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Quoraに見る観光資源 タモリさんは何がすごくて芸能界で大御所扱いされているのですか?

公開日: : 最終更新日:2020/12/01 伝統・伝承(嘘も含めて), 観光資源の均一化

回答 · 日本 · 関心がある可能性があるトピックタモリさんは何がすごくて芸能界で大御所扱いされているのですか?萩原 遼 (Ryo Hagiwara), 三味線奏者・旅芸人、法学徒回答日: 水曜 · Nanri Yasuo, 日本在住 (1971〜現在)さんが高評価をつけました

日本のお笑い史はふたつの時期に区分でき、芸人は二種類に区分できます。それはすなわちタモリ前とタモリ後であり、タモリとそれ以外です。

無限に語ることができるタモリの偉大さの中でも、特に知名度が高く現在でも入手容易な「外国語のモノマネ」「ハナモゲラ語」に絞って回答しましょう。


タモリの持ちネタに、「外国語のモノマネ」があります。ちょっと前まで、年末の「徹子の部屋」で黒柳徹子が無茶振りするのが定番でした。

7ヶ国語でバスガイド。

博多の「ゴボ天うどん」を各国語で解説。

映像に合わせての諸国語サッカー実況。

外国語のマネなんてのは、一歩間違えれば差別になりかねません。そのため、常識的にはタブーなわけですが、タモリがこれを破り、単体のネタに仕上げたおそらく戦後最初の芸人だと思われます(藤村有弘が最初であるとのご指摘をいただき、私もそれを否定するものではありませんが、多くの外国語を同時に演じ、かつ演じることそのものをひとつのネタとする点においてはタモリが最初であろうと私は考えています)。

タブーを破ってなお認められるのは、芸のクオリティが非常に高く、言語と文化に対する知見とリスペクトがあったからです。差別になりやすいからこそ、元の言語とその母語話者や文化に対して真摯に向き合う必要があり、したがって、その言語の発音・発声上の特徴はもちろん、表情の出し方や感情の込め方、時には文化的背景に至るまでの多くを学び、理解することが第一歩になります。タモリはこの点において、他の芸人とは一線を画します。

中国語のモノマネひとつ取っても、四声はもちろん北京語と広東語の違い、表情の差、当時の中国の文化的背景まで、藤村有弘と共にこれだけの知見を披露しています(1981年頃、テレビ番組『今夜は最高』にて)。

ここまで知っているからこそ、中国語を知る人から観ても面白くなるのです。タモリ以外で、このレベルにある芸人はまあ存在しないでしょう。

【追記】湊さんの回答で、また貴重な動画を拝見しました。1976年のタモリの中国語講座、「郵便局はどこ?」を中国語で言ったら、というネタです。

ただそれっぽく言っているだけではありません。中国語の四声、濁音と半濁音の非弁別性、二重母音などを知らないとこのレベルにはならないのです。

「中国人のマネがうまい」などと言われる中川家や次長課長など、カンフー映画のマネがうまいだけであり、外国語とその母語話者、文化へのリスペクトなどは持ち合わせていません。そうした「なんとなく中国人っぽい」程度の、文化や言語に対するリスペクトを欠く芸人は、必ず安易に韓国人のモノマネにも手を出します。で、やっていることは中国人のモノマネと全く一緒で、つまり中国語と韓国語の違いをまず理解しておらず、中国と韓国の文化的な差異にも当然興味がなく、端的にいって、中国人と中国語、韓国人と韓国語を軽んじ、ナメているとしか思えません。外国語のモノマネをするならば外国語と外国文化の勉強は必須であり、そのモチベーションは興味とリスペクトが支えるのです。それすらしないモノマネのクオリティの低さは言うまでもなく、多少なりともその言語や文化を知る人間からすると笑えないばかりか腹が立つレベルで、母語話者ならば言わずもがなでしょう。例えばヨーロッパの芸人が、中国人も日本人もたいして変わらないという認識で、中国と同じような発音と同じような行動を日本人のモノマネとして披露するようなものであって、笑う方の知的レベルも知れています。

実際、中川家は全く似てもいない韓国人のマネを次長課長と一緒にやっていますし、まして「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」のみょーちゃん劇団など即刻退場レベルで、制作者含め猛省すべきでしょう。

多少ご存知の方はタモリとそれ以外のクオリティを、ぜひ原語と比較して聴き比べてみてください。

このタモリの技量と教養が活かされた最も有名なネタといえば、やはり「四カ国語麻雀」でしょう。

動画では中国人と韓国人が争っており、タモリ扮する寺山修司と思しき人物がそれを観察していますが、レコードではアメリカ人が加わり、寺山修司のコメントも入っています。寺山以外は、誰とも知れぬ謎の外国人です。

タモリは当初、絶対に表には出せないというほどの過激なアンダーグラウンド芸人として、当時のいわゆる知識人やマスコミ層にもてはやされたのですが、その当時からこのネタは披露されていました。当時のこのネタにおける登場人物は、

マッカーサー、昭和天皇、毛沢東、ヒトラー

であった、つまりそれら4カ国の最高指導者(マッカーサーは軍司令官ですが)たちが麻雀するネタだった、というのはもはや有名な伝説です。レコード化にあたり、全く毒気を抜いた当たり障りのないただの「外国人の麻雀」にアレンジされてしまったわけですが、当初のネタとしては、やはりタブーへの挑戦であったといえます。

タブーや差別、あるいは下品だお下劣だゲテモノだと社会から批判されているようなものを芸として提示し、観客を笑わせることで、規範意識やマナーなどで普段は糊塗し隠している観客の内面を否応なく引っ張り出し、本人に突きつける。これが、タモリのネタが社会的評価を得た理由のひとつであり、日本では稀なブラックユーモアの効用でもあると私は考えています。それを支えるのは、上述のとおり深い教養と高度な技術です。

タモリと当時親交のあった、赤塚不二夫・大橋巨泉・山下洋輔・筒井康隆らの文章やインタビューなどでも、デビュー当初のタモリの過激で強烈な側面は知ることができます。事実、タモリは皇室ネタによって右翼からの脅迫を受け、刑事事件まで経験しています。

外国語以外にも、タモリには「ハナモゲラ語」というネタがあります。

清水ミチコの『歌のアルバム』という作品に「野球中継」というネタが収録されています。「野球を知らない人が野球中継を聞いたらこんな風に聞こえる」という内容の、野球用語をめちゃくちゃにちりばめた中継風のネタですが、却って野球を知っていると笑えます。もちろん面白いですが、ネタとしては、タモリの「ハナモゲラ相撲中継」「ハナモゲラ歌舞伎」の二番煎じになってしまうんですよね

Tamori already did it.

他にもたくさんの例がありますが、「既にタモリがやっている」という代表的な例です。

この「ハナモゲラ語」、大橋巨泉がテレビCMで使ったことでも有名になりました。

なぜ「ハナモゲラ」かというと、もはや完全に消されてしまっていますが、ある病気にかかって「鼻がもげた」人の喋りを真似たことからきている、というこれまた伝説があります。そりゃ表には出せませんし、まあ出たところで全力で否定しますわな。

【追記】私など及ばぬレベルのタモリファンであろう深沢 千尋 (Chihiro FUKAZAWA)さんも回答を寄せられており、「今夜は最高」のこちらの動画を紹介してくださいました。まさかのスリラー!

さて、ある時、こんなアンダーグラウンドのゲテモノ芸人が、どういうわけかフジテレビのお昼番組の司会に抜擢されてしまいます。

『笑っていいとも!』ですね。

以降31年間にわたる司会者としての大活躍は多くの国民が知るとおりです。


私も芸人の末席を汚す者ですが、なんといっても、史上最も尊敬する芸人がタモリです。偶然にもタモリ同様、幼少時から短波ラジオを聴き、独自に外国語や能、歌舞伎、UFO特集、アメリカのシチュエーションコメディなどのモノマネをしてきました。ところが、すべてタモリが大昔にやっていたのです。それを知った時の衝撃たるや。

Tamori already did it.

タモリ後の多くの芸に、実はこれが該当します。それもこれも、とっくにタモリがやってるんですよ。もはや日本芸能史上、タモリに比肩しうる大衆芸能のレジェンドは「出雲阿国」くらいであろうと私は思っています。

伝説の音源を聴き、伝説を語り継ぐ文章を読めば読むほど、アングラ芸人としてタモリが活躍した時代からズレた世代に生まれてしまったことが非常に残念です。

この質問には、リアルタイムにタモリを観てきた多くのタモリファンから、私も知らないような回答がつくでしょう。ぜひぜひ他の回答者の皆様の評価も読んでみてください。タモリは偉大な司会者ではあるでしょうが、それはいわば「A面」であり「昼の顔」であり、タモリの真に偉大なる部分を構成する要素ではないのです。

タモリ本人の意向もおそらくあり、また時代もそれを許さないでしょうから、今後かつての芸が改めて公開されることはないように思いますが、時代を築いた伝説の芸人と同時代に生きている今を幸せに思う次第です。

最後に、タモリの才能を初めて見出し、自宅に住まわせてブレイクまで面倒を見た、恩人・赤塚不二夫の葬儀におけるタモリの伝説の弔辞をどうぞ。手元の紙は白紙です。閲覧数: 2.1万件 · 高評価した人を見る · シェアを見る

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