*

「戦争を拡大したのは「海軍」だった」 『日本人はなぜ戦争へと向かったのか戦中編』NHKブックス 歴史は後から作られる例

https://www.j-cast.com/bookwatch/2018/12/09008354.html

我々の世代ではこの表題でわかるのであるが、50歳年の離れた大学生にはわからなくなってきているのであろう。つまり、太平洋戦争は知っていても、陸海軍の問題は深く知られなくなってきている。今となっては、海軍、陸軍ではなく、国家機能の在り方、セクショナリズムという見方の方がいいのかもしれない。霞が関の各省庁の権限争議も、陸海軍ほどではないにしても戦後引き続き存続した。日本に限ったことではなく、開戦前のアメリカであったことである。国務省と国防省、大統領府の競争はあり、ナチス下のドイツでも、スパイゾルゲの中で映像化されているが、陸海軍の問題はその程度が激しすぎたということであろう。なお、組織の小さかった海軍は、終戦処理にあたって組織ぐるみで見事にその責任を回避できたという経緯もある。

ここで戦争の終息を図るべきだという声

 「戦中編」と銘打たれているのは、開戦から半年ぐらいの間のことに絞っているから。その時期に戦争を終わらせることも可能だったはずだが、逆に戦線が拡大した。

 実際のところ、1941年12月8日の真珠湾奇襲が大成功して、南方でも破竹の勢い。瞬く間にフィリピン、ボルネオ、マレー半島を制圧し、開戦前の重要資源調達量を大幅に上回る状態になった。そこで緒戦勝利で有利なうちに、収拾を図ろうとする動きも浮上する。本書の冒頭ではそのあたりが詳しく報告されている。

 政府内からは、企画院を中心に当初の目的を達したのだから、ここで戦争の終息を図るべきだという声が相次いだ。開戦前の「列強の勢力下にある資源を確保」「自存自衛の確立」という目的を達したというわけだ。陸軍も同調したという。ところが海軍が反対する。情勢が有利な今こそアメリカに徹底的な決戦を挑む好機である、オーストラリアなどにも戦線を広げてアメリカの戦意をくじくことで初めて講和の可能性が引き出せると主張した。

 本書の20ページには、陸軍が考えていた戦線の範囲と、海軍のそれが同じ地図の中に図示されている。海軍の範囲は陸軍のざっと二倍。両者の主張は対立したが、17年3月の「戦争指導の大綱」では拡大策が事実上容認される。そして海軍がニューギニアに上陸、という流れだ。もう引き返せない。

「大東亜共栄圏」は新たなビジネスチャンス

 一般に戦争責任を考える時、俎上に上るのは当時の政府であり、軍の判断だ。加えて本書では「経済界」も引きずり出す。「大東亜共栄圏」に群がり、利権を漁った関係者が少なくなかったからだ。

 南方への進出企業は、資源開発や輸送、現地のインフラ整備など多岐の業種にわたり、巨大商社から中小企業まで、実に480社に上ったという。各企業は先を争うように占領地軍政を統括する軍に接近した。海軍省の廊下には、南方進出を希望する業者が担当者との面会を求め、列をなしていたという。

 要するに国内経済の悪化であえいでいた経済界にとっては、「大東亜共栄圏」は新たなビジネスチャンスだった。経済界の有力者が、「向こうから取ってきた資源は、対価を払わなくてもよろしい」というような発言をする。企画院の総裁も「日本がやっていることは、欧米の思想からみれば搾取かもしれぬ。しかし、自分のなすことに正義感を持ってやる場合には、搾取という思想にはならないと思う」という理屈で経済界の背中を押した。

 戦争で潤い、戦争拡大を歓迎した経済界の責任は、余り問われることがないが、本書は軍と経済界の癒着にもメスを入れている。

「”名将”山本五十六の虚実」

 一般に先の戦争は陸軍の暴走による、と見られることが多い。だが本書は「海軍の責任」についても手厳しい。「”名将”山本五十六の虚実」という項目も設けている。取材班によるインタビューに防衛研究所歴史研究センターの相澤淳氏が答えている。

 日露戦争以後の日本海軍の基本的な思想は、アメリカを仮想敵として、いかにしてそれに軍事的に対抗していくかということだった。そのあたりは本欄で紹介した『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮社)にも書かれていた。

 したがって、相澤氏は、「英米との開戦をめぐって反対派と賛成派に分けるとすれば、山本は反対派だったことになると思います。しかし、彼が戦争そのものを忌避していたという意味で非戦派というのであれば、それは事実ではないでしょう」と語っている。

 ロンドン海軍軍縮会議で「劣勢比率」を押し付けられた海軍。山本は当時、「アメリカと戦争になった時にはまず空襲を持って一撃する」と語っており、それがのちの「真珠湾」に結びついたと相澤氏は見ている。

関連記事

⑥の4 21日、22日 トリニダートドバコ・ポルトオブスぺイン

21日深夜にトリニダートドバコに到着。いろいろあったが、予定通りの時間ではある。 入管の女性が、帰

記事を読む

no image

日本語辞書と英和辞書に見る「観光」

6月15日 月曜日父親の手術に立ち会うため加賀市立中央病院に出かけた。手術は無事終了し、石田医師には

記事を読む

no image

人口減少の掛け声に対する違和感と 西田正規著『人類史のなかの定住革命』めも

多くの田舎が人口減少を唱える。本気で心配しているかは別として、政治問題にしている。しかし、人口減少と

記事を読む

no image

安田純平『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』集英社新書

p.254「戦火のイラクに滞在し、現地の人々の置かれた状況を考えれば自分の拘束などどういうことでも

記事を読む

no image

food porn

フードポルノという言葉があることを知った。 http://www.bbc.com/news/av/

記事を読む

no image

人民元の動向と中国の通貨戦略 日本銀行アジア金融協力センター 露口洋介 2011.1

中国の現状は。日本の1970年を過ぎたところに当たる 大きく異なるのは、①中国は海外市場で

記事を読む

no image

進化するぷらっとこだま(JR東海ツアーズ)、では「ぷらっとタクシー」は?

旅行業法のパッケージツアー(主催旅行(現在は企画旅行))の面白さを説明するのに一番わかりやすい事例が

記事を読む

no image

自家用自動車の共同使用(ライドシェ)

タクシー業界がライドシェに過敏になっているのか、行政当局もライドシェに否定的な報道が目立つ。しかし、

記事を読む

no image

2002年『言語の脳科学』酒井邦嘉著 東大教養学部の講義(認知脳科学概論)をもとにした本 生成文法( generative grammar)

メモ p.135「最近の言語学の入門書は、最後の一章に脳科学との関連性が解説されている」私の観光教

記事を読む

本当に日本は職人を尊ぶ国であったのか?

司馬遼太郎氏は、韓国、中国との比較においてなのか、『この国のかたち』のなかで、「職人。実に響きがよ

記事を読む

PAGE TOP ↑