*

広田照幸著『日本人のしつけは衰退したか』を読んで

公開日: : 最終更新日:2019/07/07 躾、接遇

日本人の車内でのマナーが良いとか、駅のトイレがきれいだと自画自賛する傾向が強い。しかし、国鉄末期の駅のトイレは汚かった。国鉄の知人がトイレ掃除隊を結成したことを思い出した。社内も常磐線や東北線の始発では、通路に新聞紙を敷き、酒盛りをする人たちもいた。関西の駅ではわれ先に乗ろうと列はすぐに乱れたりしていた。大正時代の世相ではもっとすごかったことが物の本には書いてあった。その一方で、1936年訪日のビルマ人には清潔にも映っていた。個別に事情は違ったのかもしれない。

家庭のしつけも、国粋主義的思想の者が、家庭教育を叫び始めたのでこの本を読んでみたのだが、読んでみて子供の頃を思い出した。
田舎だったので貧しい家庭の子供も周りにいたことを思い出した。当時小遣いに1日分として10円玉をもらって遊んでいる子供がいてうらやましかったことを思い出したのある。私の母親はまず現金はくれなかった。親からもらえたのはお祭りぐらいである。だから買い食いができなかったが、周りの子供は、親から1日10円もらって駄菓子屋で買い物をしていた。仲間に入れてもらえず困ったことが多かった。でもこの本を読んで、昔の親は忙しくて子供の相手などしていられず、とりあえず金を渡して邪魔にならないようにしていたということが、今更ながら理解をしたのである。駄菓子屋の存在は昭和ノスタルジアで片づけてはいけないようだ。

本書では、「村のしつけは幸せだったか」を問いかけている。コミュニティーで子育てしていたというユートピアは空想で、村のしつけは差別と抑圧が組み込まれていたとある。長男と次男三男の区別、男女の区別、村内の序列、今でいう封建的しきたりをみっちりたたきこまれていたのである。貧農が自分の子供に「父ちゃん」などと呼ばせたら、分を超えたものとして周囲から白い目で見られたとある。オトッつぁんと呼ばせなければならなかったそうで、それならマイフェアレディの世界と同じ階級社会である。

丁稚奉公や女中奉公なども「他人の飯を食う」教育的な役割を果たしたという論文が時折見受けられるのだそうだが、筆者はそれはあまりにも牧歌的だと一刀両断。酷使と虐待がおおく、おびただしい数の少年少女の人生をダメにしたとある。江戸アリジゴク説を思い出した。

しかも村のしつけが対象とするのは正規メンバーだけで、共同体からはみ出た子供たちは、アウトサイダーとして生きざるを得なかったようだ。私生児として生まれ、5歳で子守に出され、本名もしらず、はだしであるき、最後は売り飛ばされてしまったのだ。「赤とんぼの歌」はその子守の悲しさの背景を思い出さなければわからないのである。故郷に赤とんぼの会という合唱団があったが、ずいぶんイメージが違う。

小学校ができても労働力だった子供を親は学校にとられないようにしたのだが、次第にあきらめて、学校で読み書きそろばんぐらいは身につけることを期待し、それ以外は家業に邪魔にならないよう外で遊ばせていた。だからおよそ学校にしつけなど期待するはずもなかったようだ。

筆者は現代のほうがよほど家庭でのしつけが行われていると教育学者の観点から断じている。あまり家庭教育に胸を張ってものが言える立場でもないが、両親には感謝しなければと思う次第である。

関連記事

徴兵逃れ 『教科書には載っていない戦前の日本』p.238 政策があれば対策が生まれるのは、日中共通

合法的徴兵逃れは当初は金銭の支払いであったが、批判もあり廃止 養子縁組 あまりにも

記事を読む

no image

名回答です。「故中国人の方はマナーが悪いで有名なのでしょうか?Kato Eiji, 空家再生、民泊経営 (2018〜現在)回答日: 日曜」

何故中国人の方はマナーが悪いで有名なのでしょうか?Kato Eiji, 空家再生、民泊経営 (20

記事を読む

no image

意識あるロボットの出現とホスピタリティー論の終焉

かねがね、観光学研究で字句「ホスピタリティー」が使用されていることに大きな疑問を感じていた。意識

記事を読む

no image

『ビルマ商人の日本訪問記』1936年ウ・ラフ著土橋康子訳 大阪は「東洋のベニス」

1936年の日本を見たビルマ人の記述である 1936年当時の大阪市は人口三百万、町全体に大小

記事を読む

no image

東日本震災時に問題視された略奪の限りを尽くしていた火事場泥棒

https://matome.naver.jp/odai/2150962666730148001

記事を読む

no image

世界人流観光施策風土記 チベット旅行の検討から見えてきたこと

物流行政をしていたころ、港湾運送事業者が、貿易手続きが複雑なことが自分たちの仕事が存在する理由だとし

記事を読む

no image

by them 美しい日本、なのか?海外で気づいた「衛生」意識の違い

新型コロナウイルスに対する不安は、外出禁止令や緊急事態宣言が緩和されたあとでもしばらくは拭えない。

記事を読む

no image

『中国人のこころ』小野秀樹

本書を読んで、率直に感じたことは、自動翻訳やAIができる前に、日本型AI、中国型自動翻訳が登場す

記事を読む

no image

日本人が清潔好きという伝統?

ネットで見つけた情報の写真。しかし、あるブログの書き込みでは、当否は洗えば洗うほど防御のため油分が

記事を読む

『プロヴァンスの村の終焉』上・下 ジャン=ピエール・ルゴフ著 2017年10月15日

市長時代にピーターメイルの「プロヴァンスの12か月」読み、観光地づくりの参考にしたいと孫を連れて南仏

記事を読む

PAGE TOP ↑