意識あるロボットの出現とホスピタリティー論の終焉
公開日:
:
用語「人流」「観光」「ツーリズム」「ツーリスト」
かねがね、観光学研究で字句「ホスピタリティー」が使用されていることに大きな疑問を感じていた。意識あるロボットの研究をする方がよほど研究に資すると考えていたからである。
フロントでロボットが出迎えるホテルが話題になっている。練れていないネーミングであるが宣伝効果はある。 赤坂にもありわざわざ見に行ったが、おもちゃのようなものであった。これをもてはやすようでは、ホスピタリィー研究の退化ではないかと思ったくらいである。中国では、顔認証ができるAIロボットによりホテルのフロントで顧客管理を始めたというから、こちらの方こそ話題にすべきで、日中の格差の将来を感じさせるものである。
深層学習技術によりAIは、認識能力レベルでは既に人間を超えている。従って顔認証システムが導入されている。ベテランのホテルマンよりも素早く認識するから、20年前に宿泊した者にも、お久しぶりですねと声がかけられる。膨大なデータベースを瞬時に活用できるから、顧客の好みを間違えることもない。個人情報の取り扱いが違う中国では、銀行の口座情報から宿泊引き受けを丁寧にお断りすることもあるかもしれない。昨日利用したレストランまでクレジットカード情報で手に入れているかもしれないのである。
脳の可視化も進みつつある。私は2015年に、感性アナライザーを用いて実証実験をした(ブログにもアップしてある)が、実用化は時間の問題である。ウェアラブルデバイスも日進月歩だ。便利になれば今のスマホみたいなもので、万人が着用するであろう。
味覚、臭覚等の非言語情報も数値化が可能となっており、顧客の反応のデータベース化ができる道ができてきた。「お味はいかがでしたか」「お部屋には不都合はありませんでしたか」といちいち野暮な質問をしなくてもウェアラブルデバイス着用の顧客からは正直な反応が得られる。冗談交じりに言えばメイドに対するセクハラの事前予防も可能である。
しかしながら、フロントのロボットに心をあたえるには、人間の脳の仕組みを完全に理解しないとできない。
周りの環境は動物にその意味を与える。与えるという意味からアフォーダンスというが、そのアフォーダンスに対して活動する神経細胞であるカノニカル・ニューロンも発見されている。アフォーダンスには記号操作は必ずしも必要ではない。他人の身体と自分が相互作用する物体のそれぞれを認知するシステムが備わっているのである。
優秀なロボットにはカノニカル・ニューロンが必要である。 我々は通常6万の語彙を持っている。この膨大な数の単語をお互いの関係まで含めて、ほとんど他の人から教わることもなしに心内辞書を作成してしまう。「嫌い嫌いも好きのうち」と理解するのは奇跡的な出来事であるから、当分の間、すべてをロボットに奪われることはないであろうが、宿泊業従業員にとって代わるのは時間の問題かもしれない。
私は概念として観光とツーリズムを使い分ける研究者には、英文でその違いを記述することが如何に困難であるかを説明してきた。このブログでも何度も記述している。字句「tourism」が宙に浮いてしまうからである。概念ホスピタリティーの場合、字句「hospitality」と同義だとするならば、逆に日本語を造語し字句「ホスピタリティ」の使用をやめてもいいはずである。ましてや人の移動を前提とする観光活動の一部として論じるのであれば、移動を前提としないものと字句の使い分けをしておかないと混乱が発生するから、ホスピタリィティもhospitalityも議論の足りない概念であり字句なのであろう。
オリンピック誘致で「おもてなし」が話題になった。でも海外メディアではホスピタリティ、トリートメントと翻訳されて報道されたから、あくまで国内の話題であった。何のために議論するかを明確にして、字句を選択しなければならない。観光客の心の満足をいかに提供するかということであれば、観光客以外の者への心の満足を提供するかとの違いを明確にして議論を進めなければならないが、結局観光の定義問題に行き着いてしまう。
関連記事
-
-
伝統は後から作られる例 関西は阪神フアンという伝統
これも学士會会報の記事、何時も面白い話をしてくれる井上章一氏の「ゆがめられた関西像」 戦後しば
-
-
「ブラックアース~ホロコーストの歴史と警告」ティモシー・スナイダー著池田年穂訳 を読んで
ホロコーストについても、観光学で歴史や伝統は後から作られると説明してきたが、この本を読んでさらにその
-
-
羽生敦子立教大学兼任講師の博士論文概要「19世紀フランスロマン主義作家の旅行記に見られる旅の主体の変遷」を読んで
一昨日の4月9日に立教観光学研究紀要が送られてきた。羽生敦子立教大学兼任講師の博士論文概要「19世紀
-
-
歴史認識と書評『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏 』長谷川毅
日本降服までの3ヶ月間を焦点に、米ソ間の日本及び極東地域での主導権争いを克明に検証した本。
-
-
外国人労働者受入と外国人観光客受入は違うのか違わないのか?~「人流による収斂」と「金流による収斂」~
国際観光が政策として叫ばれているが、その政策的意義が考えれば考えるほどわからなくなってきた。それは移
-
-
保護中: ジャパンナウ予定原稿 感情と観光行動
観光資源に対して観光客に移動という行動をおこさせるものが感情である。言葉を換えれば刺激であ
-
-
保護中: 定住のヒント 『植物は知性を持っている』めも
植物は「動く」 著者は、イタリア人の植物生理学者ステファノ・マンクーゾである。フィレンツェ大学国
-
-
公研2019年2月号 記事二題 貧富の格差、言葉の発生
●「貧富の格差と世界の行方」津上俊哉 〇トーマスピケティ「21世紀の資本」 世界経済は
-
-
『シベリア出兵』広岩近広
知られざるシベリア出兵の謎1918年、ロシア革命への干渉戦争として行われたシベリア出兵。実際に起
- PREV
- 歴史は繰り返す遊興飲食・宿泊税とDMO論議
- NEXT
- 『市場と権力』佐々木実を読んで