理解するAIは数学の新理論の発見なしにはあり得ないということ
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最終更新日:2023/05/30
脳科学と観光
NIRAから定期刊行物を送っていただいている。政府資金が入っているので、過激な記事は少ないが、2017年7月31号のオピニオンペーパー「デジタライゼーション時代に求められる人材育成」は素人の私には大変参考になった。
2011年に開始したAIプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の研究の結果、AIは言葉の意味を理解し状況を判断するすることが苦手出るという結論に達したと、新井紀子国立情報研究所情報社会相関研究系教授と尾崎幸謙筑波大ビジネス科学研究科准教授は結論付けている。
観光研究では、あいかわらずあらゆる情報が記号化されずに流通している。富士山と桂離宮の観光評価を5段階評価のアンケートを集計して足し算して単純に比較している。ゴッホの作品の真贋や病気の診断は人間を上回る制度に達しているのにである。味の世界でも味覚センサーがきちんと数値化したデータを提供できるのであるから、フードツーリズム研究家が味覚センサーを基に論文の一つや二つは出してもよさそうなものである。
さて、東大プロジェクトであるが、5年間の研究の結果、東ロボは「現在の理論とそれに基づく近未来のデータと技術では、相手と意思を疎通し、状況を的確に判断し、人と協力しながら問題解決を図るようなAIを生み出すことはできない」という結論に達した。深層学習と呼ばれるような一連の技術は、にんげんのような少ない事例から一般化することはできないし、抽象概念をあつかえない。それをあつかうための数学の枠組みがそもそも存在しないからである。
はっきりしていることがある。仮に「意味を理解するAI」が生まれるなら、それは人工知能やハードウェアn世界で革命が起きるのではない。それらを支える理論が、数学に世界で発見された時である。理論の準備なしにある日突然AIが完成するというのはSFの世界でのみ起こり得る奇跡だ。
東ロボは東大世界史模試の600字の論述式の問題で、人間の受験生に後れを取ることはなかった。つまり、論述かマークシートか、が問題ではない。意味が分からなければ解けないような問題が出題されるかどうか、が問題なのだ。
現在、声高に叫ばれているアクティヴラーニングは、第2次大戦後の進駐軍時代のにほんにおいて「瀬下克単元学習」という名の下で実践された教育にきわめて類似している。
しかし、「日本人の学力を著しく低下させている」との批判が巻き起こり、1960年代には系統的な学習指導要領に修正されたという歴史がある。きょいく現場の実感としては、生活単元学習の理想は絵に描いた餅であり、すでに能力が高い子供はさらに能力を高めるが、それ以外の子供は何らスキルを身に着けることができないことが問題視されたのである。
東洋経済記事からの抜粋
「本プロジェクトのリーダーである、国立情報学研究所の新井紀子教授が認めるように、東ロボくんは「科目の得手不得手があるというより、意味を読み取るのが苦手」だ。卓抜な計算力と暗記力があり、問題文を計算式に解析できれば、簡単に答えを出せるが、問題文に「意味」を理解しなければならない要素があれば、現状ではお手上げだ。
つまり「問題文を読めないので答えられない」という壁を乗り越えないことには、プロジェクトの進展は見込めない。ひとまず凍結という判断に至ったのは、そこに有効なブレイクスルーの方法が見つからないためだ。
文の意味を考える、複数の文同士の関係を考える、文脈を捉える、言い換えや抽象的な言い方を具体的な言い方に捉え直す──こうした作業はいまのところ人間が得意な分野ではある。
しかし、東ロボくんの開発を進める一方で、中高生の文章の読解力がAIよりも劣っているという研究結果も出ており、意味の読解は人間が圧倒的に優位などとあぐらをかいていられない。東ロボくんが大学受験する試みは凍結されるが、これまでの研究結果から、人間の認知のしくみや「意味」の捉え方についての研究の方向性にも新たな道筋がつくだろう。」
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