「宿泊税とオーバーツーリズム」論議への批判
公開日:
:
最終更新日:2023/05/29
路銀、為替、金融、財政、税制
私の博士論文では、観光税制を詳しく取り上げたが、当時は誰も関心がなかった。いま議論されている宿泊税はいわゆるオーバーツーリズムに対応したものとして検討・実施されているとマスコミでは報道されている。しかし、このは発想はすでに入湯税の導入時に議論されているから、きわめて古いのである。
入湯税は、温泉がある市町村では行政需要がそれだけ多くなるという理由から措置された財源であり、当時の国会議論では人口が10万の都市では13万人くらいの行政需要が発生するとされていた。道路も看板も余計にかかるからである。しかし面白いもので、外国人誘致には、国際観光ホテル整備法では、ホテル、旅館の税金を安くしているから、外国人は大きくお金を落としてゆくので、おつりがでると思っていたようである。昭和30年代、温泉地の旅館の火事が社会問題になり、法改正により使途が拡大され、消防自動車も購入できるようになった。近年では観光宣伝にも使用できるように改正された。旅館関係者は入湯税は自分たちが納めているから、自分たちのものだと思っているが、利用者が納めており、行政需要が増加すれば、住民が負担しているのである。勘違いも甚だしいが、選挙を控えており、言いなりの市長もいる。
このブログと同じHPに私の博士論文や教科書等を掲載しているから、興味のある者は読んでもらいたい。
次に宿泊税は、まだ観光、観光と大騒ぎする前から、つまり小泉総理よりも前に、石原都知事が実施したのである。ロンドン、パリと競争するという趣旨で、ホテル課税をして、観光宣伝費用財源等にしたのである。海外の都市では一般的であり、観光協会の財源になっている。ただし、ニューヨーク市観光協会に調査に行ったときは、その税金は市が握っており、観光協会には回ってきていないと嘆いていた。会費だけで頑張っていた。
日本も料飲税という都道府県の財源になっていた税金があった。東京都で1千億を超えていたと思うが、巨額の財源である。これを消費税導入に合わせて廃止した。しばらく特別地方消費税として存続したが、これも旅館業者の大反対で廃止された。私は日本観光協会の理事長をしていたので、被害を被った立場であった。今になって、ちまちました宿泊税で復活するのはどうもおかしいのである。
そもそも、料理飲食税や通行税、入場税は、奢侈税として始まっている。オーバーツーリズムの発想ではないのである。オーバーツーリズムは、大衆課税であるから逆である。北支事変税制として、戦費調達から始まった。それが戦後も長く存続した。団塊の世代は、航空機やグリーン車に通行税がかかっていたことを記憶している。レストランで一万円以上消費すると課税されていた。芸能界出身の参議院議員は、入場税の廃止に頑張っていた。歌舞伎や映画が安くなったからである。
こういう事実を知らないで、DMO云々と講釈をする評論家や学者がいるものだから、私としては、是非私の学位論文を読んでもらいたいと思うのである。なお、財団JTBも近年興味を持ち出しているが、税制に関する基本認識ができていないので、記述が不正確である。
観光という定義が不明確なものには、租税法定主義は合わないのである。従って国際観光振興税が創設されたが、目的税とするなら、きわめて笊になってしまうのは当然なのである。県と市町村が課税をめぐって対立するのも、政策目的がはっきりしないからである。拝観料課税の時、京都府と京都市、奈良県と奈良市で県が異なったことの再来である。昔、地方税の目的税が許されなかった時代、宮城縣の松島町が、普通税ではあるが、名称に工夫を凝らして、限りなく目的税化したことがある。まだ健全で、今は「何でも観光」で、しかも外国人が多いから文句が出ないだろうと、課税姿勢も甘いのである。
関連記事
-
-
動画で考える人流観光学 「日韓露」つなぐ唯一の航路廃止
「日韓露」つなぐ唯一の航路廃止、累積赤字41億円…一度も黒字化できず 2020/0
-
-
肥後交通グループの第2回オフサイトミーティングに参加して
チームネクストの番外の研修として、熊本県人吉市に所在する中小企業大学校研修室を使用して開催された、肥
-
-
太平洋戦争で日本が使用した総費用がQuoraにでていた
太平洋戦争で、日本が使った総費用はいくらでしょうか?Matsuoka Daichi, 九州大学で経
-
-
月額制の航空運賃+滞在費
サンケイに、「 全日本空輸が来年1月から、月額制で全国の航空路線と滞在施設を利用できるサービスを始
-
-
明治維新の評価 『経済改革としての明治維新』武田知弘著
明治時代の日本は世界史的に見て非常に稀有な存在である。19世紀後半、日本だけが欧米列強に対抗し
-
-
『セイヴィング・ザ・サン』 ジリアン・テッド
バブル期に関する書籍は数多く出版され、高杉良が長銀をモデルに書いた『小説・ザ・外資』はア
-
-
1936年と2019年のホスピタリィティ比較
『ビルマ商人の日本訪問記』ウ・ラフ著土橋康子訳を読むと、 1936年当時の日本の百貨店のことを、店
-
-
日本銀行「失敗の本質」原真人
黒田日銀はなぜ「誤算」の連続なのか?「異次元緩和」は真珠湾攻撃、「マイナス金利」はインパール作戦
-
-
人民元の動向と中国の通貨戦略 日本銀行アジア金融協力センター 露口洋介 2011.1
中国の現状は。日本の1970年を過ぎたところに当たる 大きく異なるのは、①中国は海外市場で
-
-
『国債の歴史』(富田俊基著2006年東洋経済新報社)を読んで
標記図書を読み、あとがきが要領よくまとめられていた。財政に素人の私には、非常に参考になる。 要約す
- PREV
- human geography
- NEXT
- 『ホテル経営論』徳江純一郎