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旅行業務取扱管理者試験問題とJR運賃制度の進化

公開日: : 最終更新日:2023/05/30 運賃、費用、経営

昭和49年から52年にかけて国鉄運賃法の改正作業をさせてもらったことがある。国有鉄道運賃法により国鉄運賃は国家独占料金であるから法律により定められなければならないという憲法上の要請であると考えられていた時代である。というより、55年体制の中で、野党社会党の最大勢力が国鉄労働組合であり、国鉄運賃法の改正が最重要法案にさせられていたから、国鉄運賃がなかなか値上げできず、その結果巨額の赤字を発生させてしまった時代である。高橋伸夫氏の研究では、国鉄が行った大都市鉄道投資の有利子負債分がちょうど累積債務の額に匹敵するとしている。国鉄改革により当然のことながら国の債務に引き渡された。この点を含めた憲法論議等は、HPの論文集高崎経済大学紀要の欄に「もう一つの憲法論議」として掲載してある。http://www.jinryu.jp/pdf/treatise2007-11.pdf

1 新幹線等と在来特急の乗継割引
北海道新幹線が3月26日に函館まで開通した。新しい時刻表が発売され、新しい運賃表も発表されている。新幹線料金の乗継割引が変更されている。今までは、青函トンネルを挟んで、新青森から海峡線連絡特急と、JR北海道内特急が併せて東北新幹線と乗継割引の適用があったものが、開通により廃止されている。新青森、新函館北斗駅での乗継割引に特化された。九州新幹線は在来特急との乗継割引を廃止しているが、北海道は継続させた。経営判断である。奥羽本線の寝台列車と在来特急の乗継割引も廃止された。寝台列車の位置づけが変化したからである。昔なら国会で質問されたであろうが、現在は経営者であるJR北海道の判断である。このあたりの設問が旅行業務取扱管理者試験では出題されるであろう。試験は結果を覚えるだけのことであるが、その理由を頭に置いておくと理解が早いはずである。
北陸新幹線、上越新幹線の乗継割引は、金沢、長野、長岡、新潟に限定されているが、直江津、津幡の特例が設けられている。大阪駅と同じ扱いになっている。新しい制度としては、青森から新青森までは、特急列車に乗車しても自由席であれば乗車券のみで乗車できるようになっている。普通列車の接続がよほど悪いのであろう。

山形新幹線、秋田新幹線は実は東北新幹線と在来線の乗継割引なのである。新幹線特急料金は速さに対する料金が中心であるから、在来線区間は在来線の特急料金なのである。

2 擬制キロ
JR運賃は、国鉄時代から大きく変化はしていない。対キロ制が基本で百キロを境にした二段階の遠距離低減制である。私が法律に記載した賃率は5円10銭、2円50銭であった。キロ数はメートル法によることになっていたから、法律には記述されていなかった。東海道新幹線は在来線の線増扱いであり、キロ程は在来線と同じであった。従って、在来線より直線距離の短い新幹線の計算方法は憲法違反であると利用者から国鉄が訴えられた。私も運輸省の担当者であり裁判を傍聴に行った。その後、任を離れた時代であるが、裁判で敗訴が予想される事態になり、議員立法でキロ程の特例を法律で記述することになった。擬制キロ制度の法的根拠が生まれたのである。

擬制キロは民間企業である臨海鉄道では国鉄時代から採用されていた。国鉄貨物運賃を計算する際に、賃率が全国一律であったから、距離の短い臨海鉄道では採算が取れず、かといって別に賃率を定めると計算が煩雑になることから、賃率ではなく、距離を割りまして擬制キロ制度を採用したのである。国鉄運賃法が廃止された現在でも、地方交通線で擬制キロがとられているのは同じ理由である。現在では運賃計算キロという名称が使用されているが、このほうがわかりやすい。しかし一般人にはわかりづらい制度であり、試験問題になるのである。

3 有効期間
切符の有効期間も乗車キロをもとに作られている。百キロまでが一日、二百キロまでが二日、そのあと二百キロ刻みで一にずつ増える。この時のキロ数は実キロである。擬制キロは経営判断から運賃の計算上のテクニックとして採用されたものであり、あくまで基本は実キロなのである。この点もよく試験に出されているが、その理由を知っておくと理解が早いであろう。座席指定のない自由席特急券の有効期間が、従前は2日となっていたが、現在では一日である。列車を指定しないものは有効期間開始日に限定されているのである。

4 子供の扱い
子供の扱いは鉄道営業法に基づく鉄道省令である鉄道運輸規程(同様のことが軌道運輸規程)に定めらている。

鉄道運輸規程(鉄道省令)
第十条  鉄道ハ旅客ノ同伴スル六年未満ノ小児旅客一人ニ付少クトモ一人迄無賃ヲ以テ運送スベシ
○2 割引乗車券ヲ以テ乗車スル旅客又ハ乗車位置ノ指定ヲ為ス列車若ハ客車ニ乗車シ特ニ小児ノ為其ノ座席ヲ請求スル旅客ニ付テハ鉄道ハ前項ノ規定ニ依ラザルコトヲ得
○3 鉄道ハ十二年未満ノ小児ヲ第一項ノ規定ニ依リ無賃ヲ以テ運送スルモノヲ除キ大人ノ運賃ノ半額ヲ以テ運送スベシ
○4 前項ノ規定ニ依ル運賃ニ十円未満ノ端数アルトキハ鉄道ノ定ムル所ニ依リ切上ゲ計算ヲ為スコトヲ得
軌道運輸規程(鉄道省令)
第六条  軌道ハ旅客ノ同伴スル六年未満ノ小児ヲ旅客一人ニ付少ク共一人迄無賃ヲ以テ之ヲ運送スベシ
○2 割引乗車券ヲ以テ乗車スル旅客又ハ乗車位置ノ指定ヲ為ス車両ニ乗車シ特ニ小児ノ為其ノ座席ヲ請求スル旅客ニ付テハ軌道ハ前項ノ規定ニ依ラザルコトヲ得
○3 軌道ハ十二年未満ノ小児ヲ第一項ノ規定ニ依リ無賃ヲ以テ運送スルモノヲ除キ大人ノ運賃ノ半額ヲ以テ運送スベシ但シ主トシテ市街地内ノ運輸ヲ目的トスル軌道及均一運賃制ヲ採ル軌道ハ此ノ限ニ在ラズ
○4 前項ノ規定ニ依ル運賃ニ十円未満ノ端数アルトキハ軌道ノ定ムル所ニ依リ切上ゲ計算ヲ為スコトヲ得

現在のJRの運用では、現実的な対応として、6歳でも小学校入学前の未就学児には無賃運送の規定を適用し、12歳の小学生には大人の半額規程を適用している。小児は大人の半額である。旅客の同伴する6年未満の小児(小学校入学全の6歳も含まれる)は幼児として取り扱い、2人まで無賃運送する。1歳未満の「乳児」概念は鉄道運輸規程では存在せず、鉄道が自主的に生み出したものである。乳児は何人でも無賃で運送することになっている。

航空運送においては、小児は3歳以上12歳未満である。幼児は3歳未満(国際航空においては2歳未満)であり、大人一人に2人まで同伴可能。ただし一人は満二歳で座席予約(ANAの場合はチャイルドシートを使用すれば2歳未満でも可能)し、小児運賃が必要。座席を使用しない幼児でも搭乗券は必要。フェリーは12歳以上が大人であるが、12歳でも13歳でも小学生であれば小児扱いである。幼児は1歳以上の小学校に就学していない者で、大人一人につき一人まで無賃扱いである。乳児は何人でも無賃である。ホテル宿泊約款では、中学生以上は大人料金で、小学生以下は子供料金である。寝具を使用する場合は大人料金の7割、寝具を使用し子供用の食事である場合は5割、寝具を使用しても食事がない場合は3割である。

以上のように取り扱いがそれぞれ微妙に異なるところから絶えず試験問題として出題されるようである。試験であるから仕方がないのかもしれないが、国の制度としての鉄道運輸規程に関する設問が国家試験でなされないのもおかしな現象である。

5 寝台料金制度等
複雑に進化したものが料金である。国鉄運賃法では、料金は運賃ではないということから、政令で内閣が定めることとなっていた。しかし運賃法定制のもとであるから、運賃に付随するものとして自由に決めるわけにもいかず、運賃収入を上回るわけにはいかないという運用をしていた。いまでも、料金だけを徴収することは極めて例外(入場券等)であり、運賃が無料であれば料金も無料のはずである。このあたりも試験問題になっている。
複雑なのは、寝台料金である。寝台という施設空間を占有する料金という考え方なのであろうか、大人と子供の区別はない。
また、個室寝台料金は二人用であれば二人分の特急・寝台料金が必要であるが、運賃は実利用人員分の運賃しか徴収しない。一人用の個室寝台を大人一人に小児一人が利用することができるが、大人二人や大人一人に子供二人で使用することはできない。
新幹線の普通車個室の場合、個室料金はないが、三人以上の利用を前提としている。これに対してグリーン個室は、一室当たりの個室グリーン料金を払えば、運賃及び特急料金は実人数分で済む。ただし、子供であっても大人の料金が必要であるのは、グリーンの一般原則である。

6 特急料金

特急料金概念は難しい。単純に速さに対するサービスではないからである。国鉄時代、急行のほうが特急より先につく場合があるといって国会で問題になったことがある。その時の答弁は、速さに対する対価だけではなく施設に対する対価でもあるとしていた。従って現在でも特急グリーン車に乗車する場合、座席指定に対する対価分として520円等を差し引くこととなっている。試験問題になるところである。
JR東海が「のぞみ」を設定したことから複雑になった。ひかり、こだまと料金が異なるからである。さらに「のぞみ」に自由席が設けられこれが「ひかり」こだま」と同じ扱いになったことから、さらに複雑になった。例えば東京・新大阪まで「のぞみ」指定席で行き、そのあと博多まで「ひかり」自由席で行ったとしても、全席指定席を利用したとして料金を計算するのである。東京博多間の「ひかり」指定席料金に東京・新大阪間の「のぞみ」と「ひかり」の差額分を加算するのである。しかしながら「のぞみ」が普通車であれば差額は加算されない。
九州新幹線が開通し、九州新幹線の特急料金は通算しないこととなった。東京博多間の特急料金に九州新幹線の特急料金を単純に加算するのである。距離からすると割高であるが、JR九州の経営方針である。従って、新大阪から鹿児島まで乗車する際に、広島まで「のぞみ」指定席で行き、そこから鹿児島まで「さくら」指定席で行く場合は、二重に複雑である。試験問題に出されている。
東北新幹線も「のぞみ」型の「はやぶさ」が導入され、同じ扱いになった。北陸新幹線の場合は、「のぞみ」型は存在せず、しかもJR西日本とJR東日本であるから、特急料金は通算制である。もっとも、これとてもに新潟から高崎で乗り換えて長野に向かう場合は特急料金は通算されない(運賃は通算される)。東京に向かう場合のみ通算制なのである。複雑ではあるが原理さえ理解すればわかりやすい。

7 グリーン料金
最も進化したのがグリーン料金である。国鉄が黒字の時代は、グリーン料金は存在せず、一等、二等、三等運賃に分かれていた。運賃改定法がなかなか国会で成立せず、赤字が膨らむものだから、等級制を廃止し、内閣で決定できる料金として、グリーン料金を設定したのである。最初は遠慮しながら実施していたのであるが、今では、個室グリーンにグランクラスまで出現し、また普通車のグリーン料金も多用されている。私もさすがにグランクラスの乗継は理解ができなかった。
東京~新函館でクラスが同じものを乗り継ぐ場合は料金表が単純であるが、クラスの異なるグリンクラスを利用する場合は複雑である。
新青森より手前で乗り継ぐ場合、新青森で乗り継ぐ場合、新青森より先で乗り継ぐ場合に分けてあるが、グリンクラスAが短距離で占有されると残りの区間が販売しづらくなるからであろう。

8 払戻制度
払戻制度は比較的単純である。使用前であれば有効期間内は払戻手数料は220円、立ち席特急券は全車指定席に関するものであるので発車時刻までとなっている。そのほかの指定席に関するものは前日から出発時刻までは30%であるが、最低330円である。十円未満は切り捨てである。往復乗車券、連続乗車券は一枚とみなされる。特急グリーン兼の場合は、特急料金には払戻手数料はかからない。施設利用分はグリーン料金に該当するからである。秋田新幹線や山陽新幹線・九州新幹線の直通、東北新幹線・北海道新幹線の直通も同じである。
列車遅延の時は、2時間以上であれば特急料金、急行料金は全額払い戻される。グリーン料金は施設利用料であるから払い戻しはない。この辺りは国鉄運賃法時代からの思想の流れである。

9 団体割引運賃
料金には団体割引はない。
学生団体には季節はなく通年である。中学生以上大人運賃の50%引き、小学生以下小児運賃の30%引き、教職員その他大人運賃の30%引き
第一期、二期にまたがる場合は、二期の割引(15%)を適用、往復の運賃総額から割引する
無賃扱い、31人~50人で1人、50人増えるごとに1人追加、訪日観光団体は15人から。学生団体にはない。

10 季節料金 

これも鉄道料金の進化の産物。需要に応じた体系。普通団体には適用されるが、学生団体、外国人団体の運賃割引やグリーン車には季節性がないという考え方。

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