*

『美味しさの脳科学』ゴードン・M・シェファード

公開日: : 最終更新日:2019/07/09 脳科学と観光, 観光情報 コミュニケーション

盲視があるように盲臭もある。

言語を使って風味を評価しようとするのは、最高難度の部類

p.290 人の顔のような非幾何学的な視覚イメージは、だれの顔と間違いなく認識できても、言葉にして表すのは難しい。匂いのイメージも、それと同じで、何の匂いか間違いなく認識できても、いざ表現するとなると言葉が出てこないのではあるまいか

p.298 「意識」はあまりにも漠然とした用語で、科学実験の対象となりえなかった。今でも大半の神経科学者はそう考えている。クリックとコッホは、そんなことはお構いなしに我が道をまい進した。2003年に発表した論文の中でかの有名な演繹的推論を展開し.視覚系に限ったかなり狭い意味でだが、「意識とは対象物の具体的な色、経常または運動を知覚すること」と初めて定義した

この見方からすると、意識は皮質ニューロン、とりわけ、資格連合野から前頭前野の統合領域に投射するニューロンの特殊な発火パターンによって生じることになる

p.353 ファストフード 風味過剰 多様な風味の寄せ集め、それが脳を刺激して、過食を誘発。伝統料理はバランスがとれているので、過食にはならない

アマゾン書評1

英文タイトルは、Neurogastonomy. 
はじめに 味わいは脳の創造物である
序文 新しい風味の科学「ニューロ・ガストロノミー」.
第1部 鼻とにおい
第1章 においと風味の研究の革命
第2章 犬と人間の嗅覚を比べる(レトロネイザル経路に注目)
第3章 口が脳をたぶらかす
第4章 風味の分子
第2部 においを描く
第5章 におい分子の受容体
第6章 感覚イメージの形成
第7章 においの空間パターン
第8章 においは顔に似ている
第9章 においのイメージは点描画
第10章 イメージの強調
第11章 嗅皮質への注目
第3部 風味の創出
第12章 嗅覚と風味
第13章 味覚と風味
第14章 マウス・フィール(口中での質感)
第15章 視覚と風味
第16章 聴覚と風味
第17章 風味を生む筋肉
第18章 知覚系+行動系=ヒト脳風味系
第4部 風味が大切なわけ
第19章 嗜好と渇望
第20章 風味と記憶:プルースト再解釈
第21章 過食と肥満の原因
第22章 風味の神経経済学
第23章 ヒト脳風味系の可塑性
第24章 言語とのかかわり
第25章 意識・無意識とのかかわり
第26章 においと風味が人類を進化させた
第27章 胎児から老年まで
謝辞/参考文献/解説 真柴隆弘
4部構成で、全27章、353ページ。
解説がコンパクトに内容を概観しているが、第1部で、嗅覚について、犬や猫などと劣ると思われているが、風味(Retronasal嗅覚)という観点からすると、大間違いで、他の動物より人間が優れているという、本書の動機付けが語られる。
第2部は、脳科学の分野。嗅覚がどうなっているかの解明が難しかったということが語られるのだが、それだけに現在科学の粋を集めての解明は興味深い。脳のコンピュータモデルについての権威でもあるEdmund Rollsがこの分野のモデル構築もしていたことを知って、さらに興味がわいた。
第3部は、そもそも風味とはという、大脳新皮質の働きも含めながら、それが聴覚なども含めた五感全体に関わる、食物摂取の重要さを考えれば当然なのだが、ということが語られる。
第4部では、風味と食欲との関係が、薬物に溺れる人との関係で物語られる。プルーストのマドレーヌの話など、古典の蘊蓄が披露される。なぜ、こどもに極端な好き嫌いがあるかは、まだ解っていないという。確かに考えてみれば不思議だし、その解明と適切な対処法が見つかれば、世の親たちにとっては福音になる。科学的アプローチの偉大さだ。第24章では、言語との関わりが語られていて、ここはワインテイスティングが活躍するのだが、これまたなるほどと思わせる。

書評2

人間の嗅覚はイヌなどと比べても劣らないばかりか、大脳と直結していることにより、ひじょうに進化しているのだという。ただし、この嗅覚、鼻から吸い込むにおいではなく、口から鼻に抜ける口中香のことで、レトロネイザル経路のにおいと呼ばれる
目からウロコなのは、このレトロネイザル経路のにおいが味わいを決めているという研究で、図をまじえながら詳しく説かれる。「においは点描画のようなイメージとして知覚される」など、随所に興味深い知見がある。ただ、細かいところは端折って要点だけでも良かったのでは・・と思われるところも。
ポピュラーサイエンスとして面白いのは後半のパートだろう。風味が人類を進化させたという仮説、甘い物がクセになったり、ファストフードを食べ過ぎてしまう理由、母親から胎児へとにおいの嗜好がうつること・・・。けっして取っつきやすい本ではないけれど、においと味わいという原初的な感覚が一体となって脳を・・つまり、この私をいかに突き動かしているかがよ〜くわかった。

書評3

原題は「ニューロ・ガストロノミー」で、食べ物の風味を決める神経的基盤を探る試みを意味する造語。一般的には嗅覚というと外界の匂いをかぐオルソネイザル経路が中心だが、著者はそれとは異なる、物を食べる際に口の中から運ばれる匂いをかぐレトロネイザル経路に注目して、そこから人は食物の風味をどのように味わっているかを科学的に探求している。著者は嗅覚を専門とする神経科学者だが、この著作は本人の専門である嗅覚の科学についての解説としても優れているが、それだけではなく嗅覚も重要な役割を果たす味わい(風味)についての科学をも紹介しているという点では他に見られない珍しい特徴を持っている。

人間の嗅覚は他の動物に比べると退化しているかのように思えるが、それは外界の匂いを嗅ぐことを念頭におくからそう思えるだけで、口の中からの匂いを嗅ぐ点ではむしろ人間は犬より優れた構造を持っている。そうした口の中から(レトロネイザル経路)の匂いは、鼻をつまんで食べ物を口にすると分かるように、食べ物の風味を決める大切な要素だ。こうして人の嗅覚の重要性を確認した上で、前半では著者の専門である嗅覚の研究をその歴史を交えながら説明している。その説明が見事なもので、匂いの認識の複雑さを顔の認識と比較して説明するのには納得してしまった。後半はより広い視点から嗅覚を始めとする複数の感覚から(脳の中で)生み出される風味について考察している。風味に関連した研究を取り上げて説明しているのだが、もちろん(その複雑さ故に)風味そのものの研究というのはほぼないので、ここでは著者の科学的教養が全面的に発揮されることになる。風味を心の科学で話題にされる一通りのテーマに結び付けて論じられているのだが、心の科学の本に慣れた身にはその扱いの見事さには感心した。

関連記事

no image

保護中: 学士会報No.946 全卓樹「シミュレーション仮説と無限連鎖世界」

海外旅行に行けないものだから、ヴァーチャル旅行を楽しんでいる。リアルとヴァーチャルの違いは分かっ

記事を読む

『脳の意識 機械の意識』渡辺正峰著 人間は右脳と左脳の2つを持ち,その一方のみでも意識をもつことは確かなので,意識を持っていることが確実である自分自身の一方の脳を機械で作った脳に置き換えて,両脳がある場合と同じように統一された意識が再生されれば,機械は意識を持ちうると結論できる.

Amazon 物質と電気的・化学的反応の集合体にすぎない脳から、なぜ意識は生まれるのか―。多くの

記事を読む

動画で考える人流観光学  観光情報論 ミラーニューロン

https://www.ted.com/talks/vilayanur_ramachandran_t

記事を読む

no image

保護中: 書評『脳は空より広いか』エーデルマン著 冬樹純子訳 草思社

エデルマンは、Bright Air、Brilliant Fire、Wider than the

記事を読む

no image

動画で考える人流観光学 観光情報論 脳と言語 酒井邦嘉「脳はどのように言葉を生み出すか」ー高校生のための東京大学オープンキャンパス2015 模擬講義

人間の言語は何語であっても再帰的な言語の木構造で無限にかけると、チョムスキーは主張  人間の脳の構造

記事を読む

『眼の誕生』アンドリュー・パーカー 感覚器官の進化はおそらく脳よりも前だった。脳は処理すべき情報をもたらす感覚器より前には存在する必要がなかった

眼の発達に関して新しい役割を獲得する前には、異なった機能を持っていたはず しエダア

記事を読む

no image

『中国人のこころ』小野秀樹

本書を読んで、率直に感じたことは、自動翻訳やAIができる前に、日本型AI、中国型自動翻訳が登場す

記事を読む

no image

動画で考える人流観光学 [バリバラ] 感覚過敏の世界 ~味覚過敏・聴覚過敏編

https://youtu.be/OEMhx_pIyiM    

記事を読む

no image

『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサ―著2001年

ただ一つの言葉で言い表すと、画一性 トーマス・フリードマンは自著の『レクサスとオリーブの木』

記事を読む

『音楽好きな脳』レヴィティン 『変化の旋律』エリザベス・タターン

キューバをはじめ駆け足でカリブ海の一部を回ってきて、音楽と観光について改めて認識を深めることができた

記事を読む

no image
カシュガル、ホータン、ヤルカンド

素敵な計画ですね!カシュガル、ヤル

no image
中国新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタンのハンザ地区を通過してパキスタンの空港から日本に戻るルート

中国新疆ウイグル自治区カシュガルからパキスタンのハンザ地区を通過してパ

no image
独島への渡航

東京から鬱陵島(ウルルンド)への最も経済的な移動方法は、以下の3つのス

no image
リビア旅行について

Dear Teramae Shuichi,

no image
シリア旅行について2

Dear Shuichi, Thank you so much

→もっと見る

PAGE TOP ↑