韓国・済州島から中国人観光客が激減。次期大統領選の結果次第では回復の兆しも 2017.04.10
公開日:
:
最終更新日:2023/05/20
出版・講義資料
韓国報道によれば、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備への「報復措置」として、中国が韓国への旅行を制限していることで、韓国への中国人観光客が激減している。
日本の韓流ブームの時は日本語で溢れかえっていたソウル・明洞(ミョンドン)のお店の看板という看板がすべて中国語に書き換えられ、観光客を呼び込む声も中国語ばかりとなっていたのも今は昔、ソウルの繁華街には日本人のみならず。中国人の観光客もまばらだ。
中国人観光客に人気のあったスポットが閑散とするなか、国内観光の客足が急激に伸びているところもある。中国人に人気のあった観光リゾート地でもある済州島(チェジュ島)には、中国人観光客は激減したものの、国内観光客が溢れ、観光客数は逆に増加している。
観光リゾート・済州島の嬉しい誤算
韓国人よりも中国人が多くいると言われている、中国の健康用品会社の「パオジェン(宝健)グループ」の名前を引用して名づけられた パオジェン通りもガラガラだ。しかし国内観光客に人気のあるカフェスポット-月汀里(ウォルジョンリ)海岸は今、人でごった返している。
今年に入り、3月末までに済州島を訪れた中国人観光客は43万7千人。昨年比で6万4千人、12.8%減少した。反面、国内観光客数は前年比で23万人も増えている。
しかし問題もある。済州観光公社の資料によれば、昨年中国人観光客の一人当たりの使用金額は175万ウォン(約17万円)なのに対し、国内観光客の使用金額はその3分の1の48万ウォン(約4万5千円)に過ぎない。観光客は増えても売上げは増えず。日本と同じく、韓国でも中国人の爆買い依存の産業システムが仇となっている。
観光が主力産業である済州島では、より多くの国から観光客を呼び寄せるために、日本、台湾、タイ、マレーシアの4か国を対象に、定期航空路線6便を新たに開設するとしている。
政治情勢に敏感な東アジアの観光事情
日本、中国、韓国、北朝鮮、台湾。東アジアのそれぞれの国は、政治的に様々な問題を抱えており、観光産業は度々、その政治の災禍に苛まれる。
日韓関係が急激に冷え込むと同時に韓国の日本人観光客が激減したり、尖閣諸島の問題等、日中間の外交問題となれば、訪日中国人の数にも影響したりする。中国と台湾も然り。北朝鮮も韓国との軋轢により、韓国で人気のあった北朝鮮ツアー(金剛山見学ツアー)も中止されて久しい。
ただ今回の韓国・大統領選の結果によっては、東アジアの観光事情も大きく変化する可能性もある。現在、大統領選の調査結果のトップを走る文在寅(ムン・ジェイン)候補や次点にまで大きく躍進した安哲秀(アン・チョルス)候補も、親北の人とされ、北朝鮮との関係が大きく改善されると言われている。逆に同盟国であるアメリカや日本とは距離を置く政策をとるといわれており、中国との距離も今よりは改善される可能性が高い。韓国の観光産業にとっては、今回の大統領選が大きな転機になるのは間違いないだろう。
一方、日本は、独自の日本文化をウリに欧米諸国からの観光が毎年伸びているが、政府が掲げる観光立国のためには、やはり東アジアの近隣国の観光客は「お得意さん」であってほしい事情もある。
中国人観光客が激減した韓国では、今回の事態が、中国人の爆買い依存からの脱却を図る良いチャンスだという声も聞かれ、新たな観光資源開発を積極的に行っていこうという動きが出てきた。中国人観光客の日本観光が有名スポット巡りから小さな日本文化体験に至るまで、グルッと一回りした現在、近隣国にどのようにアピールしていくのかも注目だ。
関連記事
-
動画で考える人流観光学 『ビルマ敗戦行記』(岩波新書)2022年8月27日
明日2022年8月28日から9月12日までインド・パキスタン旅行を計画。ムンバイ、アウランガバード
-
保護中: 蓮池透『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』
アマゾン書評 本書を読むに連れ安倍晋三とその取巻き政治家・官僚の身勝手さと自分たちの利権・宣伝
-
Quora 物語などによくあるように、中世ヨーロッパの貴族たちは国民から搾取してすごく贅沢な暮らしをしていたのですか?
中世に今日と同じ意味での「国民」はまだ存在しません。領主が農民を支配し、領主同士に主従関係
-
渡辺惣樹著『第二次世界大戦 アメリカの敗北』
対独戦争をあくまで回避するべきと主張したチェンバレンら英国保守層 対独戦争は膨大な国力を消費し、アメ
-
『日本語スタンダードの歴史』野村剛士は、「日本の話しことばについて」『現代国語三』所収 木下順二著1963年を否定
私の自説に、日常と非日常が相対化しており、観光資源もあいまいになってきているというアイデアがある
-
日本社会党・総評の軌跡と内実 (20人のオーラル・ヒストリー) 単行本 – 2019/4/8 五十嵐 仁 (著), 木下 真志 (著), 法政大学大原社会問題研究所 (著)
港区図書館の蔵書にあり、閲覧。国鉄再建に関し、「公共企業体(国鉄)職員にスト権を与えるか否か」の政府
-
保阪正康氏の講演録と西浦進氏の著作物等を読んで
日中韓の観光政策研究を進める上で、現在問題になっている「歴史認識」問題を調べざるを得ない。従って、戦
-
フェリックス・マーティン著「21世紀の貨幣論」をよんで
観光を理解する上では「脳」「満足」「価値」「マネー」が不可欠であるが、なかなか理解するには骨が折れる
-
『ミルクと日本人』武田尚子著
「こんな強烈な匂いと味なのに、お茶に入れて飲むなんて!」牛乳を飲む英国人を見た日本人の言葉である。