観光研究会メンバーによる岳温泉訪問
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最終更新日:2016/11/25
展開されている人流・観光事業に関する感想等
11月8日、9日溝尾良隆帝京大学教授のもと、福島大学の方々と共同で岳温泉を訪問しました。
岳温泉は、福島市と郡山市の中間に位置し、東京からも2時間でアクセスできる地理的には恵まれた場所に所在します。
開湯1200年と歴史は古いのですが、湯日(元岳)温泉が土石流で全滅、次いで塩沢に移し復興した十文字岳温泉が戊辰戦火で焼失、さらに深堀温泉として再々興するも失火で全焼、そして現在地の岳温泉と場所を移転してきました。古くからある温泉には道後温泉の伊佐庭如矢、別府温泉の油屋熊八、加賀山代温泉の吉田豊彦等温泉実業家が存在しますが、岳温泉も御多分にもれず、今日の繁栄は木村泰治の熱意と不屈の精神があったからこそだと伝承されています。
http://www.city.nihonmatsu.lg.jp/soshiki/54/376.html
岳温泉は、かつてはミニ独立国「ニコニコ共和国」としてマスコミをにぎわし話題を提供したところです。観光協会の建物(写真左)にその面影が残っています。地名もヒマラヤ通り(写真右)等ユニークなものがあります。
ヒマラヤ通りの最上部温泉神社のすぐ下に所在していた和風旅館(下左の写真)も震災にあい閉館していました。屋根が陥没しています。同様にヒマラヤ通りに面したいくつかの旅館が廃業していますし、空き地になっている所もあります。
入湯客はバブル崩壊後減少傾向を続けていましたが、福島第一原子力発電所の事故の岳温泉に与えた影響は大きく、更に入湯客が減少しています。東京のお客さんを浜通りとの周遊で集めていたようですが、浜通りとのタイアップができなくなりました。これからの周遊観光をどう考えてゆくのか課題ですが、福島県の行政区画のこだわっていては困難なような気がします。
現在、安達太良山の知名度のもとウォーキング観光に力を入れており、写真右は健康を強調したパンフレットです。「国民保養温泉地」というソーシャル・ツーリズム華やかりし頃の懐かしい言葉が見受けられます。ここにも木村泰治の遺産が見られます。
岳温泉では、観光カリスマを超える実績を持たれている鈴木安一岳温泉観光協会会長さんをはじめみなさんに御世話になりました。鈴木さんの東館の昔の写真(下左)を掲げておきます。
岳温泉は湯元は山の上にあり、そこから引き湯をしているのですが、古い時代の導管(写真上右)がありました。温泉にくわしくない人に対しては物語の材料にできる素材です。ヒマラヤ通りに続く坂道には桜並木の通りがみられ、共同浴場、足湯等の施設もありました。
観光協会の若手メンバーで、これからの岳温泉を考える長期ビジョンを作成しており、意見交換会でも活発な姿勢が見られました。私は、二次交通の問題に触れ、二本松市が自家用運送事業の有償運送の許可制度の権限を国から委譲してもらい、積極的に有償運送を導入してはどうかと意見を申し上げておきました。課題は山積していますが注目してゆきたいと思っています。
(追記1)世代間ギャップには想像以上のものがあります。国鉄を知らない今の学生は、団塊の世代が使用した教科書と異なるものを使用しています。私が著書「東京オリンピックを迎える学生・社会人のための観光・人流概論」で歴史も伝統も後から造られると記述しましたように、「知恵子抄」についても、東京に空が戻ってきたせいかはわかりませんが、マスコミ登板回数が減少すれば認識度も低下します。前提となる情報が違ってきていることを前提に観光戦略を立てなければならないでしょう。帝京平成大学の学生に関しては安達太良山の知名度は低いと思われますし、世の中の平均的な若者も同様なのかもしれません。
(追記2)ミニ独立国ブーム 日本国内において地域振興や自然保護運動の手段として「建国」された架空の国家です。地方自治体や商工会・観光協会などが主体となって運営していることが多かったです。1977年に「独立宣言」をした新邪馬台国(大分県宇佐市)が第1号です。井上ひさしの「吉里吉里人」によって全国ミニ独立国ブームが発生し、最盛期には200カ国を数えました。1986年にはミニ独立国オリンピックが銀杏連邦(東京都八王子市)で開かれ、テレビのゴールデンタイムで放送されるなどの盛り上がりを見せましたが、乱立によりインパクトが無くなったこと、後発国の無計画性などで飽きられ、ブームは沈静化しました。B級グルメ、ゆるキャラも同じ運命をたどると思われます。
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