『ニッポンを蝕む全体主義』適菜収
本書は、安倍元総理殺害の前に出版されているから、その分、財界の下請け、属国化をおねだりした日本、人治主義への転落等の表現にみられるように、故人への配慮がなされていない点で、本音が出ているものとして興味深く読ませてもらった。
本書は、全体主義台頭の歴史をエーリッヒ・フロム、マルティン・ルター、夏目漱石、ニーチェなどを引用しながら前半の四章までで解説した後、残りの第五章、第六章は『維新の会』や橋下徹、安倍晋三といった【エセ保守への批判】を行なっている。筆者は保守主義とは、「主義」とついているものの、正反対に「主義」を否定する態度であり、思想体系、イデオロギーではないとするところが重要である。さらに保守は人間理性を疑うから、「正義」を警戒し、保守主義の本質は反権力であり、純粋な近代ヨーロッパの思想だとする。従て、わが国で保守を自称する頭の悪い人たちのような、排外主義や新自由主義、愛国カルトといったものとはミリとも関係がないと手厳しい。まるで統一教会を予言しているようでもある。巻末の中野剛志の解説では、本書の読者は、容赦のない批判のうちに「人に知られないさみしさも潜んでいる」ことに気が付くであろうと結んでいるが、暗殺事件によりはからずも人に知られることとなってしまった。
関連記事
-
-
『「源氏物語」と戦争』有働裕 教科書に採用されたのは意外に遅く、1938年。なぜ戦争に向かうこの時期に、退廃的とも言える源氏物語が教科書に採用されたのか
アマゾン書評 源氏物語といえば、枕草子と並んで国語教科書に必ず登場する古典である。
-
-
『結婚のない国を歩く』モソ人の母系社会 金龍哲著
https://honz.jp/articles/-/4147 書によれば、「民族」という単
-
-
横山宏章の『反日と反中』(集英社新書2005年)及び『中華民国』(中央公論1997年)を読んで「歴史認識と観光」を考える
歴史認識を巡り日本と中国の大衆が反目しがちになってきたが、私は歴史認識の違いを比較すればするほど、
-
-
QUORAに見る観光資源 マヤ語とは何ですか?
マヤ語とは何ですか? マヤ語の研究を高校生にして大きく押し進め、現在もマヤ文化と考
-
-
観光資源としての吉田松陰の作られ方、横浜市立大学後期試験問題回答の例
今年も一題は、歴史は後から作られ、伝統は新しい例を取り上げ、観光資源として活用されているものを提示
-
-
ウェストファリア神話
国際観光を論じる際に、文科省からしつこく、「国際」観光とは何かと問われたことを契機に、国際について
-
-
学士会報926号特集 「混迷の中東・欧州をトルコから読み解く」「EUはどこに向かうのか」読後メモ
「混迷の中東」内藤正典 化学兵器の使用はアサド政権の犯行。フセインと違い一切証拠を残さないが、イス
-
-
「温度生物学」富永真琴 学士会会報2019年Ⅱ pp52-62
(観光学研究に感性アナライザー等を用いたデータを蓄積した研究が必要と主張しているが、生物学では温
-
-
『総選挙はこのようにして始まった』稲田雅洋著 天皇制の下での議会は一部の金持ちや地主が議員になっていたという通説が実証的に覆されている。いわば「勝手連」のような庶民が、志ある有能な人物(国税15円を納める資力のない者)をどのような工夫で議員に押し立てたかを資料に基づいて丹念にドキュメンタリー風に解説
学校で教えられた事と大分違っていた。1890(明治23)年の第一回総選挙で当選して衆議院議員にな