*

意識あるロボットの出現とホスピタリティー論の終焉

公開日: : 最終更新日:2023/05/29 脳科学と観光, 躾、接遇

かねがね、観光学研究で字句「ホスピタリティー」が使用されていることに大きな疑問を感じていた。意識あるロボットの研究をする方がよほど研究に資すると考えていたからである。

フロントでロボットが出迎えるホテルが話題になっている。練れていないネーミングであるが宣伝効果はある。 赤坂にもありわざわざ見に行ったが、おもちゃのようなものであった。これをもてはやすようでは、ホスピタリィー研究の退化ではないかと思ったくらいである。中国では、顔認証ができるAIロボットによりホテルのフロントで顧客管理を始めたというから、こちらの方こそ話題にすべきで、日中の格差の将来を感じさせるものである。

深層学習技術によりAIは、認識能力レベルでは既に人間を超えている。従って顔認証システムが導入されている。ベテランのホテルマンよりも素早く認識するから、20年前に宿泊した者にも、お久しぶりですねと声がかけられる。膨大なデータベースを瞬時に活用できるから、顧客の好みを間違えることもない。個人情報の取り扱いが違う中国では、銀行の口座情報から宿泊引き受けを丁寧にお断りすることもあるかもしれない。昨日利用したレストランまでクレジットカード情報で手に入れているかもしれないのである。

脳の可視化も進みつつある。私は2015年に、感性アナライザーを用いて実証実験をした(ブログにもアップしてある)が、実用化は時間の問題である。ウェアラブルデバイスも日進月歩だ。便利になれば今のスマホみたいなもので、万人が着用するであろう。

味覚、臭覚等の非言語情報も数値化が可能となっており、顧客の反応のデータベース化ができる道ができてきた。「お味はいかがでしたか」「お部屋には不都合はありませんでしたか」といちいち野暮な質問をしなくてもウェアラブルデバイス着用の顧客からは正直な反応が得られる。冗談交じりに言えばメイドに対するセクハラの事前予防も可能である。

しかしながら、フロントのロボットに心をあたえるには、人間の脳の仕組みを完全に理解しないとできない。

周りの環境は動物にその意味を与える。与えるという意味からアフォーダンスというが、そのアフォーダンスに対して活動する神経細胞であるカノニカル・ニューロンも発見されている。アフォーダンスには記号操作は必ずしも必要ではない。他人の身体と自分が相互作用する物体のそれぞれを認知するシステムが備わっているのである。

優秀なロボットにはカノニカル・ニューロンが必要である。 我々は通常6万の語彙を持っている。この膨大な数の単語をお互いの関係まで含めて、ほとんど他の人から教わることもなしに心内辞書を作成してしまう。「嫌い嫌いも好きのうち」と理解するのは奇跡的な出来事であるから、当分の間、すべてをロボットに奪われることはないであろうが、宿泊業従業員にとって代わるのは時間の問題かもしれない。

私は概念として観光とツーリズムを使い分ける研究者には、英文でその違いを記述することが如何に困難であるかを説明してきた。このブログでも何度も記述している。字句「tourism」が宙に浮いてしまうからである。概念ホスピタリティーの場合、字句「hospitality」と同義だとするならば、逆に日本語を造語し字句「ホスピタリティ」の使用をやめてもいいはずである。ましてや人の移動を前提とする観光活動の一部として論じるのであれば、移動を前提としないものと字句の使い分けをしておかないと混乱が発生するから、ホスピタリィティもhospitalityも議論の足りない概念であり字句なのであろう。

オリンピック誘致で「おもてなし」が話題になった。でも海外メディアではホスピタリティ、トリートメントと翻訳されて報道されたから、あくまで国内の話題であった。何のために議論するかを明確にして、字句を選択しなければならない。観光客の心の満足をいかに提供するかということであれば、観光客以外の者への心の満足を提供するかとの違いを明確にして議論を進めなければならないが、結局観光の定義問題に行き着いてしまう。

関連記事

no image

ハーディ・ラマヌジャンのタクシー数

特殊な数学的能力を保有する者が存在する。サヴァンと呼ばれる人たちだが、どうしてそのような能力が備わ

記事を読む

no image

Mashuup Ideathon 感情系API特集 のイベントに参加して 2016年8月9日

表記アイデアソンというイベントの勧誘があり、今まではあまり興味がなかったが、感情系APIがテーマとい

記事を読む

no image

名回答です。「故中国人の方はマナーが悪いで有名なのでしょうか?Kato Eiji, 空家再生、民泊経営 (2018〜現在)回答日: 日曜」

何故中国人の方はマナーが悪いで有名なのでしょうか?Kato Eiji, 空家再生、民泊経営 (20

記事を読む

no image

日本人が清潔好きという伝統?

ネットで見つけた情報の写真。しかし、あるブログの書き込みでは、当否は洗えば洗うほど防御のため油分が

記事を読む

no image

『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサ―著2001年

ただ一つの言葉で言い表すと、画一性 トーマス・フリードマンは自著の『レクサスとオリーブの木』

記事を読む

no image

大関真之『「量子」の仕業ですか?』

pp101-102 「仮にこの性質を利用して、脳が人の意識や判断、その他の動作を行っているとしたら、

記事を読む

no image

書評『情動はこうしてつくられる』リサ・フェルドマン・バレット 紀伊国屋書店

参考になるアマゾンの書評の紹介 ➀  本書のサブタイトルにある「構成主義(const

記事を読む

no image

2002年『言語の脳科学』酒井邦嘉著 東大教養学部の講義(認知脳科学概論)をもとにした本 生成文法( generative grammar)

メモ p.135「最近の言語学の入門書は、最後の一章に脳科学との関連性が解説されている」私の観光教

記事を読む

『はじめての認知科学』新曜社  人工知能研究(人の知性を人工的に作ろうという研究)と認知科学研究(人の心の成り立ちを探る研究)は双子

人工知能研究(人の知性を人工的に作ろうという研究)と認知科学研究(人の心の成り立ちを探る研究)は

記事を読む

no image

保護中: 書評『脳は空より広いか』エーデルマン著 冬樹純子訳 草思社

エデルマンは、Bright Air、Brilliant Fire、Wider than the

記事を読む

ヘンリーSストークス『英国人記者からみた連合国先勝史観の虚妄』2013年祥伝社

2016年10月19,20日に、父親の遺骨を浄土真宗高田派の総本山専修

旅籠とコンテナは元来同義 自動運転時代を予感 『旅館業の変遷史論考』木村吾郎

世界各国、どこでも自動車が走行している。その自動車の物理的規格も公的空

no image
旅館業法論議 無宿人保護(旅館業法)と店子保護(不動産賃貸)の歴史 

◎東洋経済の記事 https://t

no image
旅館業法の「宿泊拒否」箇所を削除、衆院委で改正案を可決 2023年5月27日読売新聞記事

「衆議院厚生労働委員会は26日、感染症流行時の宿泊施設の対応を定める旅

『本土の人間は知らないことが、沖縄の人はみんな知っていること』書籍情報社 矢部宏治

p.236 細川護熙首相がアメリカ政府高官から北朝鮮の情勢が緊迫し

→もっと見る

PAGE TOP ↑