*

1950年代の日本を知る貴重な記録文学 『空旅・船旅・汽車の旅』阿川弘之

公開日: : 最終更新日:2016/11/25 人流 観光 ツーリズム ツーリスト

日本のどの地域の運転者も自分の地域の道路が最悪と思いこんでいる時代の、1958年10月下旬、阿川氏一行は東北一周の自動車旅行を実施されましたが、本書はその時の記録文学です。

阿川氏は、悪路の原因説を紹介し、国鉄保護政策とともに、戦前道路行政は内務省土木局の一部、今日でも建設省道路局という一部局にすぎない、と記述しています。具体的な「成績優秀な者は河川局に入り、同じ大学を出ても、道路局には下っ端連中ーといって悪ければ、それほど優秀でない人物が廻された」(p.13)との記述には、私の世代になると土木工学が鉄道の方が人気があったとは理解していたので驚きはないものの、実感は全くありません。国鉄赤字時代の行政を経験しているからでしょう。しかし、この種の記述は、新聞でも公文書でもあからさまになることはないでしょうから、貴重な文献資料です。

物流に関しては「秋田では私たちは、日本通運のトラックの運転手たちと座談会をやった。最大限5年、年齢は30歳まで、それ以上長距離定期便の勤務をすることは身体的に無理だということであった」(p.19)という記述があり、当時国鉄貨物が主流であった理由が容易に理解できます。

「この17号線は起点東京終点新潟と公称しながら、実際は途中の三国峠、自動車が通れないのである。現在一級国道で自動車が通れないのはここだけだそうだ(その後1959年6月に全通した)」(p.23)の記述をよむと、新幹線も長野で新潟と富山に分岐すればもっと早くに北陸新幹線が完成していたのではと思われ残念です。

「国鉄の東京大阪広軌新線の建設費二千億に比べたら、安いものなのである。三千億円使うと、日本中の一級国道は一応全部舗装できるといわれている。これからの日本の交通問題で、何が先で何が後か、金の使い道のウェイトはどこにおくべきか、みんなでよく考えて、見守っている必要がありそうである」(p.25)の記述は、新幹線が税金でつくられているとい認識に立たれています。当時国鉄運賃が独占価格でしたから、間違ってはいませんが、違和感があります。

そのほか「機関士三代」「スチュワーデスの話」の聞き取り記述の中に鉄道自殺やトイレ、乗客のマナーに関するものがあります。今日ですと何かと物議を醸す話題ですから、ツィターなら炎上しそうです。昔の方が表現の自由があったような気がします。それにしても交通道徳も豊かな時代を前提にしたものだということがわかります。

「おせっかいの戒め」では、愛車のルノーで、通りすがりの他人を好意で乗車させるおせっかいの逸話が記述されています。その中で白タクに間違われたときに「ハンカチタクシーじゃない」と、私は大声を出した とあります。ハンカチタクシーの語源は、ハンカチを販売して、その購入者にサービスで目的地まで乗車サービスをすること、ナンバープレートが白いことからハンカチになぞらえたこと、ハンカチを運ぶときに所有者も一緒に同乗させること等があります。いずれにしても脱法行為と判断されるでしょう。しかし、工夫次第では新しいビジネスモデルとなります。フリーペーパーならぬフリー・ライドサービスです。ぼやぼやしていますと、Googleクラスの力のある企業が考えだしてしまう可能性があります。

関連記事

羽生敦子立教大学兼任講師の博士論文概要「19世紀フランスロマン主義作家の旅行記に見られる旅の主体の変遷」を読んで

一昨日の4月9日に立教観光学研究紀要が送られてきた。羽生敦子立教大学兼任講師の博士論文概要「19世紀

記事を読む

no image

上田卓爾「明治期を主とした「海外観光旅行」について」名古屋外国語大学現代国際学部 紀要第6号2010年3月を読んで

上田氏の資料に基づく考察には鋭いものがあり、観光とTOURISMの関係についての議論を発展させる意味

記事を読む

『観光紀遊』岡千仭著 明治19年

明治19年であるから、観光は国際観光の意味が強い時代であろう。

記事を読む

no image

訪韓中国人旅行客の動向 3月は対前年比40%減であるものの、訪韓に占める割合は日本を上回る

本日ようやく韓国の外客数値がネットで公表された。 https://kto.visitkorea.o

記事を読む

no image

Participation in press tour for Jeju (preliminary knowledge)

The international tourism situation of Jeju is cha

記事を読む

no image

動画で考える人流観光

Countries Earning the Most from International Tour

記事を読む

no image

孫建軍著『近代日本語の起源』に見る用語「国際」の誕生

用語「観光」を論じるにあたって、国際との関係をこれまで考察してきたが、考えてみると、日本人社会のなか

記事を読む

no image

Tourist & Tourism  by Encyclopedia of Tourism Chief Editor Jafar Jafari

Tourst The term 'tourist' was invented as an ex

記事を読む

no image

The basic viewpoint of discussing Human Logistics and Tourism

In the process of studying Tourism Studies, consid

記事を読む

no image

動画で考える人流観光論 観光資源論 贋作の観光資源的価値

第51回国会 参議院 文教委員会 第4号 昭和41年2月17日 https://kokkai.nd

記事を読む

no image
🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 福建省(24番目)厦門

中国ビザ関係 観光ビザ、トランジットビザ、ビザ免除の三通りがある

🌍🎒シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 台湾省🏳‍🌈 金門島

◎ 中国-台湾結ぶ「高速鉄道&道路」計画…圧力強化か(2022年7

no image
🌍🎒シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 台湾省🏳‍🌈 台北

国連加盟国第一か国目は中国。1970年に香港、台湾と旅行した。当時は、

🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 パラオ共和国(国連加盟国188か国目)

        https:/

🌍🎒2024シニアバックパッカー南極太平洋諸国の旅 セブ・マクタン島

◎セブ島行安売り航空券   マクタン島には、マゼランのフ

→もっと見る

PAGE TOP ↑