可を受けた事業者でなければならないが、料金は自由であるというのもおかしな話ということになり、白タクでもいいのではないかということなってしまうのである。なお、宿泊の場合は、貸別荘(旅館ではなく自家用の分類になる)は判例でもパックに中に含まれている。当然であろう。旅行業者のパック商品で宿泊した時に、コンドミニアムと旅館で、特別損害補償責任が違うとなると消費者問題に発展しかねないからである。今度の民泊でも同様である。

この問題に関して私は、実は実運送人、実利用者、旅行業者(配車アプリ運営者含)三者の関係を完璧に整理することが不可能であるという認識である。道路運送法の規制当局がタクシー業界の要望を踏まえて、パック旅行に道路運送法の適用があると解釈すると、複数商品を組み合わせた単品ではないパック商品の説明ができなくなる。それ以上に旅行業法全体を合理的に解釈することができなくなる。航空法の規定のし方と、鉄道事業法、道路運送法、国際観光ホテル整備法の規定の仕方に統一性をかくことになる。道路運送法も、法的には自動車交通局長は補助職員としての存在であり、国土交通大臣が責任者であるから、国土交通大臣は陸海空及び観光制度全体を整合性をもって説明する責任がある。その上国土交通省以外の問題も存在するから、結局内閣全体の責任となり、内閣法制局の見解が求められることになる。

私の考えでは、内閣法制局に意見照会すれば、自動車交通局(というより関係業界)にとっては好ましくない結論が出ると考えている。自動車局が国土交通省の公式見解を出そうとしても、国土交通省(大臣官房)の見解として出されることになるから、観光庁と調整しなければならず、上記の通り不利な見解に落ち着く可能性の方が大きい。現在、観光庁は個別に問い合わせると、担当部局に聞いてくれといって逃げに姿勢になっているが、正式に問い合わされると関係業界の意向を聞かざるを得ないから、逃げられないであろう。従って、ことを明確にすればするほど立法的解決しかないのであるが、立法的解決で規制強化が進むとすると、日本の旅行産業はしりすぼみになるであろう。パック等の新商品によって規制緩和が促進され、国鉄が民営化され、オープンスカイが始まり、LCC等が生まれたのである。立法的解決となると、規制緩和の声がさらに大きくなり、騒いでいるうちに時間ばかりが過ぎ、自動運転車の時代に入っていって、問題そのものがなくなるのであろう。

組合関係者も、正確な認識をした方がいいと思われるので、いつでも私の記事を引用してもらっても構わないと思っている。

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