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動画で考える人流観光学講義(開志)2023年11月20日 観光資源➃

公開日: : 最終更新日:2023/11/19 動画で考える人流観光学

教科書図

認識と規制が生み出す観光資源

1 認識が生み出す観光資源
「死生観」と観光
全ての観光資源は人の認識が生み出すものであり、脳、心が生み出すものである。計算能力を持つ人の脳は将来を予測することができ、死を認識出来る心を持つようになった。死の認識は恐怖を生み出すとともに、観光資源となる芸術、宗教を生み出した。
人類にとって死は日常のものであったが、次第に非日常化していった。しかし必ず訪れるという意味での日常性は今も昔も変わりはない。近世の商人は五十歳までは稼ぐことと享楽に専念し、その後死の心配をした。寿命の延びた現代はこれから団塊の世代が後期高齢期に突入する。いやおうなしに死生観に関心を抱かざるを得なくなり、観光対象も死生観に関連するものに集中してゆく。死について知識として知っているということと自分自身に起きている死の現実の間には、恐怖を巡り越えがたい落差があるからだ。老化現象とともに必ず「宗教」に戻っていくのである

魔女、呪術と観光

ホーソンの『緋文字』の舞台となったセーラムでは、「セーラム魔女博物館」がテレビドラマ「奥さまは魔女」のサマンサの像とともに多くの観光客を迎えている。ハロウィーンとハリーポッター世代には、教会主導の魔女狩りにより、数百万人が犠牲になったことなど想像もできないことなのである。1970年代になって、近世の魔女迫害の主たる原動力が教会や世俗権力ではなく民衆の側にあったことが明らかにされた。カトリックの権威が揺らぎ、宗教改革から陰惨な宗教戦争に至る時期であった。十五世紀から十八世紀までに全欧州で推定四万人から六万人が処刑された。権力基盤の確立した大規模領邦では激化せず、小領邦ほど激しい魔女狩りが行われていたことは、現代のホロコーストの発生にも通じるものがある。
制度としての妖術行為の禁止は、1951年に詐欺的霊媒行為禁止令に取って代わられるまで英国では存続していた。英国の法制度を導入したイスラエルでは、現在でも施行されている。現代インド社会では、東部の農村地帯を中心に魔術を使ったとして殺害された被害者が百名を超えている。人間が魔法などの
超自然的な力を持つと信じることは、アラーへの冒涜であるとされており、アラーへの冒涜には死刑が適用される。日本の中世社会でも呪詛が実体的に機能していた。天皇や将軍の護持僧は莫大な財と膨大な労力をかけて呪詛防御の祈祷を行っていた。顕密仏教(Ⓗ高野山)が受け入れられた要因として、効果の期待出来る医薬品等の使用とともに、呪詛を正当化する高度な理論があったからである。ブードゥー教や各地のシャーマンの儀式は観光資源になっている。日本でも、恐山のイタコや京都貴船神社の丑の刻参りが伝承されている。現代は、呪詛は不能犯であるが、律令時代は犯罪であった。

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◎規制と人流ビジネスの関係

観光対象を、人を動かす力を発生させるものという整理によって理解すれば、観光資源の考え方もそれに対応して考えることとなる。近年のハイフンツーリズム(なんでも観光)の傾向とも一致する。日常と非日常の間にあるのは「差異の有無」である。暮らし方や自然の差異は文化や風景の違いとなってあらわれるが、規制が生み出す差異は規制逃れを発生させ、人を動かす力となる。観光「政策」の対象とはなり得ないが、観光ビジネスの対象にはなり得る。世間でいう闇の観光の対象となり得るのである。この点の認識が不明確な研究論文が散見されるから気を付けないといけない。
観光が非日常体験とすれば、日常を規制することにより非日常資源が生み出され、規制制度により観光資源が発生する。賭博、風俗、麻薬、暴力等は刑法等により禁止されており、これらが可能となるのは特別法による。
構造改革特区方式による規制緩和も同様である。その一方で交通・通信手段の発達が国内の規制制度を形骸化させる。外国やオンラインでのカジノ体験が代表である。観光資源は絶えず規制制度と表裏の関係にあるのである。

禁酒法

 買物特区
旅具通関制度等、国境を超える旅行に伴う買い物に制度的特例が設けられることは通例である。1964年オリンピック東京大会開催の年、外客の宿泊等に対し、料理飲食等消費税の非課税措置が講じられた。1999年長野オリンピック冬季競技大会でも同様に、特別地方消費税の非課税措置が講じられた。税という規制制度の一部解除を行うことにより「人を移動させる力」を期待したのである。

沖縄振興特別措置法による税制上の措置も同様である。本土復帰前は、面倒な渡航手続きとドル使用により、本土観光客にとっての沖縄旅行は海外旅行気分を与えたが、1964年の日本人海外渡航自由化により、この沖縄買物観光への打撃が予想された。遺族たちは戦跡巡礼だけではなく、廉価な外国産商品を購入する観光客でもあった。そのため同法は、復帰後一貫して観光振興のための免税等について規定を設けている。関税暫定法により関税が一定限度免除される制度である。他国の例では、マン島、アンドラ公国等が政策的に行っており、免税店が基幹産業となっている。

賭博

刑法は賭博及び富籤に関する罪を規定する。賭博、富籤販売が禁止されることから賭博等が制度的に非日常となり、観光資源化する。明らかに刑法に抵触することから、特別法により合法化されているものが、いわゆる公営ギャンブルであり、競馬法(1948年)自転車競技法(1948年)小型自動車競走法(1950年)モーターボート競走法(1951年)スポーツ振興投票の実施等に関する法律(1999年)により合法化されている。売上高(2017年度)は、馬が三兆三千億円、競艇が二兆二千億円である。モーターボート競走法は観光に関する事業の振興を目的とすることを明文化している。いわゆる宝くじは当せん金附証票法(1948年)により合法化されている。これらの制度趣旨は、産業振興、スポーツ振興であり、海外のゲーミング法の趣旨も観光振興・地域振興となっている。なお、平成二十八年カジノ法が制定された。具体的な実施施策は今後の課題である。なお、パチンコ(二十兆円)は、景品がその場で消費の用に供するものを対象としており、しかも換金はパチンコ経営者以外の者により行われること(三店方式)から刑法の賭博罪には該当しないとされている。

風俗、猥褻
人類にとって性行為は日常行為であるが、未成年、病気、暴力団等の対策等の理由による規制により
非日常化され、観光資源化している。社会常識の変化による規制の運用緩和によりヘアヌード等が合法
化され、わざわざ海外まで出かける観光資源とはならなくなってしまった。日本では売春防止法があり、
売春自体は犯罪とされていないものの、管理売春等が犯罪とされている。海外においては合法的に管理
売春を行うことが可能な地域も存在し、管理売春が非日常である日本在住者にとって、観光資源となっ
ている。風俗営業及び性風俗関連特殊営業等は「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健
全な育成に障害を及ぼす行為を防止する」ため、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」
により規制を受ける。同法が規定する「風俗営業」は「客の接待をして客に飲食をさせる営業」であり、
「接待」とは「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」であり、まさに古典的な観光産業
との認識にたっている。

薬物

薬物は使用も販売も刑法等で禁止されているが、薬物を求めて移動する人がいるから、観光資源であ
る。観光政策論の対象にはならないが、観光行動、観光資源の対象ではある。大麻の取締は国によって
異なるところから、差異があり、その差異を求めて人は移動する。アヘンは江戸では咳止め、痛み止め
の薬として普通に売られていたが、嗜好品としては大々的に広まっていなかった。幕府は清国でのアヘ
ン蔓延の状況に強く危機感を感じており、取り締まりを厳しく行い、概ね水際で食い止めることに成功
していた。この幕府の方針は、開国後の米英蘭仏露との条約(第1編第4節注参照)締結の際も維持さ
れており、条文にアヘン輸入禁止の文言を入れることに成功している。
明治政府は1868年にアヘン禁令を布告し、1870年9月にはアヘン使用・売買を重罪とする法律を作っ
た。その後1879年に明治政府は、国内外のアヘンを医療用として独占的に購入し、許可された薬局のみ
で販売するアヘン専売法を施行した。内地では一貫してアヘンを禁止していたが、植民地での大量生産、
植民地向けの販売拡大により莫大な収益を上げており、日中戦争の戦費に活用されていた。
松本俊彦によれば、WHO等の国際機関は個人的な薬物使用を非犯罪化して、刑罰でなく医療と健康
福祉サービスの対象とすべきとして、これを支持する科学的エビデンスが数多く出ており、国際的な潮
流となっている(『公研』No.681)。

飲食物

保冷技術の向上と物流のコンテナ革命等により、食材はグローバル化し、地域の名産とされるものが
世界中のどこでも入手可能となっている。それだけに食材の規制制度が観光資源を生み出す力となって
いる。ブランド化もそれを保護する規制制度により価値を維持するものである。和食のブランド化も推
進されているが、日本の農産物は安全で農業の基準が厳しいという思い込みも指摘されている。食材を
輸出して相手国の基準が日本より厳しいことに気が付くことが多く、否認されるレベルにまでなってし
まっている。その代表例がコメに含まれる無機ヒ素問題である(畝山智香子・松永和紀対談「食の安全
とリスクを考える」『公研』2016年6月号)。
飲食物の規制制度の代表格である米国禁酒法は、1920年から1933年まで憲法修正第18条下において
施行され、消費のためのアルコールの製造、販売、輸送が全面的に禁止された。現在でも公海上を航行
する便宜置籍船において賭博等が行われているのは禁酒法が始まりである。なお、禁酒法の廃止による
余剰取締官(FBI)はその後の大麻取締対策に振り向けられることとなった。

該都道府県内のみでしか通用しない。このため、地域により「裏メニュー」的に提供され、中毒事件が表ざたになることがある。コカ、ビンロウ等国により取り扱いの異なる嗜好品が存在し、観光資源化している。その代表例が大麻であり、従来からソフトドラッグとハードドラッグを分けて考えるオランダ、カナダ、ニュージーランドに代表されるように、その使用は公衆衛生の問題とし、犯罪ではないとする国、地域があり、結果的に観光資源化されている。

動物虐待、暴力等

スマホやビデオゲームがない時代、欧州では人々は楽しみのため、暇つぶしのために、ブラッド・スポーツに興じていた。狐潰し、Goose pulling、Rat-baitingと呼ばれるものであるが、現在は多くの地域で禁止されている。進化の過程で動物も意識、感情を獲得していることが理解されてきた。霊長類や鯨等に限らず、魚類も鏡に映った自分を自分だと認識することが動物社会学で明らかにされつつある。そのため観光資源としての動物の取り扱いにも変化が見られる。1948年東京都は闘犬・闘鶏・闘牛取締条例を制定し、犬、鶏、牛その他の動物を互に闘わせてはならないとし、違反すれば五万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処すると規定した。その一方で新潟県旧山古志村の牛の角突き(闘牛)は重要無形民俗文化財に指定され、観光資源となっている。日本では闘牛、闘犬は存在するが、闘鶏は行われていない。日本で規制すれば規制のない国の観光資源となる。現にフィリピンでは闘鶏が観光資源として行われている。沖縄県で開催されていた「ハブとマングースの決闘ショー」は、その残酷さが多くの人の批判を呼び、動物愛護の観点から問題ありとして、1999年以降行われていない。スペインのバルセロナ市は「反闘牛都市」を宣言している。スコットランド議会は「野生哺乳類保護法」(狐狩り法)を可決しているが、狐狩りは英国農村の伝統文化、都市住民の感情的議論で禁止するのは不公平との反発があると報道されている。銃の使用も観光対象となっている。我が国では銃砲刀剣類所持等取締法で規制されているから、グアム島の射撃場では日本人相手の観光資源となったのである。暴力もボクシングの合法化により観光資源化してきた。決闘罪ニ関スル件(1889年)は決闘すること自体を処罰する法律であるが、時代、地域においては決闘が合法である場合もあった。ボクシングとレスリングやキックボクシングの選手が両者の取り決めたルールで競技を行う異種格闘技が実施された。運営の仕方如何では死者が出る可能性があったが、そのリスクが高い分だけ刺激性に富み、観光興行としては価値が高まったのである。

 

介護、操縦免許等の資格

国家を前提とすれば当然国家間に制度的な差異が発生する。相互主義、多国間条約によりその差異を
なくすことが行われている。
海外で取得した資格が日本でも通用する場合に、人を移動させる力になる。航空機操縦免許の取得が
代表例である。EUに含まれる国の医師免許等があれば、EU内のどの国でもその資格が有効に取り扱わ
れる。従って、資格取得のための移動が人流の大きな力となる。

医療等

人が高度な医療を求めて移動することは自然である。しかし、医療「ツーリズム」論議においては、
全額自己負担で高い診療費を支払う外国人患者が優先的に扱われることになる点、混合診療の全面解禁
につながる点において「心配している」と日本医師会会長はコメントしている。実際のところ医療ビザ
もほとんど活用されていない。この点について、上昌広及び川渕孝一は対談(『公研』2017年3月号「高
齢化社会の医療のあり方」)において、医療費のコストを一番下げるのは移民であるとし、移民の看護
師、介護士、ドクターを採れば、人件費は圧倒的に下がるし、不足も緩和されるとする。日本国内の医
師不足の論議は日本医師会がためにする論議であり、EU内共通免許が取得出来るところから東欧の医
学部に三百人以上の日本人が行っている。コストの安いところで学び、欧州で働くのである。両氏は「日
本人が中国の医師免許を取ったらそのまま日本で使えるとは言わないまでも、少なくとも予備試験のチャ
ンスくらいは与えたらどうか」「中国で医師免許を取った日本人は、日本で働かずに東南アジアに進出」
とし、規制が生み出す人流が、規制の壁を低くする効果が期待出来るとする。米国観光協会のCHINA:
SUMMARY INBOUND TRAVEL MARKET PROFILE (2015年)でも、渡米してきている留学生、
医療目的の旅行者も旅行市場に組み込んで考えている。
臓器移植、出産、死亡等に関わる地域の制度は、当該地域の宗教、道徳等に依拠して判断されるもので
あり、当然地域間の差異が存在する。その差異を活用して人を移動させる医療ツーリズムが発想され始め
ているが、拡大するとすれば世界共通基準が求められることとなり、差異がなくなることにつながってゆく

 

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