*

東京オリンピック・パラリンピック時代の医療観光(日本医療・病院管理学会講演要旨)

都市の魅力を訪問客数で競う時代になっている。ロンドン市長が世界一宣言を行ったところ、パリが早速反駁した。2013 年の世界の海外旅行者数は約11 億である。中国人海外旅行者数は1億人と、人口比からするとまだ半分程度であり、これからも増加する。しかし国境を超える数字にどれほどの意味があるも考えなければならない。2014年度の北海道の道外入込客数は720万人(うち外国人150万人)であり、台湾を訪れる外国人数(800万人)よりすくないが豪州(680万人)を上回る。
政府も自治体もインバウンド政策に力を入れ、その一つとして医療観光が話題になっている。観光は日常生活圏を離れた非日常体験であり、地域間に差があれば人の移動を発生させる。風景や文化はもとより、人為的に発生させた差異も人流を発生させる。博打、風俗、動物虐待といったアナーキーなものも観光資源になる。治療はもちろん、出産、自殺ほう助も人流を発生させるから、医療観光が認識され、興味が持たれるのである。しかし、交流が深まればその差異は確実に縮まる。
外国人旅行客急増で宿泊施設不足が深刻化し、民泊が検討されている。これを私は住(日常)と宿(非日常)の相対化ととらえている。旅館業法は宿であるホテル、旅館に加えて、簡易宿所、下宿といった住も規定している。生活保護の住宅扶助費は簡易宿所料金に連動しており、住と宿は元来背中合わせなのである。
日本では、明治期に定住居所を持てない層への宿泊施設の提供から政策が始まり、戦時期に留守家族対策から住宅政策が開始された。店子の権利が強化されたが、高度経済成長期を経て、老朽家屋更新対策から、定期借地・借家権が創設された。その結果、民泊が実施しやすい環境ができたともいえる。
住と宿の相対化は医療、介護の世界でも始まっており、高齢者等の囲い込み問題を引き起こしている。私は政策としては、バラ色プランの医療観光より医療・介護分野の宿住相対化問題の足元を固めることが重要課題だと思っている。
 民泊と同様に、ライドシェアも話題になっている。Uber等の配車アプリでタクシーや自家用車が簡単に活用できる時代がやってきた。高齢者の多い過疎地域では、バス・タクシーが存在せず、高齢者が自ら運転しているが、いずれ限界が来る。白タク行為である自家用車の有償運送について、非営利法人によるものは認められている。自治体も有償運送の許可権限をもつことが可能であるから、意欲的な地域では新しいモデルが成立するであろう。
JTBは高齢者向けに月ぎめ「乗り放題」のJERONタクシーを開始した。月額3万円程度で医療機関とコンビニと自宅の間を何度でも利用できる。マイカーを保有するよりは安いが、まだまだ負担感がある。軽自動車税等による助成には納税者の理解は得られるはずだ。高齢者ビジネスの医療・介護機関、コンビニからの協賛金等も可能であろう。

関連記事

no image

7月21日 第二回観光ウェアラブル委員会を開催して

満倉靖恵慶応大学理工学部准教授と㈱ナビタイムジャパン野津直樹氏に講演を頂いた。 満倉先生は「脳

記事を読む

no image

動画で考える人流観光学 米国貧困層からみた住と宿の相対化

https://youtu.be/nt-AaSWdLOo    

記事を読む

no image

newspicks のコメント紹介 米国の場合は、住居を宿泊施設として紹介することは法的にできない

NAKAJIMA NAOTO( 30年間米国LAに暮らし、LAをベースに米国内、欧州、アフリカなど

記事を読む

no image

『物語 ナイジェリアの歴史』島田周平著 中公新書

アマゾン書評 歴史家トインビー曰く、アフリカはサハラ砂漠南縁を境に、北のアラブ主義

記事を読む

no image

Quora GOTO政策よりNYの方がよい。 ニューヨークにずっと住んでいる海外在住者の方でコロナによって失業もしくは、収入が激減した方はいますか?その場合はどのようにして収入を確保していますか?

Chinatsu Miyazaki·木 これは現在の私のことなのでお答えしなければいけません

記事を読む

 ホテルと旅館『西洋靴事始め』稲川實 現代書館

観光学でホテルと旅館の違いを説明するときに、私は芦原義信氏が西洋建築と日本家屋の違いを述べられた

記事を読む

タクシー「車庫待ち営業」の規制緩和の必要性

通訳案内業が、これまでのように自家用車を使用できれば、車と運転手の提供を一体的には行っていない(つま

記事を読む

no image

北陸新幹線金沢暫定開業雑感

 人口減少が予測される石川県では、北陸新幹線金沢暫定開業により観光客が急増しブームに沸いているが、こ

記事を読む

no image

国際人流・観光状況の考察と訪日旅行者急増要因の分析(1)

Ⅰ 訪日外客数の急増と福島原発事故の世界の旅行界に与えた影響 明るい話題が少ないのか、訪日外国人客

記事を読む

no image

「正座」の始まりは百年前 千利休は、あぐらをかいて茶を点てていたのである

ホテルと旅館を法律上区分する日本の宿泊法制度は珍しい。 その違いを考えると、和式と洋式の違いは「靴

記事を読む

no image
言語とは音や文字ではなく観念であるという説明

観光資源を考えると、言語とは何かに行き着くこととなる。 愛聴視し

no image
世界の運営を米国でなく中露に任せる 2023年6月7日  田中 宇

https://tanakanews.com/230607armeni

ヘンリーSストークス『英国人記者からみた連合国先勝史観の虚妄』2013年祥伝社

2016年10月19,20日に、父親の遺骨を浄土真宗高田派の総本山専修

旅籠とコンテナは元来同義 自動運転時代を予感 『旅館業の変遷史論考』木村吾郎

世界各国、どこでも自動車が走行している。その自動車の物理的規格も公的空

no image
旅館業法論議 無宿人保護(旅館業法)と店子保護(不動産賃貸)の歴史 

◎東洋経済の記事 https://t

→もっと見る

PAGE TOP ↑