用語「物流」と用語「人流」の誕生経緯
公開日:
:
最終更新日:2016/11/25
人流 観光 ツーリズム ツーリスト
平成26年度後期の帝京平成大学の授業で「物流論」を担当しています。偶然私にお鉢が回ってきたのですが、ホームページの私の著作物の欄をご覧いただければおわかりいただけるように、私が初めて単行本として出版したものが「経済構造改革と物流」です。閣議決定した物流施策大綱を中心に記述してありますが、すでに20年以上も前のことです。
今回「人流」論議を始めて、改めて用語「物流」の誕生経緯をおさらいしてみました。行政用語として物流については運輸省の組織改正時に貨物流通局を担当しましたのでかなり詳しいつもりでしたが、一般用語としての物流については、初めて勉強させていただくこともありました。この方面に詳しい谷利亨氏にいただいた解説文をHPに掲示してあります(パスワード保護つき)。
経済先進国アメリカでは既に1920年代にphysical distribution の概念が生まれ、戦後高度成長期に日本にも紹介されたのですが、当初は日本に問題意識がないところから日本人には理解できず、適当な邦訳もなかったのです。しかし日本経済もその必要性が高まるとともに、次第に「物的流通」という言葉に収斂してゆきました。一方本家のアメリカではphysical distribution ではなく調達段階も含めたLogistics概念が用いられるように変化してゆきました。Logisticsは軍隊用語ですから、これに対してBusiness Logisticsとも称されたようですが、次第にLogistics単独で用いられ、Businessがつく使用はすたれたようです。
日本ではphysical distributionの概念導入とLogistics概念導入の時期的差異があまりなく、前者が次第に使われなくなっていきましたが、両者の違いを強調することはありませんでした。「物的流通」は、日本語特有の言葉の短縮使用の変化から次第に「物流」へと変化してゆきましたが、同時にLogisticsの邦訳としても用いられるようになりました。この点の、 physical distributionとLogisticsを明確に区分して、邦訳も「物的流通」と「物流」を使い分けたのか、物的流通の短縮形として物流になっていったのかは不明確ですから、研究者が明らかにされるでしょう。
Logistics概念は、兵士の輸送等必ずしも貨物に限定されたものではありませんでしたが、physical distribution の後継語としてLogisticsが使用されるようになると、人的要素が少なくとも研究者の頭からは消滅してしまいました。
ここであらためて、観光に変わる概念として「人流」概念を提唱し、その英訳を Human Logisticsとしている私としては、原語のLogisticsが貨物に限定されていなかったことを強調せざるを得ないことは御理解いただけるでしょう。日本では単純にLogisticsを物流と訳していますが、もともとLogisticsは人的要素を排除していないのです。従って物流は本来non-Human Logistics と訳されるべきであったのでしょう。
関連記事
-
-
保護中: 『植物は知性を持っている』ステファノ・マンクーゾ 動物と植物は5億年前に進化の枝を分かち、動物は他の動植物を探して食べることで栄養を摂取する「移動」、植物は与えられた環境から栄養を引き出す「定住」、を選択した。このことが体構造の違いまでもたらしたらしい。「目で見る能力」ではなく、「光を知覚する能力」と考えれば、植物は視覚を持つ
植物は「動く」 著者は、イタリア人の植物生理学者ステファノ・マンクーゾである。フィレンツェ大学国際
-
-
ブリティッシュコロンビア州バンクーバー
Screenshot[/caption]
-
-
観光とツーリズム~日本大百科全書(ニッポニカ)の解説に関する若干の疑問~
日本大百科全書には観光に関する記述があるが(https://kotobank.jp/word/%E8
-
-
「観光」の持つ語感の例(メモ)
私がスマホで愛用しているNEWSPICKに面白い表現がありました。「こういう人がいると助かるわ。お陰
-
-
二月五日チームネクスト総会講演「総合生活移動産業の今後の展望」(45分)趣旨 人流・観光研究所長 寺前秀一
二月五日チームネクスト総会講演「総合生活移動産業の今後の展望」(45分)趣旨 人流・観光研究所長
-
-
BUSINESS Insider の記事
松尾氏のデープラーニングの話を聞いた後だったので、Business Insiderの下記記事が本
-
-
Human Logistics の語感(東洋大学国際観光学科准教授徳江順一郎氏のと論議)
東洋大学国際観光学科准教授徳江順一郎氏から「人流がHuman Logisticsですか。 一応、マー
-
-
概念「「楽しみ」のための旅」と字句「観光」の遭遇 Encounter of the concept “Travel for pleasure” and the Japanese word “KANKO(観光)”(日本観光研究学会 2016年度秋期大会論文掲載予定原稿)
「「楽しみ」のための旅」概念を表現する字句が、いつごろから発生し、どのように変化していったかを、「「
-
-
保護中: 『「おかげまいり」と「ええじゃないか」』 (岩波新書 青版 680) 藤谷俊雄著
観光学の観点から読んでみた。日本で楽しみの旅の概念がいつごろから発生したかを理解したいからである
