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英国通貨がユーロでない理由 志賀櫻著「日銀発金融危機」

公開日: : 最終更新日:2023/05/29 出版・講義資料, 路銀、為替、金融、財政、税制

 

ポンド危機英国通貨がユーロでない理由

サッチャー政権後期の拡張的金融政策で失業率も改善傾向だったが、ERM参加後に再び悪化し、1992年には10%近くまで失業率が上昇した。景気は大きく後退し、会社の倒産は(1931年以降)記録的なものとなった。そしてウォルターズの予想通りポンドは投機攻撃の対象となった。1990年10月に東西ドイツが統一されて以来、旧西ドイツ政府による旧東ドイツへの投資が増加し、欧州の金利は高目に推移していた。高めの金利は欧州通貨の増価をもたらした。ERMによって欧州通貨と連動したポンドは次第に過大評価されていくことになり、持続可能性を喪失していった。ERMに留まるには英国は金利を上げざるを得なかった。 高金利は英国経済を害した。ルールに反し、ドイツ連邦銀行はポンド防衛にまわらなかった。ここで英国人達の欧州懐疑論が深く心理に残るものになった。これに目をつけたのがジョージ・ソロスである。ソロスは「相場は必ず間違っている」が持論であり、このときもポンド相場が実勢に合わないほど高止まりしていると考えた。そして、ポンドを売り浴びせ、安くなったところで買い戻すという取引を実行することになる。その時の支配的な意見は英国はERMに留まるべきというものだった。当時の首相ジョン・メージャーはERM加入は誤りだったと認めようとせず、ERM離脱は英国の未来の裏切りだと述べた。 イギリスポンドは正式にERMを脱退し、変動相場制へ移行した。 ERMはポンド危機による再編後、1999年には統一通貨ユーロへと結実している。だがリーマンショック後のユーロ圏はPIIGS諸国をはじめ多くの労働者を失業という苦境に追い遣っている。 なお、イギリスはこのユーロに2019年現在も参加していないが、大陸欧州との通貨統合の試みにより不名誉をこうむったポンド危機の記憶と無関係ではない。ソロスの動機はもちろん収益を上げることであり英国を救うというものではなかったが結果的に英国をユーロ圏の外に位置させることになった。

日債銀事件

差し戻しとなった二審では前述の通り、会計の旧基準での査定でも回収できなかったかどうかが問われた。2011年8月30日、東京高裁は無罪判決を下した。飯田喜信裁判長は検察が違法とした査定について経営判断として許されると認定した。検察はこの判決に対して再上告を断念。無罪判決が確定。

ハイ マ ン・ミンスキー

  • 彼の研究は、経済危機の特徴の理解と説明を行うものであった。金融市場における通常のライフサイクルには泡沫的投機バブルによる脆さが内在するとする、金融不安定説の理論を提唱したことで知られる。彼の研究は07年の金融危機に際してウォールストリートで再評価されている。
  • 経済の不安定性は複雑な市場経済が生来的に備えている欠陥であると述べ、金融不安定性の段階を次のように述べている。
    • ①調子のいい時、投資家はリスクを取る。
    • ②どんどんリスクを取る。
    • ③リスクに見合ったリターンが取れなくなる水準まで、リスクを取る。
    • ④何かのショックでリスクが拡大する。
    • ⑤慌てた投資家が資産を売却する。
    • ⑥資産価格が暴落する。
    • ⑦投資家が債務超過に陥り、破産する。
    • ⑧投資家に融資していた銀行が破綻する。
    • ⑨中央銀行が銀行を救済する(‘Minsky Moment’)
    • ⑩1に戻る。
  • 金融には、(1)ヘッジ金融、(2)投機的金融、(3)ポンツィ金融の3つがある。ポンツィとは、1920年代にボストンでねずみ講を組織した詐欺師の名前である。投機的金融やポンツィ金融の比重が高まると、経済は不安定な状態になる、と述べている。

AMAZON 書評

2013年10月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
それでも未だに「デフレは貨幣的現象である」などという素朴なマネタリスト的な言辞を弄する輩がいる。(本書83頁)

タイトルの言辞は、テレビの国会討論でも聞いたように記憶している。
発話者は、あたかも、信仰告白をするかのごとく、キッパリと言い切っていた。
ブレーンのご進講を、しっかりと受け止めたものと思える。

その認識の下に、黒田日銀総裁は誕生した。

 黒田総裁は、若いころから勉強熱心で、英国に留学しているものの、
アメリカの経済学者が教科書に書くような標準的な理論を詳しく学んで、
標準的な政策論を主唱しているようなところがある。
黒田著書に、教条主義的なマンデル=フレミングへの言及が多すぎる点に、
著者が不満を覚える点については既述のとおりである。
 そのような視点からは、ミンスキーのような異端の経済学者が唱える
金融的不安定定性理論までには目が届かない。(本書234頁)

 本書の中で浮かび上がってくるのは、経済の見方についてのはっきりと
対立する2つの捉え方である。
 その第1の見方は、普通に経済学の教科書に書いてあるような、
標準的な国際マクロの枠組みに依処した見方である。
マンデル=フレミング理論を中核として、基本的に経済が均衡することを
暗黙の了解としているところにその特色がある。
  中略
 この第1の見方の依処する理論において最大の欠陥が露呈されるのは、
暴走マネーが引き起こす金融危機の連続という、ここ20年に世界規模で
実際に起こっている事象を説明するフレームワークを持ち合わせない
ということである。
 (本書あとがき269〜270頁)
  中略
 バーナンキらに対比される第2の見方は、金融の不安定性に着目して、
実物経済とは必ずしも関連性を有しないマネーのダイナミズムが、
諸問題の根幹にあることを指摘する理論である。(本書あとがき270頁)

 金融緩和が金融資産の量を膨らませるけれども、それが実物経済に
ほとんどプラスの効果をもたらすことはない。そして、暴走するマネーが
異常に高いリターン・レートのみを追及してマネー・ゲームに狂奔して、
世界規模の経済危機の引き金を引く。バーナンキであれその追従者のクロダであれ、
これについての懸念も予防も考慮すらしようとしない。
 基本となる理論的フレームワークが誤っているか、少なくとも現実の経済においては
既に過去の遺物であることを認識できていないからである。(本書あとがき270頁)

 異次元の金融緩和は、暴走マネーの供給源を増加させるだけのことに終わるであろう。
黒田日銀の政策を続ければ、日本だけでなく、世界中に金融危機が伝播するであろう。(本書248頁)

これが、本書のタイトル「日銀発 金融危機」の由来となったと思われる。
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レポート
seasideoyaji
2014年5月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
12人のお客様がこれが役に立ったと考えています

2013年9月21日に日本でレビュー済み

 
『日銀発金融危機』(志賀櫻著、朝日新聞出版)は、上は一国の総理から下は我々庶民まで、我が国の金融政策に関心を持つ者であれば、直ちに目を通すべき書である。

その理由は、3つある。第1は、日本ならびに海外諸国の過去25年間の経済政策史のポイントを知ることができるからである。第2は、これらの歴史の経緯の表面的なことにとどまらず、裏面まで知ることができるからである。大蔵官僚として政策に直接携わった著者ならではの強みが、存分に発揮されている。第3は、「では、今、必要な政策は何か」という問いに、率直に答えているからである。

一国の経済政策の中核を成すものは、財政政策と金融政策の2つである。この25年間に連続的に起きた世界規模の経済危機の実態は金融危機であり、その原因はマネーの暴走によるものであったのだ。

「アラン・グリースパンは、ITバブルの崩壊に際して金融を大幅に緩和してうまく対処するなど、(FRB)議長に在籍中は名議長として神の如くに崇められていた。アメリカ経済の成功の象徴であるかのようでさえあった。しかしながら、リーマン・ショックを経て、偶像は地に墜ちた。グリーンスパンが高く評価していたファイナンス理論に基づく新しい金融商品が、リーマン・ショックの原因の一部をなしていたことが明らかにされていったからであるし、そもそもリーマン・ショックそのものがグリーンスパンによる金融緩和策の失敗が原因であったことが明らかにされてきたからである。なかんずくグリーンスパンが激賞していたデリバティブ商品であるCDS(クレディット・デフォルト・スワップ)が、リーマン・ショックの原因となっていたことが大きい」。著者の指摘は鋭く、辛辣である。

「『グリースパン・プット』という言葉があるくらいである。その意味は、失敗して大損を出してもグリーンスパンがじゃぶじゃぶの金融政策で損失を補てんしてくれる(から<空>安心である)というものである」。著者は、「グリーンスパン・プットは、『グリーンスパン・バーナンキ・プット』と言われることもある。そのうちに『バーナンキ・クロダ・プット』という新語も見られるようになるかも知れない」と危惧しているのだ。

「ベン・バーナンキなどのニュー・ケインジアン(国際マクロの理論的到達点をベースにして、『裁量的経済政策(景気調整を目的として政府が裁量で実施する政策)』の復権を目指している)は、従来の標準的な教科書に書いてある理論を基にして経済の現状の分析と処方箋を描くから、適切な結論を導くことができない」。「奔流のようなマネーが、実物経済にプラスの効果を持つことは一切なく、ただひたすら金融システムを危機にさらして、結果的にマイナスの効果を持つという状況を分析するフレームワーク(枠組み)を、ニュー・ケインジアンは持っていない」からである。

「ゼロ金利や量的緩和政策からの『出口政策』ということは非常に難しいことである。これはQE3からの出口を模索するバーナンキFRB議長の苦衷を見ても明らかである」。

「本来の資本主義の原動力である金銭に対するあくなき欲望は、よく言えばアニマル・スピリッツであり、その悪の側面を言えばグリード(強欲)である。マネー・ゲームに狂奔し始めた『資本主義の精神』は、グリードの側面がむき出しになっている」。「金融は経済の血液である。狂奔するマネー・ゲームによって暴走を始めたマネーは、その血液の循環システムを破壊する」のだ。

「1998年に金融監督庁(のち金融庁)が大蔵省から切り離されたその日にマーケットは日長銀の襲いかかった。日長銀の株価は2円まで低下して、日長銀はマーケットに引きずり倒された。この年のうちに日長銀は国有化された。金融監督庁の設立に際して、筆者は国際担当参事官として金融監督庁の設立の幹部メンバーであった」。「日長銀が国有化されてみると、日本の惨憺たる金融機関の中でも突出して傷んでいるのは日本債券信用銀行(日債銀)であることが、誰の目にも明らかとなってしまった。これを放置しておくと、日本の金融監督当局の信頼性は失われる。世界各国の金融監督当局は、日本発の世界金融システムのメルトダウンに直面して、顔色を失っていた。・・・柳沢伯夫金融担当大臣はまだ発令前であったが、電話で(国有化の)相談をすると、即座に『やろう』と言ってくれた。・・・野中官房長官もその場で『ゴー』を出してくれた。最後は小渕首相であるが、官邸に行けば目立つので、国会審議中の院内の小部屋で了承をとった。首相は『野中官房長官がいいというならそれでいいよ』と言う。これも即決であった。柳沢大臣は、『志賀クン、小渕内閣は実は野中内閣なんだよ』と言った」。――この現場に立ち会った人間にしか分からない緊迫感も、この本の魅力である。

黒田日銀批判――方法論的批判と政策論的批判――は、痛烈かつ徹底的である。それだけに読み応えがある。「ほとんどバーナンキのコピーのようにも見える」「黒田リフレ政策は誤りであって、副作用を伴う有害無益な裁量的政策措置を、無理矢理発動しているに過ぎない」。返す刀で、「そもそもアベノミクスの3本の矢というアイデアが、非常に脆弱なものである」と切り捨てている。

読者が一番知りたい「黒田リフレ策を否定するのであれば、どうすればよいと言うのか」という問いに対する著者の回答は、何と、「何もするべきでない」というものである。「打つ手はないのだからじっとしているのに限る。突発的な事象に際してのみ臨時の応急措置をとればそれで足りるのであって、じたばたと余計なことをしてさらに事態を悪化させるよりはましである」。「日銀による金融政策は、(前総裁の)白川日銀のレベルにまで後退させるのが適当である。それとも座して死を待つよりは、前に出るべきなのであろうか。帝国海軍はそう言って真珠湾に連合艦隊を送ったことを思わずにはいられない。最終的な審判は後世の経済史家が下すことになるからそれを待つしかない、にしてもである」。――何もしないでも、そのうちに上向きになるから、それを待て、というのだ。

この結論では、あまりに寂しいではないかと思っていたら、「あとがき」にこうあるではないか――処方箋はある。ただし、厄介なことには、経済がグローバル化した今日においては、考えられる処方箋は一国の経済政策の枠組みの内にはとどまらない。国際協調による、グローバル・プルーデンシャル・レギュレーション(国際的な金融機関や市場の健全性維持)と、グローバルな協調によるかなり緊縮的な金融政策である。

著者の主張に賛成か否かを問わず、広く読まれるべき警告の書である。

 

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