旅行業法の不思議① 旅行業と運送業、宿泊業、不動産賃貸業の境界
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最終更新日:2023/05/30
旅館、ホテル、宿泊、民泊、不動産賃貸、ルームシェア、引受義務, 運賃、費用、経営
総合旅行業務取扱管理者試験という資格試験がある。その中に、旅行業法の登録を必要とするものはどれかという典型的な設問がある。行政慣行は尊重するとして、政策論として考えた場合に面白い論点がいくつか頭に浮かんでくるので書き留めた。
この論点は、旅行業法二条の規定に関する解釈の仕方から発生する。
◎ 「専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く」とあり、バス会社等の代理店は除外される。しかし、宿泊機関の代理店は除外されていない。コンビニがバス会社の代理店として切符を売る行為は旅行業法上の規制はないが、ホテルの宿泊券を販売する行為は登録が必要である。従ってコンビニでは、旅行会社のクーポンを販売している。通常は販売機で販売しているから旅行業者代理業者の登録もいらないのかもしれない。販売機の管理をだれが行っているかによるであろうが、コンビニごとに旅行業務取扱管理者を置くことは事実上無理である。この論点を試験問題に加えると、正答率はかなり低下するだろう。
この仕組みは、運送業は各運送法で規制がしっかりなされているところから、国土交通省の二重規制を回避する意味でも旅行業法の規制は不要であるという政策論が反映されている。国土交通大臣が監督するのであるから、同じ行為を二つの法律で二重に規制することは、内閣法制局の審査でも受け付けられなかったであろう。
ところが宿泊行政は厚生労働省であり、しかも旅館業法は歴史的には講学上の警察許可制度からスタートしている。つまり治安維持からスタートしていた。従って、宿泊サービスを代理して販売する行為を、国土交通省所管の旅行業法で規制するということが制度化されているのである。今、旅行業法が制度化されるとしたら、旅行業法は厚生労働省と国土交通省の共管の法律となったかもしれないくらいである。
◎ 不動産賃貸サービスを代理して販売する行為は、宅地建物取引業法の規制の下にある。歴史的には、旅館業法で規制の対象となっている、下宿サービスや簡易宿所サービスは、「住」サービスに分類されるものであり、「宿」サービスに分類されるものではなかった(私は宿と住の相対化現象が発生していると思っている)。ドヤ街という言葉が残っているくらいである。今でも簡易宿所料金は生活保護費の住宅扶助料に連動する場合があると聞いている。今社会で問題になっているAirbnbについても、制度上の問題が発生する。Airbnbが「住」サービスを代理販売しているとなると、宅地建物取引業法の規制がかかるから、直接不動産所有者が販売しているという解釈にならざるを得ない。Airbnbは情報を提供しているだけということになる。「住」サービスと「宿」サービスの区別が専門家でも難しいと思う。しかも旅行業法では「宿泊施設」「宿泊サービス」と無定義で用語が使用されており、旅館業法との関連は規定されていない。この理由は海外旅行先の宿泊施設まで一つ一つ考慮して定義づけができないからである。しかし、個人の住宅を他人に提供することがすべて「宿泊サービス」なのか否かは議論がある。
◎ 「他人の経営する運送機関又は宿泊施設を利用して、旅行者に対して運送等サービスを提供する行為 」
バス会社が日帰りのいちご狩りツアーを販売する場合、旅行業法の規制はかからない。宿泊が伴わないからである。宿泊を伴う場合であっても、自社のホテルに宿泊させる場合は「他人の経営する宿泊施設」ではないから、旅行業務とはならない。寝台列車や長距離フェリー、クルーズ船も宿泊を伴うが自社の施設販売であるのと同じである。厳密に解釈すると、運送サービスと宿泊サービスを個別に販売していると解釈するのであろう。しかし、両者をセットで自己の計算のもとに行う場合はどうなのであろう。自社の運送商品とホテル商品をパックにして自己の計算のもとに、規制料金を無視して包括料金で販売するとした場合、旅行業法の規制がかからないから、各運送法や国際観光ホテル整備法等の違反ということになるのであろう。従ってパック販売はできないということになる。なお、鉄道の場合は寝台料金が別途規定されており、クルーズ船の場合はもともと規制されていない。
建前上の規制料金は順守されているという説明ができる場合は、付加商品、例えば食事(旅館業法の規制は宿泊であり、食事には規制はない)や娯楽を旅行商品に加えて、トータルで競争力のある商品販売を実施することは可能である。娯楽に限定されず、介護であろうが、福祉、医療、教育サービスであってもかまわないのである。人を移動させる事業が潜在力を持っているから可能なのである。
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