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Google戦略から見るこれからの人流・観光(東京交通新聞2014年6月23日)

『モバイル交通革命』の出版から11年がたちます。スマホに代表されるように『位置情報研究会』での論議以上のことが実現しています。時刻表・停車場システムに頼る公共交通が前提にした「不特定多数」概念は、技術進歩で「特定多数」に深化すると予言したのですが、まさに今日の「オンデマンド」「ビックデータ」となって現実化しています。

人類の進化は二足歩行から「手」が自由になり、「目」を使って作業することから「意識」が生まれ、「言語」「文字」を生み出しました。人類の進化をさかのぼるように、Googleは「文字」「言語」による検索システムを進化させています。いずれ非言語検索をも可能とする「知能ロボット」を実用化させるでしょう。他方「目」と「手(足)」にも進出しています。目はGoogle glassを世の中に出し、足はUber(旅行業)どころか自動運転車にまで事業展開してきています。

物流では競争激化からモノを「お届けする」ことが常識ですが、人流もいよいよ「お迎えに行く」時代に入ります。ビッグデータをマーケティングに活用すれば、顧客の意向を予測して先回りすることが可能となります。呼ばれる前にお迎えに行く、まさに木下藤吉郎の「草履取り作戦」をGoogleは考えているでしょう。

モバイル交通革命出版時のドッグイヤー論は、技術の進歩に人間の制度が追いついてゆかないことを論点としていました。航空では既に運賃規制は行われておらず、全日空は定額乗り放題運賃を実施しました。京王電鉄は、渋谷駅でも新宿駅でも利用できるマルチチョイスの定期券(定額乗り放題運賃)を発売しています。これからは時刻表・停車場だけではなく、スマホ・アプリに対応した交通制度を模索することになるでしょう。

政治制度も10年間で変化がありました。地方分権改革は確実に前進しています。地方のことは基礎自治体が行うという原理が確立しました。旅館業法と食品衛生法の管轄が国から都道府県に移管されて生まれた代表例が大分県安心院町の農村民泊だとされています。俗に言うグリーンツーリズムです。今度は自家用自動車有償運送の権限を基礎自治体に移すことが可能となりました。首長をした経験から判断すると、地方議会も自治体も、これまで運送事業行政は「運輸局さん」のお仕事という感覚でした。その「運輸局さん」は地元住民との日々の接触も少なく、人の移動に関する全体像がわからない状態でした。その点選挙で選ばれた人たちは、地域の声には敏感です。権限が移管されれば、運輸局さんの仕事といって逃げられないのですから、必死で『足の確保』を考えざるを得なくなります。

考え方次第ですが、高齢化社会の到来は交通事業者にとっては大きなビジネスチャンスの到来でもあります。我々はマイカーがなければ生活ができない社会を築き上げました。従ってマイカーの運転ができない人達に対する足の確保について、何事も家族の責任だとする伝統的な保守主義者のいうことに、従うわけにはゆかなくなってきます。高齢者の足の確保は、地域社会つまり行政の責任だと判断せざるを得なくなってきます。その足の提供は市場に任せていても供給されません。人口が減少するからです。従って市場に任せない、つまり消防や教育と同じ発想をしなければならなくなります。マイカー社会では車の保有者は自動車関係諸税を負担していますから、その財源のほんの一部を回せば足の確保はできるのです。基礎自治体は、国の機関のように縦割りではなく、道路行政の立場も有していますから、議会が納得すれば可能です。足の確保事業は自治体直営よりも、プロの業者に委託するほうが現実的でしょう。これからの高齢者は、スマホくらいは使えるでしょうから、位置情報把握による効率的配車も可能となります。定額乗り放題運賃や無償制度を組み合わせれば、マイカー並みに便利さを感じていただけるようになるでしょう。

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